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ファイターズの球団経営【3回】

女子目線で古い社会が変化。新ファン層が野球界を活性化させる

2015/12/25

2015年、プロ野球全体の観客動員数は史上最多の2432万人を記録した。12球団ともに客足を伸ばす中、大きな原動力となっているのが野球女子だ。

北海道日本ハムファイターズはとりわけ女性率が高く、多いときには札幌ドームに詰めかけるファンの6割以上になるという。

若い女性がムーブメントを創出

新庄剛志やダルビッシュ有(現レンジャーズ)などイケメン選手の影響もあり、もともと女性ファンは多かったが、2014年から球団として特に力を入れ始めた。その理由について、事業統括本部の小崎将史氏が説明する。

「ファイターズが北海道に来て、まだ12年。僕らの同世代(30代)にとって、子どもだった頃には北海道に球団がないわけです。そういう人に『ファイターズが来たので好きになってください』と言っても、しんどい部分がありますよね」

「ファイターズにとってF1層(20〜34歳の女性)は最も届いていない部分だったので、球場に来てもらえるように取り組み始めました。若年女性が世の中のムーブメントをつくり出すことは多いですし、そうした人たちに来ていただかないと、全体として道民の方がファンになっていただいたとはいえないのではと考えました」

グラウンドでノック体験イベントを楽しむ女性ファンたち

グラウンドでノック体験イベントを楽しむ女性ファンたち

キーワードは感情移入

若年女性は球場での消費傾向が強く、男性を伴った来場も期待できる。かつ、将来的にはファミリー層になる可能性もある。

一方、ファイターズのファン層で多いのは50、60代の女性だ。この層を維持しつつ、どうやって新規ファンを獲得していくのか。その方策について、コンシューマービジネス部マーケティンググループの佐藤拓氏が説明する。

「50、60代にとって、自分の息子は20代や30代。ファンが『選手を自分が育てている』みたいに感情移入できるように、チームに新しい選手が出てきたときには情報をたくさん出すなど工夫しています。隣の人に、『浅間(大基)選手って、こうなんだよ』という感情の持ち方をしてもらうような仕掛けです」

選手がテレビや雑誌に出る際には、野球以外のパーソナルな面も伝わるように意識している。たとえば、好きな食べ物や趣味などのプライベートを選手の口から発信するような企画を提案し、身近な存在として感じてもらうのだ。

当然だが、男性と女性では趣味嗜好(しこう)が異なる。古くから男社会の野球場に新規ファンを呼ぶには、女性目線も必要だ。そうした発想から2014年に生まれた企画の一つが、女子大生DAYだった。

女子大生DAYに訪れたファイターズ女子たち

女子大生DAYに訪れたファイターズ女子たち。ピンクが札幌ドームを彩った

地元女子大生と企画、運営

一緒に企画立案、運営を行った女子大生団体「Girlpedia北海道支部」は、野球場をあまりにも敷居の高い場所だと感じていた。チケットの購入方法を知らなければ、どんな格好で行けばいいかもわからない。

女子大生DAYが行われる前、一度レフト側の席に招待すると、ガチンコの応援風景に圧倒されていた。

「私たちはできれば、同世代で騒ぎたい」

そうした要望からつくられたのが、女子大生シートだった。普段は立ち見をできない外野スタンド側の一角に特別席を設け、「仲間内で楽しみたい」という女子大生たちに用意した。

女子目線の球場ガイドを冊子にまとめ、私服姿の選手たちを掲載。女子大生がデザインしたオリジナルTシャツとチケットをセット(2000円)で限定300枚発売、選手のおふくろの味フードコートやファッションショーを開催すると、好評を博した。

このイベントと女子高生DAYが人気となり、2015年にはウーマンズフェスタに発展している。ガールズユニフォームの発売や「彼氏にしたい選手No.1決定戦」の投票などが行われ、札幌ドームは華やかな雰囲気に包まれた。

ウーマンズフェスタ2015で行われた「彼氏にしたい選手No.1決定戦」には約8000人が投票し、中島卓也選手が1位に輝いた

ウーマンズフェスタ2015で行われた「彼氏にしたい選手No.1決定戦」には約8000人が投票し、中島卓也選手が1位に輝いた

それぞれ楽しみ、SNSで共有

こうしたイベントをきっかけに、球場を訪れたファンの中から“常連”が生まれている。それをよく表すのが、満員の観衆で埋まったときのスタンドだ。

白が基調のホーム用ユニフォームを着るファンがいれば、「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」で配った紫カラーを身につけた者もいる。ピンクのユニフォームと花冠で着飾った女性や、レジェンドシリーズでプレゼントしたタンクトップを着こなす少年ファンも見られる。こうした光景こそ、ファイターズの特徴だと小崎氏は語る。

「一糸乱れぬ応援もいいですけど、ファイターズファンはそれぞれ楽しみ方を持っていて、でも、みんなでチームを応援しています。それをSNSでシェアしたり、ネタにしたり、2015年は『これがファイターズの応援スタイルだ』というものを表現できたと思います」

ファンは好きなカラーのユニフォームを着て、グラウンドでYMCAを踊って楽しむ

ファンは好きなカラーのユニフォームを着て、グラウンドでYMCAを踊って楽しむ

インスタグラム撮影会で大谷翔平投手(右下)、浅間大基選手(左下)と一緒に写る女性ファン。これがSNSで投稿され、ファンたちの盛り上がりを呼ぶ

インスタグラム撮影会で大谷翔平投手(右下)、浅間大基選手(左下)と一緒に写る女性ファン。これがSNSに投稿され、ファンたちの盛り上がりを呼ぶ

ファンクラブ会員数アップ

観客動員数が4年ぶりの190万人台に戻った2015年、ファン1人当たりの来場回数は減少した一方、ファンクラブの会員数は伸びたシーズンだった(約11万5000人)。新しい顧客をどう取り込んでいくかという課題を抱える一方、一度足を運んでもらった人にはファンになってもらえている。

エンタメ産業で重要なのは、いかにしてリピーターを増やしていくかだ。的確なCRM(顧客関係管理)でファン層を分析し、それぞれを満足させる情報や環境を提供していきながら、札幌ドームは訪れた者が満足できる空間になっている。

ウーマンズフェスタで応援ボードをつくる女性ファンたち。1度訪れた球場で魅了され、熱心なファンになっていく

ウーマンズフェスタで応援ボードをつくる女性ファンたち。一度訪れた球場で魅了され、熱心なファンになっていく

(写真:HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS)

<連載「北海道日本ハムファイターズの革新的球団経営」>
2004年に札幌へ本拠地を移転して以来、グラウンド内外で好成績を収めている北海道日本ハムファイターズ。チーム編成やスカティングで独自の方法論を持つ球団は、SNS活用や女性ファン獲得など経営面で球界に新たなトレンドをつくり出している。いかにして北海道でファン拡大しているのか、ビジネス面の取り組みを隔週金曜日にリポートする。