創価学会 、悩む巨大宗教〜「常識化」の代償で薄まる教義色〜
2016/01/25, AERA
過激な布教活動でかつて、社会問題を起こしてきた創価学会。信者の高齢化と減少が止まらない中、変貌を図っている。目指すのは重厚な信仰よりも、「現世利益」による緩やかな連帯だ。
1月初旬、都内私鉄沿線の一角。創価学会青年部のマナベさん(仮名・37)は、同じ地区の高校2年生のアキラさん(仮名)のもとを訪れた。マンションの一室のドアを開けると、ジャージー姿のアキラさんが現れた。
「学校、始まったんだっけ?」
「はい……。まだ2日ですが」
「そっか。来月、部員会があるけど、大丈夫そう?」
「あ、はい」
硬い表情でアキラさんが応じる。玄関先での会話は5分。信仰の話は特にせず、あっさりマナベさんは辞去した。
「部員会」とは学会員世帯の高校生以下の子女らが所属する「未来部」の会合のこと。春からアキラさんが3年生になるため、近く未来部での役職の相談をしたいという話だった。
淡泊な家庭訪問
拍子抜けするほど淡泊な時間だったが、マナベさんはこれが「家庭訪問」なのだと説明した。
「基本的に家庭訪問はきっかけのようなもので、長くは話しません。数多く接していく中で、いつか向こうが発心(信心への目覚め)してくれればいいかなという活動です」
ただし、おおむね40歳以下でつくる青年部の立場としての危機感もあると続ける。マナベさん自身、昨年1年間で新会員は1人も入れられなかった。
「いまは少子化で学会でも若手が少なくなってきています。未来部の子を励ますのは、僕ら青年部の役目だと思います」
公称会員世帯827万を誇る創価学会。日本の新宗教では最大クラスの団体だが、ここも日本の宿痾、少子高齢化を免れることはできない。
もとより学会は年配者が多く、若年層が少ない「逆ピラミッド」型の人員構成とされる。この先、年配者の世代が減っていけば、教勢も衰えていく。
昨年、創価学会は創立85周年を迎えたが、教勢が急拡大したのは終戦からの30年間である。多くは、地方から都市部に出てきた「金の卵」=中卒労働者であり、戦後まもなく生まれた団塊世代だった。
貧困や病からの脱却を目指し、本尊を拝むと願いがかなう。そんな「現世利益」を掲げたことが、上京して孤立していた若者の心をつかんだ。
1980年代に入ると、教勢の拡大は緩やかになる一方、同じ家での二世、三世といった次世代へと継承されてきた。
だが、この次世代継承がうまくいっているかと言えば、必ずしもそうとは言えない。
2002年に札幌市で行われた調査がある。札幌には日本唯一の創価幼稚園があり、熱心な会員は少なくない。
子への信仰継承は6割
調査によると、子どもへの信仰継承率は活動的な会員世帯でも約6割。逆に言えば、約4割の家庭では子どもに信仰が継承されていなかったことになる。
調査をした龍谷大学の猪瀬優理・准教授が補足する。
「調査で対象としたのは“活動的な”学会員。さほど活動的ではない会員世帯を含めると、受け継がれない世帯は5割以上ではなかったかと思われます」
だとすれば、次世代をどう育成するかが今後の鍵となる。
「そうした状況はわれわれのほうでもよく認識しています」
学会本部の幹部、青年部長を務める橋元太郎氏(41)が語る。
「だからこそ、地域のブロック組織の中で若い世代を育成する努力をしています」
例えば、小学生の少年少女部では合唱団が練習に励み、中高生の中等、高等部では年に数回、研修会が催されているという。
それでも、子どもたちは関心が移ろいやすく、日ごろから丁寧に目配りをしないと信仰から遠ざかりかねない。そこで重要なのが、冒頭のような「家庭訪問」だと、学会本部の石黒正司未来本部長(55)が言う。
「自分のことを考えてくれる、親ではない第三者がいる。それを認識できるだけで、学会への印象はかなり違うと思います」
逆に言えば、次世代確保のためには、そこまでしなくてはいけないということだろう。
かつて、学会による布教活動といえば「折伏」だった。教義などで相手を論破して学会の教義に導く激しい活動のことで、多くの会員を獲得する力になった。だが、その強引さゆえに各地で軋轢を生んだ。
若い世代への継承に折伏を使わないのか。尋ねると、橋元氏はやや恐縮したような表情で答えた。
「いまやかつてのような、所構わずの折伏はしません。もうそういう時代ではないからです」
ただ、一切折伏をやめたわけではありません、と急いで言い添えた。
「池田(大作)名誉会長も“創価学会は永遠に折伏の団体である”と言われ、折伏が大事なことは変わりません。しかし、周りから奇異に思われてはいけないし、地域で信頼を勝ち得ていかなければいけない。すると、草創期のような過激なことはできない。学会も宗教団体として常識的になってきたわけです」
そして、学会はいまも変化しつつあります、と続けた。
若い人たちはそんな「変化し」「常識的になった」学会しか知らないかもしれないが、もとより学会は長く世間を騒がせてきた宗教団体だった。
拡大は池田氏の功績
その端緒は、1951年から第2代会長戸田城聖氏が進めた「折伏大行進」という会員獲得活動だ。当時は数千世帯だった学会は、会員75万世帯を目標に掲げ、強烈な折伏運動を展開した。入会を迷う人を取り囲んで軟禁、他宗派の人とのいさかい、他の新興宗教からの引きはがし。過激な運動に世間は眉根を寄せた。
元公明党副委員長の二見伸明氏(80)が当時を振り返る。
「折伏大行進は激しかった。創価学会は唯一無二の思想で日蓮大聖人の教えがあり、それ以外は邪教だとみんなが熱くなって活動した。だから各地で問題となったわけです」
そして60年に池田氏が第3代会長に就任すると、会員は10年間で750万世帯まで広がった。
学会において池田氏は別格の地位にある。機関紙の聖教新聞などを開けば、何十年も前の出来事が昨日のことのように繰り返し記事化される。
そんな池田氏には大きな功績が三つある。学会内の堅牢な組織の構築、政党・公明党の旗揚げ、そして次世代会員を育成する教育機関の設立だ。
組織面では、小さな地域を単位とし、同年代や同性で活動できるヨコ組織を確立して全国に広めた。婦人部や青年部などがそれに当たる。
社会問題化の歴史も
政界進出では、61年に公明政治連盟として活動を開始。選挙支援活動が地域組織の求心力を維持し、人間関係を緊密にするという副次的な効果ももたらした。
そして教育では、小中高一貫教育を行う創価学園を東京と大阪に、さらに創価大学を設立。学会の理念を体現し、忠実な幹部を育成していった。現在公明党副代表の北側一雄氏は創価大の1期生。池田氏の思惑通り、創価大卒業生は学会の要職に就いている。
どの試みも創価学会という組織を維持・発展させるためのアイデアで、池田氏は組織運営の天才だったこともわかる。
その一方で、学会のアグレッシブな教勢拡大活動は多くの社会問題を引き起こしてきた。
「昔の学会は武闘派ぞろいだった。熱心だし、不寛容だし、排他的。それがいいと思っていたんだから、手に負えないね」
70代の古参会員は笑って、過去の学会を懐かしんだ。
69年の言論出版妨害事件(著者や取次店などに圧力をかけて言論活動を妨害)、翌年の宮本顕治氏宅盗聴事件(当時の共産党委員長宅を学会顧問弁護士らが盗聴)など、当時の過激な活動は枚挙にいとまがない。
前述の古参会員によれば、そんなふうに過激に動いた理由は内部論理にあるという。
「会員が気にしていたのは地域の人事。公明党候補者の票集めと同様、内部の力学で競争になる。地域の男子部長や青年部長ともなれば、それなりに結果を出さなければいけなかった」
ところが、90年代後半からそうした極端な振る舞いが影を潜めていく。変化の理由について尋ねると、青年部長の橋元氏は二つの要因を挙げた。
一つは91年、日蓮正宗から「破門」されたこと。もうひとつは公明党の政権への参画だ。
「日蓮正宗からの独立は大きかった。それまでは伝統仏教的な儀式行事も多く、教条主義でもあったが、宗門からの独立で縛られなくなった」
その結果、仏法の本義といった教義の解釈も再構築。すると振る舞いも変わっていった。
「たとえば他宗教への関わり。以前は神社の鳥居すらくぐってはいけなかったが、こうした姿勢を改めた。池田名誉会長が他の宗教者と対話を重ねていく中で、私たちは自らのドグマに陥ってはいけないとわかった」
徐々に薄まる宗教色
公明党も、政権を批判して自らの理想を訴えていた野党時代から、93年の細川連立政権、99年の小渕内閣の自自公を経て現在の自公体制へと移行し、与党として定着。その過程で公明党は自民党との妥協を重ねるとともに、学会も宗教法人として穏やかな団体へと変化した。
リアルな政治とつきあうことで「常識的」な団体になったとも言えるが、宗教団体としての本質をダメにしたという見方もある。
90年代後半に学会から距離を置いた前出の二見氏も、当時学会の変化を痛感した一人だ。
「宗教は本来、人生における理想を語るはず。なのに、学会は日常的な現世利益を語るようになった。地域振興券といった政策実現で実利を得たのが大きい。昔から現世利益は学会の方針だが、与党政治と結ぶことで、学会は宗教としても俗物化した。それは非常に残念に思う」
宗教団体の変質という面では、近年でも大胆な変化があった。14年11月の「教義条項の変更」。学会は、宗教法人の核である「本尊」を変更した。
「教義条項にいう『御本尊』とは創価学会が受持の対象として認定した御本尊であり、大謗法の地にある弘安2年の御本尊は受持の対象にはいたしません」(「大白蓮華」15年4月号)
学会の原田稔会長はそう趣旨説明をし、創立以来掲げてきた「弘安2年(1279年)の大御本尊」を認めない判断を下した。91年の離脱で日蓮正宗の総本山に祭られている本尊を拝めなくなってしまったためだ。
本尊という宗教の本質で独自路線を掲げたことで、ある種の割り切りも見てとれる。もはや本尊がなくても組織は回るという宣言とも言えるからだ。
関連団体でも、次第に宗教色が薄れてきた傾向が見てとれる。顕著なのが創価大学だ。
2年ほど前、大学通信の安田賢治常務はある進学相談催事に呼ばれ、受験生親子から相談を受けた。安田氏が東京の仏教系大学を勧めると、母親は、
「仏教系というのはちょっと……」
とためらった。すると、その母親が冊子を見ながら言った。
「あら、この創価大って、いいんじゃないかしら」
安田氏は驚いた。
「その親子は創価大が仏教系とも創価学会のことも知らなかった。そういう時代なのかと」
近年、創価大は「おトクな大学」と評される。偏差値では50前後だが就職率は高く、就職先も有名企業が増えているからだ。昨春の就職先を見ても、日本IBM(18人)、日本郵便(11人)、第一生命保険(9人)、三菱東京UFJ銀行(6人)と有名企業が並ぶ。
創価大キャリアセンター長の長谷部秀孝教授が説明する。
「1年次からのキャリア教育と、生活面も含めた徹底した面倒見のよさ。それと後輩思いの卒業生の取り組み。これは他大学にはない強みだと思います」
大事なのは人との関係
創価大企画広報課の上田大作氏が補足する。
「ある石油大手には、開学以来女性の学生が誰も入っていなかったが、ある年次の学生が頑張って採用された。そうして実績ができると、後輩への道が開けるかもしれない。後進のため、との伝統は創価大学ならではです」
それは「学会員枠」確保のためかと尋ねると、上田氏は「まったく関係ない」と返した。
「確かに創立者は池田名誉会長で、建学の精神の碑もある。また、学会員のご家庭も多いとは思います。しかし、学会と大学は別法人。学生の何割が会員かも大学は把握していない。ただ母校愛が強いことは確かです」
学内のあちこちに池田氏が撮った写真を飾り、池田氏の書籍を置き、池田氏の名を冠した建物もあるのに、学会との結びつきを極力薄くみせようとするのには、どこか違和感があった。だが、上田氏は繰り返し学会との結びつきを否定した。
よく考えると、そんな宗教色を薄めようとする方針は、当の学会にもあるように思えた。
学会の活動では最重要行事が月1回の「座談会」だという。座談会は創立のころから一貫して続けられている活動で、いまでも各地域の家庭で行われている。数人〜数十人が集まり、1時間程度語り合う。
この会合で語られるのは基本的には自分の身の上話で、それに対して周囲は激励や賛美という褒め言葉で応じるという。
橋元青年部長が言う。
「とにかく褒めます。それだけで人は自己肯定感をもてる。励ましの絆ができる。まして若い世代なら効果は大きい。信心も大事ですが、まずはそうした人との関係が大事なんです」
同じような意見はほかでも複数耳にした。
仏法の意義より、人のつながり=コミュニティーの重要さ。学会が向かっているのは、そんなありふれたコミュニティーであるように映る。過激な折伏をやめ、常識的に行動し、本尊も変更して、宗教色を薄めながら、みんなで肯定しあうコミュニティーを維持する──。そこに宗教ならではの教義はまるで浮かんでこなかった。
教義面を薄くすれば入会のハードルは下がり、新しい会員が増える可能性も高まる。少子化という苦境の中、若者をどう獲得するか。組織を維持し、職員3千人を養うため、学会の模索は続いている。
(取材・文:ジャーナリスト 森健、AERA編集部 作田裕史、写真:今村拓馬)
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コメント
注目のコメント
あまり体系的に知らなかったので面白いですね。高齢化という課題もなるほど。拡大を支えたのは地方から出てきた中卒の金の卵だったとのことで、辛い労働を耐えるために必要だったとすれば、ある意味では日本の経済成長を支えた存在だったのかもですが、仮にそういう人に響く教義だとすると今の若者に響かないのも納得だし、見方によっては時代のなかでの役割を終えたとも見えるかもしれません
そのなかでも、家庭内での継承率6割ってすごい数字。記事では低いものとしてかかれてますが、ちょっと恐ろしさも感じてしまう数字ですが、キリスト教とかは普通引き継ぐものだと思えばそんなものなのか、と評価が難しいところでもありますこの記事ではあまり触れられてませんが、創価学会の凄みは、少子化・人口減少を見越してか、かねてより、かなり力を入れて取り組んでいる「海外展開」だと思います。
元夫妻のオーランド・ブルームやミランダ―カーなどの芸能人などの話が有名ですが、それこそ、統一教会などに取られてたまるかと?(本当に思っているかどうかはともかく・・・)、隣の韓国はもちろん、中南米などの遠くでも、かなり積極的に活動している印象です。トップも、海外大学の名誉博士とか、取り(買い?)まくってますし。
ちなみに、記事に出ている青年局長の橋元君は、大学のゼミの同期で、少し前にランチした際の話では、やはり、海外展開にもとても熱心でした。
私自身は、教義その他、ほぼ不勉強で何も知りませんが、ポスト池田大作後の動きが鍵だろうと、アウトサイダーながら、多少の興味を持って見てます。