冨山和彦、平将明らに聞く「私が学生だったら選びたい職業」

2016/2/15
2015年12月2日に虎ノ門ヒルズにて開催された「Asia Innovation Forum」。NPO法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ(理事長・出井伸之)が主催するこのイベントでは、マクロ経済や地政学、テクノロジーなどさまざまな議論が交わされた。
その中で、クロージングセッションの「展望2025 未来への提言」では、元ソニーCEO出井伸之氏をはじめとして平将明氏、黒川清氏、冨山和彦氏、木村茂樹氏、佐渡島庸平氏が、2025年の日本と世界のあり方を語り合った。本連載ではこのイベントのレポートを5回にわたりお届けする。

肩書きよりも仕事の中身が重要

佐渡島 皆さんとともに、2025年の未来に向けて、今果たすべきことを考えていきたいと思います。最初はわかりやすく、あえて卑近な例からお伺いしていきましょう。もし皆さんがいま学生だったら、どういう職業を選ぶかお聞かせください。
木村 私は大学を出てすぐ、国家公務員として当時の大蔵省に入りましたが、もし現在学生だったら、その選択はしていないだろうと思います。
では何を選ぶかというと、一つは中小企業です。今の仕事をしている中で、中小企業の方とお会いすること多いのですが、本当に優れたテクノロジーを持っていることが多い。
けれどその生かし方やお金を稼ぐ、あるいは調達する方法がわからない。日本の産業の強さは中小企業に秘められたものが多い。そこに自分で入っていくことが考えられます。
もう一つは、逆張り的に、たとえば大日本印刷のような、一般には斜陽と考えられている事業をメインにする企業も面白いと思います。
デジタルコンテンツの広がりによって、紙印刷のニーズが減るなか、これまでの蓄積を生かして新たな取り組みをやらなければいけないと必死になっている。そういう「何かが起きそう」なところにはチャンスがあると思います。
木村茂樹氏(国際協力銀行執行役員・産業ファイナンス部門長)
黒川 突然ですが皆さん、1999年の大晦日は何をしていましたか? 私は東海大学の学部長をしていて、病院と救急のことなどいわゆる「2000年問題」でみんなピリピリしていました。2000年にはG8のサミットが日本で行われましたが、そのときアジェンダは「IT」と「結核、マラリア、HIV/AIDS」でした。
たった15年前の話なのに、隔世の感があります。あのときに、現在のような世の中になると想像できたでしょうか。さらに、これからの10年ではもっと変化は加速します。産業革命以来のパラダイムの終わりが近づいてきて、まったく新しいパラダイムになる、大変化の時代です。
たとえば国民国家は「終わりの始まり」でしょう。企業、NGOなどの組織から個人まですべてがグローバル化している中で、戦っていかなければならない。「東大卒」の肩書きは当然意味を持たない。
なので今、大学生に戻ったら、どこに就職したいかじゃなくて、何をやりたいかを軸に職業を選びます。今は大転換の時代で、何が起こるかわからない。自分の心に訴えかけるような問題を見つけて、それに取り組むことが大切です。
大事なことは、学生の間に「個人」としての海外生活を経験しておくことです。海外に出てしばらく過ごせば、日本のことも違った感性で感じ取れるようになります。日本のトイレはすごいけど、その違いは別に役に立たないな、とかも含めて(笑)、その中で自分がやりたいことにも、ぶつかることができるかもしれません。
黒川清氏(政策研究大学院大学客員教授・日本医療政策機構代表理事)

プラットフォームとしての政治

平 私はもう一度政治家をやります。国会議員になってから気がついたのですが、あまりライバルがいないんです。世襲とか官僚出身の議員が多く自由に発想できる人が少ないので。当選さえできればですが、非常に競争しやすい環境です。
日本は法治国家である以上、法律をつくる、法律を変えることが社会を変える一番の方法になります。法律をつくらなくとも運用を変えるだけでも大きな違いになります。
国家戦略特区やベンチャー支援をやっていると、世の中にたくさんのイノベーションが起きて大きく変わっているのに、法律が何十年も変わっていないから「できない」、という場面に多々遭遇しました。
じゃあ法律を変えなきゃと、民間の人が役所に行っても、多くの場合は冷たくあしらわれてしまいます。一方で、私は政治家で最近副大臣をしていましたので、おかしいと指摘すればかなり動かすことができる。
政治に関わることで、世の中を変えられることは非常に多いのです。だからこそ、もっと政治を志す人が集まってほしい。
平将明氏(衆議院議員・前内閣府副大臣)
佐渡島 議論になると面白いと思って質問するのですが、先の黒川さんが話された国民国家が溶けていくという内容を受けて、政治は今後いかにして力を持ち得ていくのでしょうか。
冨山 国民国家というのは、そもそもそんなに古いものではありません。たしか17世紀のウェストファリア条約の頃からのものなので、たかだか300年程度の歴史しかない。あくまでその時代の条件に合った「道具」として生まれたものです。
だからつい最近の生成物である国民国家という仕組みが、未来永劫続いていくと思うことは逆に不自然でしょう。
一方で政治は、そのずっと前からあります。そう考えると、国民国家が「溶けていく」という現象は、政治としては面白い。平さんのようなアントレプレナーシップを持った政治家にとっては、こんなに面白い時代はないでしょうね。
冨山和彦氏(経営共創基盤CEO)
平 私は、国家はプラットフォームだと思います。国家は国内外の企業や人が、いろいろな種を持ち寄って、蒔いて、いろんな果実を実らせる場所です。
これには、プラットフォームとしての国家の合理的な運営が必要なのです。たとえば、財政をどうするといった議論でも、いわゆるP/L、B/S、資金繰りを見ての国家のマネジメントなんてほとんどできていません。
「大きな政府」「小さな政府」といった議論ではなく、さまざまなビジネスを呼び込む「賢い政府」「スマートな国家」を作っていかなければならない。それを担える人材がいまの政治の世界には少ない。だから私は楽しいです……(笑)。

業界の将来予測は不可能

冨山 僕は変わったチョイスを30年以上前の大学卒業時にしています。在学中に司法試験に受かったけれど、ボストン コンサルティング グループ(BCG)という、当時は吹けば飛ぶような20人くらいの中小外資系コンサルティングに就職しました。
大学生の子どもにも言っていますが、これから30年、40年生きていくうえで、将来はわからない。どの業界がうまくいくとか、うまくいかないとかは予測不可能なのです。なので、気がついたら自分の足で立っていかざるを得ない状況が、人生では起きえます。
僕は、高尚な志を持って司法試験を受けたのではなくて、最悪の状況でも食いつないでいけるための資格を取るために受けました。
結局、ビジネスの方に関心があったので、じゃあビジネスのことを何となく知ることができるかな、そう考えてBCGを選択した。おそらく、今の環境で同じようなことを考えれば、可能性が一番低いのは大企業に就職することでしょうね。
佐渡島 いわゆる就職活動に意味がないように聞こえてしまいますね。
冨山 僕らが就職活動をした30年前、非製造業の一番人気は日本航空でした。金融の一番人気が、たしか日本興業銀行。この銀行は吸収合併されて、日本航空もご存じの通りです。だから、就職人気ランキングなんてものは、まああてにならないですね。
これから変化がますます加速する中で、従来なら30年間かかって潰れる会社が、5年で潰れる可能性があります。「○○自動車」だってわからない(笑)。そのへんは、出井さんが一番リアルに感じているはずですが、どうでしょう。

会社より自分のためにどう働くか

出井 人間は変わり続けなければいけません。会社のために働くのではなくて、自分のためにどうしたら面白いかを基準に、会社を選ぶべきです。
仮説を持ってとりあえず入社し、ダメだったらすぐやめればいい。名前のある会社に入って親から喜ばれても、大きい会社は繰り返しの仕事が多くて、それだけだと何とも気の毒。
僕は早稲田大学の在学時代、雑誌の『東洋経済』で東京通信工業(ソニーの前身)を調べて、「人が足りていない、ここなら活躍できる」と思って入りました。入った当時、売り上げが100億円もない会社でしたが、辞めたときには8兆円になっていました。
当時は、せっかく早稲田を出たなら、もっといい会社=大企業に行くべきだと言われましたが、そんな風に小さな会社を選んで、結果的にたまたまよかったわけです。自由奔放な会社だったから、勝手なことをやって楽しくやれましたね。
出井伸之氏(クオンタムリーブ代表取締役ファウンダー&CEO)
(構成:小西悠介、青葉亮、協力:NPO法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ)