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二等兵だっていいじゃない

高須克弥「立派になる必要はない。リスクを取り自分の道を歩け」

2015/11/5
カドカワが2016年4月を目指して、インターネットを利用した通信制高校「N高等学校」を開校すると発表し、大きな注目を集めている。10月14日に詳細が発表され、通常の学習とあわせて、各界のプロフェッショナルを講師に迎えた「dwango×プログラミング授業」「KADOKAWA×文芸小説創作授業」「電撃×エンタテインメント授業」などの「課外授業」が受けられることなども明らかになった。
今回、N高等学校の取り組みに対して、各界の著名人からメッセージが寄せられている。彼らは、自身の学生時代から現在に至るまでの経験を踏まえ、教育に対してどのような思いを持っているのだろうか。第3回は、高須クリニック院長・高須克弥氏のメッセージをお届けする。

美容外科は未開の分野だった

──初めに、ご家族と子どもの頃のお話を聞かせてください。

高須:僕は400年続く医者の家系に生まれました。先祖は徳川家の主治医だったこともあります。家族は、男女問わずに全員が医者ということもあって、わが家に生まれた時点で、将来が決まっていました。

僕自身は、漫画家になりたくて一生懸命に絵を描いていましたが、祖母に見つかって作品を全部燃やされてしまいました。ただ、「医者にさえなれば、そのあとは何をやってもいい」と言われたので、医学部を目指したんです。

子どもの頃から家庭教師が来ていたので、勉強はできました。ただ、学校で先生の間違いを指摘したり、クラスの子に先回りして勉強を教えていたりしたら、いつの間にか浮いてしまったんです。裕福な家庭で育ち、色白で太っていたことから「白豚」と呼ばれていじめられた経験もあります。

でも、そこで負けずに自分の道を歩こうとした経験が、今につながっている気がします。

──高須さんは美容外科医として知られていますが、最初は整形外科医の道を選ばれていますね。

僕は、生まれつきの美容外科医だと思われていますが、もともとは整形・形成外科の専門医なんですよ。リハビリテーションの病院も経営しているし、老健施設もやっています。

初めに、自分の専門について、外科系か内科系か考えたときに、外科系だなと思ったんです。僕は「外れたところ」が好きだから。かつての日本では、脈を診て、診断を下し、薬を調合する内科が本道とされていました。だからこそ、外科が魅力的に映ったんです。

実際、僕の曽祖父が長崎に蘭方医学を習いに行くと言ったときには、親戚中から非難されたそうです。僕はそれを聞いて、ますます外科系だなと思いました。

──美容外科に対する関心を持つようになったきっかけを教えてください。

いわゆる美容外科との出会いは、大学院時代にドイツのキール大学で研修していたときです。そこで教授の整形手術を見て「こんなに面白い科があるのか!」と衝撃を受け、骨格を変える手術などを覚えました。

帰国後は交通事故を専門にする整形外科を開業しました。交通事故の患者さんは、事故で骨折をした人はもちろん、顔に大きな傷を負ってしまう方もいます。僕は、形成外科でトレーニングを受けてきたので、そういう患者さんに対して、ほとんど傷跡が残らないように縫ってあげることができました。

すると、患者さんが「あなたは恩人だ」「嫁にいけないと思っていたけれど、元通りになった」と泣いて喜んでくれたんですよ。それほど顔は大事で、きれいにすることで人を幸せにできる。

でも、病院の事務長からは、「きれいに縫っても、普通に縫っても治療費は同じです。病院の経営を考えて普通にしてくれたほうが助かるんですけどね」と批判されてしまった。僕は、そんなのおかしいじゃないかと思ったんですよ。喜ぶ人がいるなら、そのために心置きなくやりたい。傷跡が残って困っている人たちだけでなく、不細工だといって苦しんでいる人まで、まとめて助けてあげたいと考えた。

そのための病院として、1976年に「高須クリニック」を開院したんですよ。保険を使わない自由診療です。病院には、想像以上に多くの人が来てくれた。そこから、どんどん病院を増やしていったことが、今に至るきっかけです。

──当時は、美容外科に対する風当たりが強かったと思いますが、その点はいかがですか。

偏見は強かったですね。美容外科をやると言ったときには、親戚からも総スカンをくらいました。「お前は医者じゃない。医学は病気を治す科だけれど、美容外科は人からカネを取ろうとする『よこしまな科』だ」と。

でも、僕には美容外科が人を幸せにする最先端の医療だという思いがありました。当時は、日本で取り組んでいる人がとても少なく、未開の分野。それなら、この世界で一番になろうと思ったんですよ。

病院名に自分の名前を冠して、メディアにたくさん出演したのは、美容整形をアピールするだけでなく、責任の所在をはっきりさせるためです。

当時から現在に至るまで、患者さんから信頼を獲得するために、手術の安全性を高めるための努力は欠かしていません。

安易に美容外科医を目指すな

──その点で言うと、高須さんはご自身を実験台として、整形手術を施されていますね。

患者さんだとリスクが多くてできなかった手術は、すべて自分自身で実験しています。僕の手術を担当したのは、息子や嫁、弟子たちです。

たとえば、この髪の毛も植えていますし、皮膚もツルツルにしています。

手術をした当時は、循環の悪い皮膚に毛がくっつくわけがないと言われていました。また、ケミカルピールという皮膚を薬で溶かす治療も、アジア系の人は大火傷になるからやってはダメとされていました。

でも、成功しようが失敗しようが、歴史に残るからやってみようとチャレンジしたら、うまくいったんです。いずれも、その後は日本中で流行しましたよ。

──リスクが高い手術に対して、怖さはなかったんですか。

怖くないですよ。楽しいじゃないですか。未知のことが自分の体で実験できるんだもの。最高ですよ。

──高須さんは、最初からこの業界を目指してくる人については、どう考えていますか。

「来るな」ですね。そういう人になりたい理由を聞くと、医者としての使命感のないクズばっかりなんですよ。なんとなく華やかで、金儲けができると思っている。

だってね、今、一番必要とされているのは小児科医や産婦人科医ですよ。でも、まったく人気がない。忙しすぎて自分の時間なんてほとんどないから。目指す人は、医者として本当に志がありますよ。

もちろん、全員にそうなれと言うわけではありません。ただ、どの科に行こうとも、しばらくの間は救急病院で働いたり、外科で難病に向き合ったりして経験を積むべきです。医者としての基本を身につけなければ、患者さんとは向き合えないですから。

そのうえで、患者さんを幸せにする道として、結果的に美容外科を目指すことになった、というのが筋でしょう。キャリアが浅くてもいいだろうなんて言う連中はクズです。彼らのせいで、患者さんが練習台になっているケースもあります。それは遺憾です。僕のところでは、経験の浅い人間は採用していません。

教育の観念に縛られるな

──それでは、高須さんの教育に対する考えをお聞きできればと思います。今回、カドカワがネットの高校をスタートさせますが、現在も良い高校に行って良い大学に進学するという考え方が根強いことについては、どう思われますか。

すごくおバカさん。僕の周りで優秀な人は高校に行っていないケースも多い。西原理恵子なんて、高校を強制退学だもん。

うちの親戚で一番優秀なのは僕の甥っ子で、彼も高校を卒業していません。最初はバンドをやっていたけれど、途中で飽きて、医者になろうと思ったそうです。そこで、大検を受けて医学部に入学。首席で卒業して、医者の道に進んでいます。

大学なんて行きたかったら行けばいい。でも、目的も何もない人が行ったって、どうにもならないですよ。

──高須さんの息子さんは3人とも医者ですね。どのような教育のポリシーを持っていたのでしょうか。

僕は、息子たちに関しては放任で、完全に女房任せでした。親父の働いている背中を見せていれば、立派に育つと思っていた。

でも、思うようにはいかないね。危うく大塚家具みたいになりそうだった。みんな医者になったけれど、医者の治療方針って医者によって微妙に違うんです。親子で一緒に仕事すると必ず争いが起きます。

だから、僕は東京でしか働かず、各地のクリニックは息子が担当しています。やっぱり、みんな自分の好きなようにやるのが一番いいんだと思います。

──自分の好きなことをやりたいと思いながらも、失敗を恐れて、みんなと同じ道を歩む子もいます。

僕も、失敗はいっぱいしましたよ。所得税法違反で有罪になって、1年間医業停止処分になったこともある。結果的には、その1年間が美容外科医として技術を学ぶ時間になりました。

もちろん悪いことはダメだけれど、いつだって失敗が成功のもと。誰もやらないことは全部やればいい。皆が通った道の上を歩いてごらん。良いところになんて行けないから。自分だけの道を歩けばいい。成功の秘訣は、リスクを取ること。リスクを取らなかったら絶対に成功しない。

最悪の場合でも、命が取られるわけじゃないんだから、ネットの高校でも何でもチャレンジするほうが面白いじゃない。高須家の家訓は、「この世で起きたことは、全部この世で解決できる。何を思い煩うのか」。この世を、とにかく楽しめばいいんですよ。

──やりたいことが見つからないという子どももたくさんいますが、その点についてはいかがですか。

自分の中に何もない人は、やりたいことなんて見つからないに決まっています。何にもないんだから当たり前でしょう。そういう人は、飯食って、排せつして、寝られるだけでハッピーだと思わなきゃいけない。この世に生まれてきた時点で、ものすごいギャンブルに勝ってきたんだから。

そのうえで、子どもたちにはこう言いたい。「何か立派なことをしなきゃいけないという教育の観念に縛られる必要なんてまったくない」と。全員がボスになってどうするのよ。大将になる人、二等兵になる人がいて初めて、組織も世の中もうまく回るんです。

人間、何にでもなれるわけない。そんなSTAP細胞みたいな話はないんだから。自分の道を歩けばいい。それが、二等兵だっていいじゃない。

──ネットの高校には、不登校や引きこもりを経験して、対面的なコミュニケーションが苦手だという生徒の入学も想定しています。そうした子どもに、アドバイスをお願いします。

人間なんて、相手のことを好きだと思えば、たいてい向こうも好きになってくれます。それを心がけて、相手が喜ぶことをしてあげたらいいんじゃないかな。みんな人間関係について苦労していろいろ考えているけれど、それで十分です。これが、学校生活に限らず、人生を楽しく生きる秘訣だと思います。

──それでは最後に、これからの目標を教えてください。

目標なんてないですよ。行き当たりばったりで、面白いことがあったらやっていくだけです。人生は、立派に死ぬことよりも、生きている間にどれだけのことができるかが大事です。決まったことだけやって人生終わりじゃ、つまらないからね。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。