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ミレニアル世代が熱中

服より体づくり。LAっ子が足繁く通う「ブティック型スタジオ」

2015/12/6
西海岸のカルチャーの中心地といえば、ロサンゼルス(LA)。ハリウッドなどエンタメの中心でもあるLAでは、新しいトレンドが次々と生まれてくる。一方で、日本に入ってくるLA情報は、どうしても表面的で美化されがち。現地のリアリティがうまく伝わってこない。LAで暮らす駐在員妻の著者が、現地からLAのトレンドとそのリアルを伝えていく。

Kitson、フォーエバー21、ロン・ハーマン、ビンクベリー、ブルーボトルコーヒー、タコベル、そしてシェイク・シャックまで。

NewsPicksの人気企画「イノベーターズ・ライフ」に登場したサザビーリーグ・鈴木陸三さんのような先人たちのおかげで、今の日本では、米国で流行のものがほぼ手に入るようになりました。そんな中、いまだに米国との差を感じる分野があります。日本に帰ると恋しくなるもの、それは「フィットネス」です。

月会費10ドルの大手チェーンも

米国のフィットネスクラブ産業は、総利益300億ドル(3兆7000億円)の規模を誇り、約70万人が従事する巨大産業。米国の5人に1人がこうした施設を利用しているといいます。日本は100人に3人だといわれていますから、かなりの開きがあるといえるでしょう。

フィットネスクラブ通いが盛んな理由として、大手チェーンの施設の充実ぶりと価格の手頃さが挙げられます。

全米1位の総利益を誇る大手スポーツジム「LA Fitness」の店舗

全米1位の総利益を誇る大手スポーツジム「LA Fitness」の店舗

たとえば、わが家の最寄りジム「LA Fitness(全米1位チェーン)」の場合。広々としたトレーニングルームには、ランニングやクロストレーナーなど有酸素系マシンがずらり。種類の充実したウエイトトレーニング機材は、同じマシンが複数台あるので自分のペースで使えます。

室内プールにジャグジー、ラケットボールやインドアバイクの専用ルーム、ズンバやキックボクシングが習えるスタジオに、なんと0歳児から預かってくれるキッズルームまで完備!

「LA Fitness」トレーニングルーム。マシンの種類も台数も多く、自分のペースでワークアウトできる

「LA Fitness」トレーニングルーム。マシンの種類も台数も多く、自分のペースでワークアウトできる

そして気になるお値段は……入会金100ドル、月会費は26ドル(約3200円)。これで全米630店舗を朝5時から23時まで使い放題です。

安さを追求するなら、入会無料・月会費10ドルで24時間オープンの「Planet Fitness」というチェーンも。華美さはないものの、マシンを使ってストイックに鍛えたい人には十分な機材がそろっています。

その一方で、高級路線のジムも人気です。

全米80店舗を展開する「Equinox」は、月会費150〜300ドルクラス。ここでは最先端のマシンやトレーニング法が導入され、豪華なラウンジやエステサロン、オーガニック素材のアメニティまで用意されています。わが家近くの店舗では、エンタメ業界のエグゼクティブたちが朝5時から汗を流しています。

「ブティック型スタジオ」

そんなLAのフィットネスクラブ業界で今、大きな地殻変動が起きています。

「ブティック型スタジオ」と呼ばれる、小規模なスタジオが勢力を急拡大しているのです。

ガラス張りの路面店に、ロゴ入りスポーツウェアがずらり。セレクトショップ顔負けの小洒落た雰囲気のスタジオも

ガラス張りの路面店に、ロゴ入りスポーツウェアがずらり。セレクトショップ顔負けの小洒落た雰囲気のスタジオも

その名が表すとおり、ブティック型スタジオとは特定のエクササイズに特化した店舗面積の小さな施設のこと。資格を持つインストラクターから、パーソナルトレーニングや少人数のグループレッスンを受けられます。

LAで人気なのは、おなじみのヨガやピラティスに加え、「バーレッスン」や「スピニング」、「サーキットトレーニング」や「TRX」など、有酸素運動と筋力トレーニングを効率よく行うもの。そして新たなトレーニング法を提唱するスタジオが、雨後の筍のようにオープンするのです。

こうしたスタジオは入会費が不要なところが多く、利用ごとに参加費を支払うシステム。費用はグループレッスンで1回10ドルー40ドルと幅広く、マンツーマンの指導ともなると1回100ドルを超えることも。たった一度の利用で、大手スポーツジムの月会費を上回ってしまいます。

フィットネスの意味が変わった

ブティック型スタジオが流行りだしたのは、なぜなのでしょうか。

意識の変化を端的にあらわしているなあ、と思ったのが、ある大学新聞に掲載された女子大生のコラムです。

「土曜の朝のブランチの会話は“それどこのブランドの服?”から“今日どこでワークアウトするの?”へと変わりつつある。EquinoxとかLA Fitnessとか、ましてや学内のフィットネスセンターとか答えるのは、ぜんぜんクールじゃない。ファッションにたとえるなら、去年着たのと同じ服を着ているみたいなダサさ」

つまり、フィットネスはファッションと同等かそれ以上にその人のライフスタイルや価値観をあらわすものとして捉えられているのです。

ベニスの人気ブティックスタジオ「YAS」。お隣のブルーボトルコーヒーに引けを取らないスタイリッシュな外観

ベニスの人気ブティックスタジオ「YAS」。お隣のブルーボトルコーヒーに引けを取らないスタイリッシュな外観

コンサルティング会社のKurt Salmonが2013年に行った調査によると、2万平方フィート(約1800平方メートル)以下のブティック型スタジオは、全米にチェーン展開する大型スポーツジムに比べて「目覚ましく成長している」と記されています。

会員数の伸びは、ブティック型が前年比で平均16.7%も増えたのに対し、大型ジムは0.9%と横ばいです。総収益でも平均8.6%(大型1.9%)だと伝えています。

さらに興味深いのが、スタジオを選ぶ理由です。「ユニークな体験」「カスタマイズされたトレーニング」そして「仲間との交流」が上位に。利用者たちがフィットネスの場を、まるでカフェやセレクトショップに近い基準で選んでいる様子が伺えます。
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ミレニアルズがブームを支持

そしてブティック型スタジオの支持層といわれているのが、ミレニアル世代です。2000年以降に成人を迎えた若者のことで、現在は19~37歳。米国の人口3億人のうち4分の1を占める最大勢力で、その価値観や消費行動を理解しようとさまざまな調査が行われています。

国の2015年の人口ピラミッド。「ベビーブーマー世代」と「ミレニアルズ世代」の2つのボリュームゾーンがある

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金融情報サイト「MarketWatch」のベテラン記者は、「景気後退を経験したミレニアル世代は、倹約家として知られているが、価値を感じるものには投資を惜しまない」と分析。単なる健康維持やダイエットだけでなく、「『楽しい体験』や『同じ価値観を共有できる人とのつながり』を求めている」と指摘します。

定額スタジオ巡りが可能

そんなミレニアル世代とスタジオを結びつけるツールとして、注目を集めているのが、定額でスタジオ巡りができる「Class Pass」です。

2012年にニューヨークで生まれたサービスで、LAでも2014年から利用できるようになりました。現在は1カ月119ドルでさまざまなスタジオのレッスンが受け放題(同じスタジオで最大3レッスンまでという制限つき)。LAだけでも約500店舗が加盟しているのだとか。

お得さもさることながら、スタジオの各レッスンの情報をスマホで簡単に検索・予約できるようになったのも画期的。ちょっとしたスキマ時間に、近場で興味のあるレッスンがないか探し、ワンタップで予約した後は参加するだけ。フィットネスフリークにはまるで夢のようです。

フィットネスの定額サービス「Class Pass」はグーグル・ベンチャーズから資金調達したことでも話題に。日本でもグリーの子会社が提供する「レスパス」が今年4月からサービス開始した

フィットネスの定額サービス「Class Pass」はグーグル・ベンチャーズから資金調達したことでも話題に。日本でもグリーの子会社が提供する「レスパス」が今年4月からサービス開始した

スタジオ側にとっても、Class Passはマーケティングツールとして機能しています。どのクラスの何席分をClass Passに解放するかは、スタジオ側に決定権があります。つまり、スタジオはクラスの空席を有効活用して、顧客を呼び込むことができるという「フィットネス界のウーバー」なのです。

CEOのKadakia氏の発表によると、同社が加盟スタジオに支払った売り上げは2014年に3000万ドル。2015年は1億ドルを超える見込みとのこと。私が話を聞いた多くのスタジオオーナーは「馬鹿にならない収入源になっており、満足している」と答える人がほとんどでした。

ということで、このClass Passを活用し、LAで人気のスタジオを10カ所、実際に体験してみました。次回、まさに「体で感じた」ブティック型スタジオ成長の理由をお伝えします!

*本連載は毎週日曜日に公開します。

小野さんプロフィール.001