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ファイターズの球団経営【2回】

北海道の課題を解決したい。“ファイターズ流”地方創生で観客増

2015/12/11

日本全国の例に漏れず、北海道の人口増減に関して好ましくない未来予測が出ている。

全道人口は2015年現在で540万人だが、2030年には468万人になる見通しだ。札幌市の人口は2015年の191万4000人をピークに、2030年には182万人に減るとみられている(ともに総務省「国勢調査」〈平成2〜17〉より)。

人口が減れば、日本国内のマーケット規模に影響する。すべてのビジネスが直面するこの課題を、北海道日本ハムファイターズはどうやって乗り越えていこうとしているのか。

その象徴が、12月5日に発売された『もりのやきゅうちーむふぁいたーず』という絵本だ。

読書促進活動の一環で絵本発売

野球チームをテーマにしたものなら広島東洋カープの絵本が発売されているが、原作に選手自身が参加したのはファイターズが初めてだ。この企画は、2014年から行っている読書促進全道キャンペーン「グラブを本に持ちかえて」の一環として生まれた。

野球チームがグラブを置き、なぜ本を手にするのか。そのアイデアが浮かんだのは、ファイターズが観客動員で壁にぶち当たっている時期だった。

ファイターズ選手会プロデュースで制作された絵本。札幌市内で読み聞かせイベントも実施される

ファイターズ選手会プロデュースで制作された絵本。札幌市内で読み聞かせイベントも実施される

2012年から観客減少

3年ぶりのリーグ優勝を果たした2012年に札幌ドームを訪れたファンは185万8524人と前年から14万人近く減ると、2014年まで年間180万人台が続いた。2年ぶりのリーグ制覇を果たした2009年には199万2172人まで伸ばしていたものの、チームが勝とうが、監督を変えようが、客足は戻ってこなかった。

「何が足りないのか」。2008年から広報として働き、現在は同部の部長を務める見田浩樹氏はこの頃、頭を悩ませていた。

「われわれは恵まれていて、北海道ではテレビをつければ常にファイターズが映っている状況ではあります。でも、古い言い方だとブラウン管の中や、球場の中でしかファイターズが動いている姿が見えなくなっているのかなと思い始めました」

「そんなとき、北海道の直面している課題があるのであれば、そこを改善していくことでもう1回企業としての社会的存在価値を上げられるのではと思ったんです。『あまり野球を知らない人や、興味を持たない人でも、ファイターズを見直してくれるのかな』というのが読書促進全道キャンペーンの出発点ですね」

北海道の読書運動イメージキャラクター「ぶっくん」と大谷翔平投手(右)、B・B(左)

北海道の読書運動イメージキャラクター「ぶっくん」と大谷翔平投手(右)、B・B(左)

学力テストで全国最下位

北海道が抱える課題の一つに、学力がある。全国学力テストの正答率で2015年は小学生が最下位、中学生は29位だった。

旭川出身の見田氏が改善策を調べていくと、読書がいいのではという結論に行き着いた。それは、野球選手とも重なるテーマだった。

「広報としてチームに帯同していた時期に、『野球選手って意外と本を読むんだな』と感じました。キャンプ中にもホテルの部屋で読んでいます」

「でも、それが普通の光景であるのに、広報として伝え切れていませんでした。『野球選手も本を読む』と知ってもらいたいのが、読書促進全道キャンペーンの原点です」

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選手が紹介し、本が身近に

全国の学校では「朝の読書運動」が行われ、とりわけ小学校で盛んだ。そこでファイターズの選手が「今から本を読みましょう」という声を吹き込んだデータを渡し、アナウンスで流してもらう活動を道内で始めた。

札幌ドームに来場したファンから読み終えた本を譲ってもらい、ある社団法人を通じ、東日本大震災で被害を受けた地方に寄贈している。先述した絵本の売り上げは慈善事業につなげたり、図書施設で役立ててもらったりすることも考えているという。

北海道中の図書館や公民館に対し、共通イベントの実施も積極的に呼びかけてきた。たとえば、子どもを持つ選手が家庭で読み聞かせしている絵本を選び、企画展を行っている。選手が絵本をセレクトし、手にしている写真を球団から提供し、北海道教育庁を通じて全道で配ってイベントで使用してもらったのだ。

北海道に自ら近づき、存在を発信

結果的に、この運動はファイターズと北海道民を近づけることになったと見田氏は言う。

「すごくありがたがってもらいました。市町村にしたら、『ファイターズにこんなことをお願いしたい』と、なかなか言いだしにくいところもあると思います」

「そこをこちらから『一緒にやってください』と言うことで、ファイターズは決して北海道の中で遠い存在ではないと発信していくことも大事だと思います。野球以外でわれわれの果たせる役割は無限にあると感じていますが、広げすぎるとぼやけてしまうので、北海道の課題に向き合うことをテーマにしています」

絵本の読み聞かせをしてファンと交流する杉谷拳士選手

絵本の読み聞かせをしてファンと交流する杉谷拳士選手

大谷翔平を食の課題改善に起用

全国の小学生朝食摂取率ランキングで、北海道は45位だった。「食の宝庫・北海道」とされるだけに、何とかして改善できないかと発案された企画がある。「北海道179市町村応援大使」で大谷翔平が担当する浦河町の小学校で、同投手の出身地・岩手県奥州市にちなんだ学校給食を食べてもらった。

その意図を見田氏が説明する。

「大谷投手はこういうものを食べてきましたとデータを提供し、実際につくって食べてもらいました。『こういうアスリートになりたいなら、しっかり食べましょうね』と伝わればと思いました」

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ファイターズと北海道にいたい

ファイターズは北海道の各地で1軍や2軍の公式戦を実施し、さらに前回の記事で述べた北海道市町村応援大使などの企画で全道を盛り上げようとしている。

しかし北海道は広大で、シーズン中にできることには限界がある。だからこそ、グラウンド外から球団が身近な存在になっていけるように考えているのだ。

とりわけ旭川出身の見田氏は、そうした気持ちを強く持っている。

「自分の生まれた北海道の人口が減っていくといわれていますが、そういう予測を見ると、僕は抵抗したくなるんです。ファイターズがあるから北海道にいたいとか、北海道で子どもを育てたいという人が増えていけばいいですね。自分の会社にいながらも、『ファイターズを使い倒せば何かできるのでは』と感じられるコンテンツだと思います」

リーグ2位でシーズンを終えた2015年、ファイターズの観客動員数は195万9943人だった。4年ぶりに190万人台に戻すことができたのは、地元への貢献活動も一因にあると見田氏は考えている。

絵本を手にし、楽しそうな表情を浮かべる大谷翔平投手(右)と谷口雄也選手

絵本を手にし、楽しそうな表情を浮かべる大谷翔平投手(右)と谷口雄也選手

(写真:HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS)

連載<北海道日本ハムファイターズの革新的球団経営>概要
2004年に札幌へ本拠地を移転して以来、グラウンド内外で好成績を収めている北海道日本ハムファイターズ。チーム編成やスカティングで独自の方法論を持つ球団は、SNS活用や女性ファン獲得など経営面で球界に新たなトレンドをつくり出している。いかにして北海道でファン拡大しているのか、ビジネス面の取り組みを隔週金曜日にリポートする。