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不動産活用の革命児たち フィル・カンパニー【第2回】

「訳あり土地」を収益化。地主の心をつかんだ異端経営

2015/10/29
「駐車場+空中店舗」という新しいビジネスモデルで不動産業界に風穴を開けたフィル・カンパニー。「倒産寸前だった」という創業期のビジネスモデルから軌道に乗るまで、そして経営トップ交代の理由について社長の能美裕一氏と、創業者として引き続き代表取締役にいる高橋伸彰氏の対談を前後半2回に分けてお届けする。
第1回:街に再び光を。業界経験ゼロで挑む「駐車場+空中店舗」の土地活用

――「駐車場+空中店舗」というビジネスモデルは、どのように思いついたのですか?

高橋:ある家具会社から「駐車場の上部に、空中店舗を作れないか」と相談を受けたのがきっかけです。都心部にテナントを出そうとしても良い場所がなかなか空いていないし、あっても賃料が高い。駐車場の上部空間に簡易的な構造物を作り、周囲よりも低い賃料で展開できれば、テナント側にもメリットだし、土地オーナーにも駐車場の収入を維持しながら追加収入が発生する。「これまでにないWIN-WINのビジネスモデルだ!」と、その勢いのまま2005年にフィル・カンパニーを設立しました。

ところが、いざやろうとすると、「無理でしょ?」と誰も相手にしてくれない。耐震・耐火など建築基準が世界一厳しいといわれる日本で、実際にどのような空中店舗を建設できるのかも全くわかりませんでした。「とにかく建ててみるしかない」と、資金を募りながら土地を貸してくれる人を探しました。

やり始めて分かったことですが、不動産の世界では長年の実績と信用が命です。マンション設計や施工不良のミスがときどき大きなニュースになりますが、構造物に何か問題があったときに責任も取れないような会社に土地を貸してくれるオーナーは皆無でした。

「居座り問題」や「解体費負担」の問題なども、最初はまったく知りませんでした。それでもようやく人づてに、東京駅近くの10坪、駐車場1台分の土地を1年間だけ借りられることに。もちろん1年後には更地にして返却する条件付きです。

入居テナントは探せなかったので、第1号は自社ビル兼ショールームとして素養することに。「開放感のあるカッコイイ建物にしよう!」と全面ガラス張りにしました。一人デベロッパー状態で、そこまで行きつくのにも1年近くかかりましたね。

能美:当時、私は別会社だったんですが「第1号ができたから、ぜひ見に来てくれ」と言われ遊びに行ったんですよ。それがまさかの屋根もガラスなので、春先なのに昼間はもうサウナ室のように暑いのなんの。

高橋:夏場はあまりにも暑くて、当時従業員が4人いたんですが、交互に1人だけ留守番でオフィスに残り、他のメンバーは近くのスターバックスで仕事していました。みんな真っ黒に日に焼けていましたね(笑)。

能美:建てる前に、そこは気が付こうよ(笑)。

フィル・バーク八重洲 2006年3月竣工(解体済み)

フィル・バーク八重洲
2006年3月竣工(解体済み)

「しつこい男」を何とかしてやりたくて経営に参画

――能美さんが経営に参画されたのは、どのような経緯から?

能美:高橋とは、もともと経営者仲間の会で知り合って懇意にしていました。私のことを兄貴分のように慕ってくれていて。当時、私はリラクゼーションサロンを経営して、都内に数十店舗展開していたので、高橋からは「空中店舗にテナントとして入ってもらえないか?」と営業を受けていたんです。

ところが、持ってきた資料は数字もめちゃくちゃだし、家賃は思いのほか高いわで、こちらのビジネスモデルともまったく合わない。きっぱりと「うちとは合わない」と断っていました。すると、今度は「では、代わりに出資をしてくれないか」と引き下がらないんです。実に、しつこい男だった。

高橋:必死でしたから……(苦笑)。

能美:ただ、高橋の情熱と熱意はすごく伝わってきた。私自身も創業当時は資金繰りに苦労しましたし、そのときビジネスモデルに対してはボロカスに言われながらも、熱意だけで資金提供してくれた人がいました。そういう資金提供者の有無が、のちのベンチャーキャピタルや金融機関からの融資にプラスに働くことがあるのも知っていました。

半分捨て金のつもりで出資をすることにしたんですが、今度はその手続きでもなんだかモタモタしていて。「こいつ、本当に大丈夫か……!?」とずっと株主として見守っているうちに、しびれを切らして経営に参画したような形です。「駐車場+空中店舗」はすばらしいアイデアだったけれども、ちゃんとお金が回っていくビジネスモデルに昇華しきれていなかった。何とかしてやりたいと思ったんです。

高橋の周りには、なんだかんだとそうやって人が集まっている。本当にまれな創業者だと思います。

――創業当時と現在とでは、ビジネスモデルはどう変化したのですか?

高橋:創業時は、土地オーナーから借地をして、建設費はフィル・カンパニーが負担していました。一日でも早くテナントに入居してもらいたいので、土地オーナー以上にテナント探しも必死でした。ただ今思えば、やみくもにいろんなところへ声をかけていただけだった。

能美:しかも最初の4物件は自己資本で建設して、数年以内には解体していたんですよ。通常のビルは、減価償却期間が30年程度はあるんです。実際には躯体として50年ぐらい平気で使えるものを、わざわざ解体費用をかけて取り壊している。創業当時は本当に無謀な経営をしているなって、はたから見ていました。むしろ、よくつぶれなかったなと感心するほどです。

高橋:信用力がないので、どうしても長期間は借地できなかったんですよ。もうそこは広告宣伝費だと割り切って、常に赤字でしたが何とか踏ん張っていました。入居したテナントはおおむね繁盛しているし、何よりも「このビジネスモデルは絶対にいいものだ!」という思いで突き進んでいました。

能美裕一(写真右) 代表取締役社長。1974年生まれ。自動車流通ベンチャーに入社後、株式上場を経験。WEBを活用した新規事業部門の中心メンバーとして東証二部上場時の業績に大きく貢献。株式会社リラク常務取締役としてリラクゼーション店舗の第一号店立ち上げからチェーン展開まで急成長を成し遂げた後、フィル・カンパニーに参画。現在のビジネスモデルを確立し、徹底したユーザーファーストのもと事業の拡大を行っている。2009年取締役、2014年フィル・コンストラクション取締役(現任)、2015年代表取締役社長(現任)。国際規格ISO9001(品質マネジメントシステム)を品質管理責任者として取得し経営に活かした経験も持つ。 高橋伸彰(写真左) 代表取締役。1977年生まれ。オリックス株式会社、会計事務所などを経て、2005年6月にフィル・カンパニーを創業。2014年フィル・コンストラクション取締役(現任)、2015年代表取締役(現任)。

能美裕一(写真右)
代表取締役社長。1974年生まれ。自動車流通ベンチャーに入社後、株式上場を経験。WEBを活用した新規事業部門の中心メンバーとして東証二部上場時の業績に大きく貢献。株式会社リラク常務取締役としてリラクゼーション店舗の第一号店立ち上げからチェーン展開まで急成長を成し遂げた後、フィル・カンパニーに参画。現在のビジネスモデルを確立し、徹底したユーザーファーストのもと事業の拡大を行っている。2009年取締役、2014年フィル・コンストラクション取締役(現任)、2015年代表取締役社長(現任)。国際規格ISO9001(品質マネジメントシステム)を品質管理責任者として取得し経営に活かした経験も持つ。
高橋伸彰(写真左)
代表取締役。1977年生まれ。オリックス株式会社、会計事務所などを経て、2005年6月にフィル・カンパニーを創業。2014年フィル・コンストラクション取締役(現任)、2015年代表取締役(現任)

「初期テナント誘致保証」がブレークスルーに

――転機が訪れたのは?

高橋:2009年です。リーマンショックのあと、大型の商業施設にもテナントが入らなくなる中、巨額のビルやマンション建設には躊躇(ちゅうちょ)するオーナーが多くなった。かといって、ただ駐車場にしてしまうには、もったいない。その中間の選択肢として、中期投資のわれわれのビジネスモデルが注目され始めました。

能美:私が、フィル・カンパニーへ本格的に参画したのもその頃です。同時に、ビジネスモデルも変更して、建設費をオーナーに負担してもらうようにしました。現実問題として資金も完全にショートしていましたから。そんな資金も信用力もないわれわれに唯一できたのが、「初期テナント誘致保証」のサービスです。

高橋が苦戦したところでもありますが、私には長年テナントを出店する側として身に付けてきたノウハウがあった。それを応用して独自のマッピングや交通調査などのマーケティングを行い、「この場所なら美容室がはやりそうだ」など、ある程度ピンポイントにターゲットを絞りテナント誘致活動を行いました。

「出店のときに欲しい情報」をこちらが、きちんと持って行くので、話がスムーズに進むんです。商談もマーケティングデータに基づいて「すごくもうかる可能性がある」「爆発的にはもうからなくても、確実に収入が得られる」など、説得力を持った話ができるので、相手の決断もスムーズになる。

しかも、創業当初は相談が来るのは狭小地や変形地など、何かしら問題を抱えた土地が多かった。そんな土地に何とか収益を見込めるテナントを誘致しようとしたノウハウの蓄積が、現在のフィル・カンパニーの大きな強みとなっています。

高橋:ビジネスモデルの変更をしてからは、徹底的に投資回収のスピードにこだわっています。それは、われわれのためというより、資金を出してくれるオーナーのためです。相続税対策などの問題で、「ビル建設のために莫大な借金を抱えるか、土地を手放すか」と喫緊で困っている方も多かったんです。

われわれは創業以来、“ビル建設は、建ぺい率・容積率を最大値ぎりぎりで建てる”という業界慣習にも違和感を持っていました。銀行で個人が「あなたは〇千万円まで借りられますよ」って言われたときに、必要もないのに全額借りるようなものじゃないですか。

大型商業施設でさえテナントの空きが目立つ時代に、いつまでも「容積率最大」の建築にこだわる方がおかしい。

能美:そのときに生まれたのが、現在の標準パッケージとなっている「建坪30~50坪、駐車場+3階建て建物、エレベーターなし」というモデルです。徹底的にオーナーのキャッシュフローをシミュレーションして行きついたわれわれの最適解です。

4階以上だと建築基準法等諸法令の問題があって、建設コストが一気に跳ね上がってしまう。さらにエレベーターは設置費用がそれほど高くなくても、法定のメンテナンスなどランニングコストがそれなりにかかる。計算すると、エリアによっては3階のテナント賃料を2階の半分におさえてでもエレベーターを設置しない方が、投資対効果が大きいほど。

もちろんオーナーの希望によって設置することもあるし、条例などの問題で設置しなければならないケースもありますが、そういった点が、原則「エレベーターなし」をオススメしている理由でもあります。

高橋:このモデルに切り替えたとき、あまりの投資回収の速さに、提案を受けたオーナーが逆に「だまされているのでは?」と不安になってしまったほどです。それで金融機関に相談に行ったそうなんですが、そこでも金融のプロから「そんな回収スピードは聞いたことがない。詐欺に違いない」と言われたそうです。

今となっては笑い話ですが、テナント誘致が決して楽ではない土地で、大手有名テナントの誘致に成功した際には「テナントとの契約が本物か確認したいから、社長と会わせてほしい」と言われたこともありましたね。

能美:提案時の投資回収期間は5~10年が標準ですが、実際は2年かからずに回収できたケースもあります。大体商業系テナントが5年、シェアハウスなどの住宅系が10年です。

これまでオーナーから投資回収について、不満が出たことは私の知る限り一度もありません。リピーターになっていただける方も非常に多い。投資回収に失敗しているのは、高橋が自己資本を建設費としてばんばん投下していた初期の分だけです(笑)。

フィル・パーク名古屋栄(2011年9月竣工) テナントとして「アルマーニ」が出店

フィル・パーク名古屋栄(2011年9月竣工)
テナントとして「アルマーニ」が出店

(聞き手:久川 桃子 構成:玉寄 麻衣 撮影:福田俊介)

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。次回は、フィル・カンパニー社長能美裕一氏、創業者高橋伸彰氏へのインタビュー後編を掲載します。