勝者5人目:伊藤華英(第7回)
人生プラスマイナスゼロで、理想の葬式を迎えたい
2016/2/21
現役時代、私はいつも自分のトレーニングがしやすい環境をつくっていました。
たとえば、後輩の中からストレッチの相手、一緒にご飯を食べに行く相手、練習相手などを選んで、それぞれに役割を担ってもらっていたんです。
もちろん、「あなたは私のストレッチのパートナーね」と表立って指名するわけではありません。そうしてしまうと、「役割を全うしなきゃいけない」と思い始める真面目な子もいるので、勝手に自分の中で役目を割り振っていました。
意識してというよりも、気がつけば自分の心地よい空間をつくっていたのですが、その効果は小さくなかったと思います。
相互で理想関係構築
勝手に役割を与えられていた後輩には申し訳ないけれど、私はやってもらうことも、やってあげることも含めて、プラスマイナスゼロを目指しています。実際はプラスじゃなくても、雰囲気として「プラスかも」と思えることが重要で、お互いが何かしたときに「あれをやってあげて良かったな」と思える関係が理想です。
たとえば、私がこっそりとある役目を与えていた後輩は、自分の結婚式のときに、私宛てに「あなたがいたからきつい練習も乗り越えられたし、トップレベルの中で自分の存在を見いだすことができました」と手紙をくれました。
その手紙を見て、お互いに「あのときは、ありがとう」と思える関係性で良かったとホッとしました。
人間は一人では生きられない
当たり前のことですが、人間は一人では生きられないので、いろいろなことを教えてくれる人、相談できる人、応援してくれる人がいるなら、その人たちにとってプラスになることを発信したいなと思います。そうしたらギブ&テイクで、みんな一緒になる。みんながマイナスにもプラスにもならない状態をつくっていきたいんです。
もし仕事をもらったのであれば、そこの仕事を一生懸命やることは当たり前で、その後のつながりで返せることはないかなと考えます。
きれいごとに聞こえるかもしれないけれど、本当に何かできないかなと思います。
みんなで一緒に何かをやりたい
逆に、もし現役でセカンドキャリアに悩んでいる選手がいたら、助けてあげたい。実際、「やめたらおいでよ、何か一緒にやろうよ」と声をかけている子は何人かいます。
私は今、大学院で学んでいますが、論文だって一人では書けません。いろんな先生や学生の方に、意見を求めています。
何をするにしても、自分だけが得をしようと思うと、最終的には絶対に損すると思うんです。
自分のお葬式のときに、プラスマイナスゼロの状態になるように生きていきたいですね。
(聞き手:為末大、構成:川内イオ、撮影:TOBI)
*続きは明日掲載します