(ブルームバーグ):野村ホールディングスは米州を重要拠点と位置付け、投資銀行業務を拡大する。20人規模でシニアバンカーを現地採用するほか、新たにテクノロジー業界をカバレッジに加える計画が明らかになった。顧客基盤の拡大で、日本とのクロスボーダー案件や米国企業の新規株式公開(IPO)など案件発掘を狙う。

野村の奥田健太郎インベストメントバンキング・グローバルヘッドはブルームバーグの取材に応じ、年明け以降、テクノロジー、消費・小売、ヘルスケア産業などで、欧米の投資銀行で強い顧客基盤を築いてきた人材をマネジングディレクターなどに積極起用していく考えを示した。野村が米国でテクノロジー産業を単独カバーするのは初めて。

野村のこうした取り組みに対し、ドイツ銀行のジョン・クライアン共同最高経営責任者(CEO)も米国よりも高い手数料が得られる地域はなく、ビジネス展開のためには高めの費用を支払うことをいとわないとの考えを示しており、米国に注目が集まっている。永井浩二CEOは今月初めの投資家向けフォーラムで、人材獲得などにより、米州での投資銀行業務の収益を今後2-3年で倍増する方針を示した。今回の幹部の大量採用やカバレッジの拡大はその具体策となる。

野村証券の専務でもある奥田氏はインタビューで、「すごく気にしているのは、アメリカでお客さんをきちんと作ってこれなかったことだ」と述べ、同地域での顧客基盤の構築が重要課題であるとの認識を示した。また、日本企業が海外市場に成長を求める中、「一番見ているのはアメリカだ」とし、日本との「クロスボーダー案件のパイプラインは増えている」と語った。

MS、ゴールドマン、JPモルガン

米州で具体的に獲得したい案件や強化していきたいビジネスとして奥田氏は、消費・小売産業では飲料会社の再編や買収(M&A)での助言を、テクノロジーやバイオ産業ではハイテク企業によるIPO、資金調達の引き受け業務を挙げた。

ブルームバーグのデータによれば、15年の日本企業関連のM&A助言ランキングで野村は現時点で2位。クロスボーダー案件では5位で、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガンが上位を占める。これら外銀3行は米州のM&Aでもトップ圏内で、アメリカでの強さが、そのまま日本でのプレゼンスにつながった格好だ。

奥田グローバルヘッドは、国内の生命保険会社による米国進出で複数の案件を逃してしまい、「これはショックだった。アメリカという、いつも負けてしまうところで負けてしまった」と胸の内を明かした。

米国でのM&Aブーム

ドイツ銀のクライアン共同CEOは8日、ゴールドマンがニューヨークで主催した会議で、「米国で事業を手掛けないということはあり得ないだろう」とし、「アジアにいたことがあるが、手数料のプールはさほどなく、競争も激しい上に資本市場に深みはなく、米国の代わりにはならない」と語っている。

ブルームバーグ・データによれば、今年の米国企業関連のM&Aは合計で2.4兆ドルと、15年の2兆ドルから増加し過去最高となった。野村の米国での助言ランキングは昨年と変わらず44位。日本の生保によるアメリカでの買収が目立った中、野村は東京海上ホールディングス、明治安田生命保険、住友生命保険など、160億ドル相当のクロスボーダー案件に携わることができなかった。

一方、国内企業同士の経営統合や再編ではトップに就いた。ファミリーマートのユニーとの合併や足利ホールディングスの常陽銀行との統合などでフィナンシャルアドバイザー(FA)を務めた。

奥田氏は16年は、日本企業の株価が一定の水準まで上昇、安定して推移していることから、オーナーを含めた株主が売却を考える傾向が強まっており、クロスボーダー案件に加えて1000億円以上の国内M&A案件が増えると見通している。

ニューヨークで新卒採用

リーマン・ブラザーズの米国拠点がバークレイズに買収された2008年以降、野村は自前で米国ビジネスを構築してきた。野村は11月、米ジェフリーズ出身のマーク・コネリー氏を米州の株式資本市場責任者に起用するなど6人のシニアバンカーの採用を発表した。永井CEOは、今後は米国などで時価総額100億ドル以下の企業に注力し、投資銀行業務での案件獲得を目指す戦略を示している。

同社はジュニアバンカーも積極的に採用している。奥田氏は今年ニューヨークで30人以上の新卒者を採用したことを明らかにした。また、東京ではM&A案件の増加に伴い、12月に他部署から少なくとも10人以上を企業情報部に異動させるなどして増員した。

野村の米州事業は赤字が5四半期続いている。今期(通年)の経営目標として海外拠点で500億円の税引き前利益を確保する目標を掲げているが、上半期(4月-9月)は係争関係で一時的な費用が発生したこともあり、約430億円の赤字になっている。

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