いわきFC・大倉智社長インタビュー(後編)
スタジアムビジネスで人も投資も呼び込む。地方問題の新解決策
2016/1/18
アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社「ドーム」が、福島県いわき市に新クラブを立ち上げた。いったい彼らはどんなビジョンを描いているのか。いわきFCの大倉智社長に話を聞いた。
前編:アンダーアーマー日本総代理店がクラブ創設。夢と勝算
いわき市の潜在能力
──新たに建設されるいわきFCの施設は、いわき市のどのあたりに位置するのでしょうか。
大倉:湯本インターの出口から近い場所で、東京から車で約2時間半の距離です。いわき駅からは10kmほどで、ハワイアンズからは2kmくらいですね。
──サッカークラブの規模は人口に比例すると言われています。いわき市の人口規模をどう見ていますか。
いわき市は32万人、隣の郡山は33万人で、両方を合わせた約60万人のホームタウンでやるという案も検討しました。
しかし、アメリカのプロスポーツを見ると、そんなに大きな街ではなくてもしっかりと集客できている。2〜3万人のスタジアムならば、いわき市の人口で十分に満員にできると考えています。
スタジアムは市内のアクセスがいい場所を候補地にしており、サッカーだけでなく、コンサートの会場にして、街おこしの中心としていきたいです。
8部からJ1までの道のり
──100億円のクラブにするということですが、何年スパンで計画を立てているのでしょうか。
福島県2部からスタートすると、県1部、東北2部・1部、JFL、J3、J2と、J1に上がるまでに最短でも7年かかります。
2020年東京五輪が終わるまでに、しっかりとベースを築いて、一つずつ着実に階段を上がっていきたい。同時にいわき市の人たちにしっかりと認知していただいて、このプロジェクトがみんなに浸透していくようにしたいです。
資材が高騰しているので、五輪後に費用が落ち着いた頃にスタジアムを建設することを考えています。
ただ、指導者は大事なので、最初から一流の人材を呼びます。オランダのサッカーにこだわり、サンフレッチェ広島で2年間プレーしたオランダ人のピーター・ハウストラを招聘することになりました。
選手としてオランダ代表経験があり、監督としてフローニンゲンやデフラースハップを率いてきた。日本をよくわかっているし、トップ強化や育成、指導者講習、すべてをできる人材です。
物流センターで選手に仕事を提供
──選手たちは最初はアマチュア契約でしょうか。
はい、基本的に午前に練習して、午後にクラブハウス横の物流センターで仕事をします。そのサイクルを回していくうちに、プロ選手も出てくるでしょう。
今、Jリーグの2部や3部では月給が5万円、10万円しかもらえず、生活が苦しいという問題があります。いわきFCの場合、物流センターで働けるのでその部分を解決できる。同時に職業的な人材育成もして、セカンドキャリアの対策にもなる。
──それはクラブとして大きな強みですね。
午前に練習して、昼は物流センターに併設されたカフェで栄養の取れた食事を摂り、午後は仕事をする。で、夜にまた食事。引退後、物流センターの職員になる選択肢はもちろん、努力次第で本社に進める可能性もあります。
湘南への感謝
──湘南ベルマーレを離れるのはつらい決断だったのではないでしょうか。
今回、誰にも相談しないで決めました。長年付き合ってきた曺貴裁監督にも相談してません。なぜかといえば、あまりにも大きな決断なので、誰かに相談すると躊躇(ちゅうちょ)してしまうと思ったからです。
昨季、湘南の1部残留が見えた時に、眞壁潔会長に新たな道に進むことを伝えました。会社にも、チームにも迷惑をかけてしまったと思います。ただ、1部残留という目標を果たし、一度きりの人生、次の挑戦をしたいという思いが強くなっていきました。
湘南での11年間がなければ今の自分はない。クラブ、サポーター、スポンサー、街の人たちには本当に感謝しかありません。
全国の自治体のお手本に
──ほかのJリーグのクラブからもオファーがありましたか。
はい。ただ、今回いわきFCを選んだのは、アンダーアーマーおよびドームなら、閉塞感のあるJリーグを変えられるかもしれないと感じたからです。自分がやらなければ、日本サッカー界にとってマイナスになるのではないか。自分勝手かもしれませんが、そんな志とともに決断しました。
いわきFCがスタジアムビジネスは儲かるということを示せれば、全国の自治体の考え方も変わると思う。地価も上がり、投資家も呼び込めるはず。
地方の都市は若者離れ、医療の過疎化が問題になっていますが、街に誇れるスタジアムがあって、まわりに高層ビルが建って成長のシンボルになれば、きっと人も集まる。そんなムーブメントをいわき市から生み出したいです。
(写真:福田俊介)