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スポーツディベート第5回

スポーツにテクノロジー判定をどこまで導入すべきか

2015/11/22
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近年のスポーツでは、テクノロジーによる判定が増加している。以前からあった相撲やアメフトのビデオ判定だけでなく、テニスではインとアウトのジャッジ、サッカーのプレミアリーグではゴールラインを割ったかどうかを見極めるために、ともにホークアイというコンピュータ映像処理システムが用いられているのだ(ホークアイのすごさは下記の動画がわかりやすい)。

プロ野球では2010年から本塁打に限ってビデオ判定が導入され、昨年からフェンス際の当たりまで拡大された。

またトラッキングシステムが開発され、今年のポストシーズンではNHKのBS1が中継に採用している。投手の投げたボールが自動追跡され、テレビ画面上のホームベース上方にある9分割された長方形のマス目に、コース、軌道が即座に映し出されるようになったのだ。審判が判定ミスを犯せば、テクノロジーに指摘される格好となる。

テクノロジー導入は進んでいく

球界ではすでにストライク、ボールの判定にトラッキングシステムを導入することついて議論されているが、果たしてジャッジにテクノロジーをどこまで採用すべきか。

人間の目が、進化したテクノロジーに正確性で劣るのは否定しようがない。一方、人間が判定するから面白いという側面もある。

恐らく、スポーツにおけるテクノロジーの導入は進み続けるだろう。プロ野球の場合、最後に行き着くのがストライク、ボールの判定に採用するか、どうかではないだろうか。

そこで今回は、このテーマをピッカーの皆さんとともに議論したい。

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スポーツにビデオ判定を採用することには全般的に反対だが、野球の場合はなおさらそう思う。なぜならメジャーリーグでは年間162試合、日本のプロ野球では143試合とゲーム数が多いからだ。

アメリカンフットボールやサッカー、ラグビーのように試合頻度の少ない競技に比べ、野球における1試合の重みは決して大きくない。年間16試合しかないNFLではビデオ判定を取り入れているが、一つひとつのプレーがプレーオフ進出に大きく関わることを考えると、これは理解できる。

一方、年間100試合以上もある野球で、細かい判定にストップしてプレーが止まると、ゲームのリズムがなくなる。

フィジカル競技と野球では違う

フィジカル競技で多くの選手が折り重なる場面も少なくないラグビーやアメフトでは、ボールの位置などの判定が極めて難しいから理解できる。対して野球の場合は球審が間近でストライク、ボールの判定をするが、ボールが隠れるわけでもないのだから、そこは彼らの技量の範囲内で判定するべきだ。

審判によってストライク、ボールの判定基準が異なるとも聞くが、バッターもピッチャーも、早い段階でその基準を見極めることもプロの技量だろう。もちろん審判がミスジャッジすることもあるが、それもゲームの一部だと考えている。

メジャーはチャレンジ制度導入

メジャーリーグでは2015年から「チャレンジ制度」(編集部注:審判のジャッジ対しビデオ判定を要求できる)が導入されたが、個人的にあまり良い印象を持っていない。どのような判定が下っても後味が悪いし、試合の中断に正直いら立ってしまう。

また毎日試合のある野球の場合、「また明日もあるのだし、どんどん試合を進めてほしいな」という気持ちがどうしても勝る。

メジャーリーグの事情を言えば、ビデオ判定もほとんどショーの一部となっており、観る者としては、たとえばチャレンジの裁定が下るまでビール片手に喧々囂々(けんけんごうごう)と議論を楽しむ土壌がある。

インフラを整えるのが先

ただし、メジャーではニューヨークのリーグ本部で専門スタッフがビデオ判定を行っているため、チャレンジ制度が成り立っている。

対して、日本では球場によってビデオ判定の画質や画面のサイズが異なると聞く。物事の順序を考えると、ビデオ判定を導入する前に、インフラを整えるのが先ではないだろうか。

アメリカの話に戻ると、同国ではとにかく合理的に物事を進めることが重視され、スポーツではバスケットボールやアメフトなどでそれを積極的に取り入れている。

そんな中、野球は「unwritten rules」という言葉があるように、“不合理なもの”を残している珍しいジャンルだ。だからこそファンの興味を引いている部分があると思うし、私もその一人だ。

そんなあいまいさのようなものもまた、スポーツの大きな魅力の一部ではないかと思う。

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プロ野球は真剣勝負であり、同時に興行でもある。この2点をいかにして両立させるかが、思考と議論のポイントだと思う。

審判は当然、正しい判定を下そうと目を凝らしている。しかし人間である以上、ミスを犯すのは仕方がない。だからこそ、これだけ進化したテクノロジーをうまく導入すべきだと感じるのだ。

審判には感情がある

野球の判定では、“不思議な現象”をよく目にする。たとえば、逆球(捕手が内角に構えたが、投手の球は外角に来るケースなど)の場合、ストライクゾーンに来たにもかかわらず、ボールと判定する審判がいるのだ。

同じコースに来たボールでも、審判によってストライク、ボールの判定が異なる場合もある。同じアンパイアであっても、同一試合内で判定基準が乱れるように感じられることも少なくない。

また、審判には感情もある。今年夏の高校野球地方大会で、シード校が格下に敗れた試合を取材した。すると試合直後、審判室に引き上げてきたアンパイアたちが「格下のチームに感情移入してしまった」と話していたのだ。その気持ちが判定に影響していたかはわからないが、耳にしたくないセリフだった。

大誤審が順位に影響

5、6年前にプロ野球のベテラン審判に取材した際、ビデオ判定に話が及んだことがある。その審判は、「ビデオ判定を否定する立場にはなれない」と話した。「どうやって使っていくかを検討しなければならない」というスタンスだった。

今季のセ・リーグでは、0.5ゲーム差で終わった3位阪神と4位広島の直接対決で大きな誤審があった。9月12日の一戦で延長12回表、広島の田中広輔が放った打球はセンターフェンス際で大きく跳ね返り、ビデオ判定の結果、3塁打と判定された。だが、引き分けに終わった2日後、日本野球機構(NPB)は本塁打の誤りだったとしたのだ。

もちろん事実通りに本塁打と判定されていても、裏の攻撃で阪神が逆転していた可能性もある。ただし、順位やクライマックスシリーズ進出に大きく影響する誤審となったのは事実だ。

興行の中でどう面白く使うか

人間の目には限界がある。テクノロジーがこれだけ発展した現状を考えると、うまく採用すべきではないだろうか。微妙な判定に納得できない選手、監督の姿を見るより、テクノロジーを使ってきちんと決着をつけたほうが勝負は白熱すると思う。

ただし興行である以上、使い方には工夫が必要だ。個人的には、テニスの「チャレンジ」が絶妙にできていると思う。権利行使の上限を決め(テニスの場合は1セットにつき3回)、審判の判定が正しく選手が間違っていた際には、権利を1回分失う。選手の要求が正しければ、権利回数を減らさず新たに行使できるのだ。

選手は判定に納得でき、同時に観衆も一緒にドキドキできる。回数を制限することで、そこまで試合進行を遅らせることもない。

テニスのようにテクノロジー判定の使い方を考慮すれば、真剣勝負と興行の点で両立できると思う。

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