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リアルタイムざっくりASEAN No.24

マレーシア発ヘルステックベンチャーBookDoc。医療予約難民を救えるか

2016/1/27
NewsPicks編集部のASEAN専門家で、SPEEDAのアジア・エコノミストも務める川端隆史が注目のニュースをピックアップ。コンパクトにまとめた解説記事を毎週、月・水・金にお届け。ASEANの基礎理解は、「ざっくりASEAN」をお読みください。
3つのポイント(BookDoc)

ベンチャー起業に沸くマレーシア

東南アジア各地でベンチャー起業が生まれていますが、特にマレーシアでは国内外から注目されるスタートアップが目立ちます。

急成長している起業ではタクシー配車アプリ「マイ・テクシー」が有名です。マレーシア国外では「グラブ・タクシー」と呼ばれており、こちらの名称のほうが広く知られています。

配車アプリと言えばUber(ウーバー)が有名ですが、筆者の肌感覚としては、クアラルンプールではグラブ・タクシーのほうがよく使われている印象です。

*関連記事:2015年10月8日「配車アプリ体験記 in マレーシア。ウーバー vs. グラブ・タクシー

ブルネイ王族がベンチャー投資に参画

マレーシアのスタートアップ界隈では、今、ブルネイ王族がベンチャー投資の第1号案件を決定したことが話題になっています。

ブルネイのハサナル・ボルキア国王は、石油と天然ガスを収入源とする世界有数の富豪として知られます。

1月18日、その甥であるアブドゥル・カウィ王子率いるベンチャーキャピタルがマレーシアのヘルステック系企業BookDocに投資を決定しました。

具体的な金額は未公表ですが、「米ドルで7桁」と報じられています。つまり、最低でも約1億2000万円規模の出資ということにとなります。

王族によるベンチャー投資は、中東でもすでに行われています。資源収入をバックに豊富な資金を持つアジアや中東の王族による投資は、今後もその動向を注目すべきでしょう。

医療サービスの「予約難民」を回避

BookDocは2015年8月に若手起業家シェイビ・べー氏が創業し、医師の診察を予約することができるアプリの開発と販売を手がけています。べー氏は若くして大手BPヘルスケアグループの執行役員を経験した後に起業しています。また、アプリの名前は、「医師=Doctor」を「予約する=Booking」が由来です。

ベー氏はグルーポン・マレーシアの創業者で知られるジョエル・ノー・ユージン氏と共にBookDocを起業

ベー氏はグルーポン・マレーシアの創業者で知られるジョエル・ノー・ユージン氏とともにBookDocを起業

BookDocはマレーシアの医療事情を踏まえて、かゆいところに手が届くサービスを目指しています。

マレーシアの医療水準は比較的高いと言えますが、待ち時間に問題があります。

公立病院は慢性的に長時間待ちです。私立病院はどうかと言えば、料金は高くなりますが、予約制で時間をかけて診療を受けることができます。

ただ、1人当たり国内総生産(GDP)が1万ドルを突破し、豊かになったマレーシアの人々は、私立病院での受診を好む傾向にあります。そのため、私立病院も予約が混み合う状況になっています。

こうした状況を鑑みて、アプリやオンラインによる予約サービスを始めている私立病院もあります。しかし、受診したい人はいちいち各病院の予約サービスに当たらなければならず、手続きが面倒です。その揚げ句に、希望の時間でうまく予約が取れないこともあり得ます。

そこでBookDocの出番です。BookDocの強みは、複数の提携病院の中から一度で検索できるという点です。

また、オンライン予約やアプリに対応していない病院にとっては、BookDocと提携することで、独自にサービスを用意する手間とコストを省くことも可能です。

BookDocは医師にとってのメリットもあります。

マレーシアの場合、私立病院の医師は日本とは異なり病院に雇われているわけではありません。病院の部屋と基本的な医療設備を借りて入居し、それぞれの医師が独立して経営をします。

そのため、BookDocを活用して診療時間中の空き時間を極力減らし、多くの患者を診ることは売り上げアップにつながるのです。

患者と医師をつなぐがサービスのコンセプト

「患者と医師をつなぐ」がサービスのコンセプト

理想のアプリとして成功するか

ここまでがBookDocの特徴です。ビジネスとして成功するには快適な操作性や、より利便性を高めるためのアップデートの継続など、スマホアプリに必要な条件を満たしていく必要があります。

もちろん、提携の医療機関も急ピッチで拡大していく必要があります。アプリで検索したけれど見つからないという結果が続けば、ユーザーはすぐに離れてしまいます。

サイムダービーグループなどマレーシアの大手医療機関がBookDocと提携し始めていますが、まだ十分ではありません。

BookDocの公式サイトでは、シンガポール、香港、インドネシア、タイ、フィリピンでビジネス開発担当者やマネージャーの求人を掲載しています。こうした国々もマレーシアと同じように、私立病院の待ち時間が長時間化するなど、予約で煩わしい問題が生じています。

東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の移動は日本の国内移動と大差ないとはいえ、創業からわずか半年程度ですでに外国展開を開始しているとは驚くべきスピード感です。

ただ、国が違えばビジネスリスクも変わります。創業半年で開始した外国展開が吉と出るか、凶と出るか……。

BookDocは話題のスタートアップとして知名度が上がっていますが、事業はこれからが正念場。ブルネイ王族からの投資で得た「7桁」の投資を活用して、急成長することができるかが注目されます。

(画像:BookDoc提供)