コミュニティ・マネージャーの業務は多岐にわたる
世界最大口コミサービス「イェルプ」のプロに会ってきた
2016/2/14
西海岸のカルチャーの中心地といえば、ロサンゼルス(LA)。ハリウッドなどエンタメの中心でもあるLAでは、新しいトレンドが次々と生まれてくる。一方で、日本に入ってくるLA情報は、どうしても表面的で美化されがち。現地のリアリティがうまく伝わってこない。LAで暮らす駐在員妻の著者が、現地からLAのトレンドとそのリアルを伝えていく。
コミュニティ・マネージャーとは
LA住民が愛用する、クチコミサービス「Yelp(イェルプ)」。
前回の記事では、彼らのサービスが世界規模にまで成長した理由に、各都市で地道なコミュニティづくりを重ねてきたことをご紹介しました。
ユーザーを育て、レビューを促し、ファン同士をつなぐ役割を果たしているのが「コミュニティ・マネージャー」です。
いったいどんな人なのか。
LA地区を担当するKatieさんに、イェルプのメッセージ機能を通じて連絡したところ、送信から1時間も経たないうちに返信が。「ちょうど近々、イェルプのヘビーユーザーたちを集めたイベントをやるので、よかったら遊びに来て!」。
“エリート”のイベントに潜入!
レストランや小売店、病院などのクチコミが投稿できるイェルプ。期間限定のイベント情報も掲載でき、LA地区では現在800件近く登録されています。
その中にある「イェルプ公式イベント」の企画・運営が、コミュニティ・マネージャーの重要な仕事の一つです。
誰でも申し込めるものもありますが、毎月1回設けられる「エリート限定イベント」は、イェルプの認定を受けたヘビーユーザーだけが招かれるもの。つまり、サービスに貢献するユーザーへの特典として、位置付けられているのです。
特に今回のイベントの目的を、Katieさんは「エリートに選ばれて間もない人たちの交流」と設定していました。
この日の会場は、オーガニック・サラダの専門店「sweetgreen」。
東海岸を中心に展開するチェーンの40店舗目、ハリウッド店です。
昼と夕方の2回行われたイベントのうち、お招きを受けたのは夕方の部。20人ほどの参加者たちとともに店に入ると、Katieさんがお出迎え。「なんでも好きなメニューを注文してね!」とのことで、イベントの参加費は無料、飲食代も店側が負担してくれました。
イベントに会場提供する意味
sweetgreenのメニューの中心は、8〜11ドル(900円〜1230円)のサラダで、サブウェイのサンドイッチのようにカウンターで注文します。
サラダの材料のほとんどは、近隣の農家から仕入れたオーガニック野菜です。LAでは食の安全に対する意識が高まっており、食材の品質や、トレーサビリティ(流通履歴)をアピールポイントにしたチェーン店が増えているのです。
Sweetgreenの店舗は、西海岸ではまだLAにある3店のみ。ここから周辺地域を攻めようとする彼らは、「食材へのこだわりを知ってほしい」と、発信力のあるイェルプ・ユーザーのイベント開催を打診したのだとか。
エリートのイベントには、こうした企業からのアプローチも多いとのこと。Katieさんはこれまでにも、飲食店やフィットネスジムなどの協力を受け、店舗のサービスをオープン前に体験できるイベントなどを手がけてきたといいます。
オン・オフライン問わず交流深める
今回の参加者の約9割は、これがエリート・イベントへの初参加でした。事前に全員の顔と名前を記憶し、エリート同士の会話のモデレーター役も務めるKatieさん。
彼女の細やかな配慮は、イベントの終わりまで続きます。食事を終えた参加者を、一人ひとりハグしてお見送り。音楽好きな人たちには店の近所のレコード屋を、コーヒー好きのグループには評判のカフェをお勧めし、店舗情報をシェアします。
「関心分野が近い人同士が仲良くなって、お互いをフォローしあえば、これからも関係が続いていく。オンラインでもオフラインでも、交流を深めてほしいのです」
建設的コミュニティのために
「イェルプはオープンしたての小規模な店でも、良いサービスを提供すれば顧客が集まるしくみを作りました。店を利用したユーザーのリアルな声は、ビジネスオーナーへの応援になるし、サービスの改善にもつながるのです」
ユーザーにもビジネスオーナーにも役立つ、建設的なレビューを共有するコミュニティ。その実現のために、Katieさんが挙げたイェルプ全体の取り組みをまとめると──。
・レビューのガイドラインを定める
「良いレビューとは?」その基準がブレないように明文化。「ほかの消費者にとって役に立つ情報」「一般論や噂でなく、自身の経験に基づくこと」などとしています。
・ビジネスオーナー側もコメント可能に
ユーザーとの行き違いが生じ、正しくないレビューが書かれた場合に、ビジネスオーナー側から公開/非公開でコメントを加えられます。
誹謗中傷や嘘のあるレビューや、不正レビューを投稿する業者を見つけた場合など、イェルプがどう対処するか、ケース別に説明。
こうしたルールにより、たとえば今回のイベントで受けたサービスについて、エリートたちはイベントのページにはレビューを投稿できるもの、店舗のページには書き込めません。
「店を気に入れば、エリートたちは自腹で再度サービスを体験して、レビューしますから」とKatieさん。そして、これらの取り組みはすべて「レビューの透明性を保つため」。
一部報道にあるような、ビジネス側が広告費を支払う、あるいは広告掲載をやめることで、レビューが操作されるのは「あり得ない」と断言していました。
コミュニティ・マネージャーの役割とは?
LAで生まれ育ち、この街が大好きだと語るKatieさんは、2009年にコミュニティ・マネージャーに採用されるまで、イェルプのエリートとして活躍。新しくオープンした店を探しては、女子会の幹事をやっていたといい、「趣味がそのまま仕事になった」と笑います。
イベントの運営以外にも、コミュニティ・マネージャーの業務は多岐にわたる、とのこと。
彼女にどんな目標が課せられているのか、具体的な指標などは明かされませんでしたが、“LAのコミュニティを活性化できたか”が評価されるのだとか。
LAのイェルプ・コミュニティ活性化のために、Katieさんがやっていることは──。
・良いレビューを率先して投稿
「コミュニティ・マネージャーの役割を端的にいうと、ユーザーにやってほしいと思うことを、自ら率先してやること」。そう語るKatieさん自身も、週に5レビュー、写真や動画などを週15本は投稿。特にオープンしたての店には率先して足を運び、呼び水となるようなレビューを書くように心がけているのだとか。
・ノウハウの共有
写真撮影のコツなどを公式ブログで解説することも。
・投稿されたレビューへのフィードバック
投稿されたレビューを読み込むのも仕事のうち。ユーザーのモチベーションを高めるため、よいレビューには称賛メッセージを送ったり、週1回のメールマガジンで紹介したりします。
・エリートの発掘
サービスを盛り上げてくれるユーザーを見つけたら、彼女のほうからアプローチしてエリートに推薦することも。
マネタイズが今後の課題に
今月8日、イェルプの2015年第4四半期の決算が発表されると、売り上げは伸びたものの、1株当たりの利益が予想を下回ったことから、株価が下落しました。
イェルプの課題は、これまで注力して育ててきたコミュニティを、いかに収益につなげるかにありそうです。
マンハッタン・ベンチャー・パートナーズのエコノミスト、Wolff氏は「イェルプはいいユーザーが集まっている。都市部でアクティブなライフスタイルを楽しむユーザーを囲い込めている」と、そのポテンシャルを評価。
また、イェルプに限らずツイッターやスナップチャットなど、ユーザーが投稿するコンテンツを収益に変えるのに苦戦している企業は多い、と指摘しました。
2017年には10億ドルの収益目標を掲げるイェルプ。現在の収益のほとんどがローカルビジネスの広告収入ですが、フードデリバリー(EAT24)やレストランのオンライン予約(SeatMe・Yelp Reservation)といったサービスを強化していくのか。
LA住民が愛用するイェルプには、なんとか成長のカギを見つけてほしい……。Katieさんにハグされながら、その思いを強くしたのでした。
*本連載は毎週日曜日に掲載予定です。