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「グーグルはフォードを貪り食ってしまうだろう」

グーグルをはじめとするテクノロジー企業が自動車産業への参入を始めている。そして、自動車メーカーのなかには、こうしたテクノロジー企業と提携しようとする動きもある。

しかし、モルガン・スタンレーのアナリストであるアダム・ジョナスは、フォードやトヨタといった自動車メーカーは、こうしたテクノロジー企業の動きを、自社にとっての成長の機会というよりは命取りにもなりかねない脅威と見なすべきだと語っている。

ジョナスは、1月13日にデトロイトで開かれた「オートモーティブ・ニューズ」のカンファレンスにおいてこう述べた。

「自動車業界では、人間が運転する時代の終焉、個人が自動車を所有する時代の終焉、内燃エンジンの時代の終焉、そして自動車ディーラーの時代の終焉が話題になっている。けれども、実際のビジネスは旧態依然だ」

また同氏は、(アルファベット傘下の)グーグルは比較的早い時期にフォードと提携を結ぶ可能性があるが、グーグルにとっての主な目的は、フォードが世界中の路上に送り出してきた大量の車から得た知恵を手に入れることにある、とも述べた。

事情に詳しいある人物が2015年12月に語ったところによれば、フォードとグーグルは相互協力についての協議を行っており、グーグルの自動運転技術を使って自動車を製造するジョイントベンチャーの可能性も検討されている。

「グーグルはフォードを宿主として利用し、やがては貪り食ってしまうだろう」と、同カンファレンスで講演したジョナスは席上で行われたインタビューで語った。

グーグルの広報ジョニー・ルーはジョナスのこうした指摘についてコメントを拒否し、トヨタの広報スティーブ・カーティスも同様だった。フォードの担当者、アラン・ホールは、その場でのコメントを避けた。

ゴーンCEO「もっとセクシーで魅力的な車を作る」

とはいえ、すべての自動車メーカーが、自動運転車やカーシェアリングの分野での提携に関心を向けているわけではない。

日産とルノーの両社の経営を担うカルロス・ゴーンCEOは1月12日、ドライバーがパーソナライズできる高度なコネクテッドカーを用いたカーシェアリングの台頭に対して、同社は反撃していくつもりだと語った。

この談話の数日前、ゼネラル・モーターズはライドシェアリング・サービスのリフトに5億ドルを出資したと発表した。一方ゴーンCEOは、ウーバーやリフトのような会社が自動車業界に及ぼす経済的影響は、さほど大きなものではないとの見方を示した。

「このトレンドに乗るつもりはない」とゴーンCEOは、デトロイトで開催中のモーターショーでインタビューに応えて述べた。「我々はもっとずっとセクシーで、さらに魅力的な車を作るつもりだ。それに人々がどう反応するかを楽しみにしたい」

ジョナスによれば、自動車メーカーが抱える根本的な問題は、いまだに乗用車やトラックを売ることしか考えず「人々が移動する」という行為に目を向けていないことだという。

「現在、自動車を買った人はそれを走らせ、給油し、メンテナンスしながら使い続ける」と、同氏は語る。「そして『7年後に会おう。そのときにはまた、カローラを大特価で買わせてもらうよ』と言うのだ」

ただし、販売された車の大部分は、実際に使われている時間が総寿命のうちたった3%にすぎず、残りの時間は駐車場で眠っている、とジョナスは指摘する。

トヨタが未達成の売上をウーバーは達成できるか

一方、ジョナスによると、グーグルとアップルは車の販売や整備、修理、保険だけでなく、ドライバーが車内ですごす時間の使い方も含めると、年間14兆ドル規模とされる市場の全体に関心を示している。

グーグルは、ドライバーが「閉じ込められた」状態になる車内空間へ、データやエンターテイメント、インターネット接続を送り込むことを望んでいる。アップルも同様に、ハードウェアとサービスを売りたがっていると同氏は言う。

そして、トヨタが70年をかけても達成できなかった年間2500億ドルの市場売上を、ウーバーのようなライドシェアリング企業であれば向こう2、3年以内に達成できるかもしれない。ジョナスがそう考える理由も、これらの企業がそうした時間に着目していることにある。

ジョナスの講演に先立つ1月12日、グーグルの自動運転車部門を率いるジョン・クラフチックは、前述のデトロイトでのカンファレンスで、同社の自動運転車の最終目標は、交通事故を減らしたり、高齢者や障害を持つ人々の移動手段の幅を広げたりすることにあり、広告収入を増やすことではないと述べた。

トヨタなどの自動車メーカーはこれまで、ジョナスが言うところのグーグルなどがもたらす「脅威」に対する反応が鈍かった。なぜなら、従来型の自動車ビジネスは、きわめて多くの時間、労力、資金を必要とするからだ、と同氏は言う。

「自動車メーカーは、同時に2つの戦線で戦おうとしている」とジョナス氏は語る。「次の景気後退が到来したとき、戦況はひどく悪化することになるだろう」

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:John Lippert、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:Jasper Juinen/Bloomberg)

©2016 Bloomberg News

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