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Googleが取り組むプロジェクトとは

Google Newsのトップが語るジャーナリズムとテクノロジーの共生

2015/10/15
アメリカ国内外のオンラインニュース関係者が集結し、ジャーナリズムのイノベーションや最新事例を議論する年次イベント「ONA15」が9月24日から3日間、米カリフォルニア州ロサンゼルスで開かれた。ニューヨーク・タイムズ、CNNといったメディアのほか、バズフィード、クオーツなどの新興メディア、グーグルやツイッターなどの企業も参加した。テクノロジーの進化はジャーナリズムをどう変えていくのか。特に注目度が高かったトピックから、最前線で起きている変化を紹介する。4日連続全4回。
第1回:米オンラインニュースの最前線を追え―― 最新テクノロジーが変えるジャーナリズム

グーグルは、報道に役立つさまざまなツールやデータの提供、メディアとの連携強化を通じて、ジャーナリズムにおける存在感を強めている。今後、ジャーナリズムとテクノロジーはどう共生していくのか。「Google News」を統括するリチャード・ギングラス氏と、デジタルジャーナリズムのリサーチなどを手がけるTwo Center for Digital Journalismのディレクター、エミリー・ベル氏が、アメリカで開かれたオンラインジャーナリズムを考える年次イベント「ONA15」で対談。グーグルが取り組むプロジェクト、モバイル・ウェブの閉鎖性、開かれたインターネット空間の構築などについて話した。

テクノロジーとジャーナリズムの関係性

ベル:今年は、テクノロジーとジャーナリズムの関係性において変革の年だと感じていますが、両者の関係性をどう見ていますか。

ギングラス:私が見てきたこの40年と少しの間に、テクノロジーはメディア(の構築)を可能にするメカニズムという位置付けから、ジャーナリズムの中に織り込まれるようになりました。

今日の報道機関は、取材や執筆のスキルと同じくらい、テクノロジーに長けていることが絶対的に必要だと思います。逃れることはできません。

それにはさまざまな理由がありますが、(テクノロジーの)ツールによって、ジャーナリストは今までと違う新しいことができるようになります。そして、(メディア業界の)エコシステムは、今後も変わり続けます。

この状況は、昔の映画『バージニア・ウルフなんか怖くない』の素晴らしい一節を思い起こさせます。マーサがジョージに「あなたのこと愛してるわ。だって、あなたは私がルールを変えるのと同じ速さでゲームをプレイできるんだもの」って言うんです。エコシステムはとても速いスピードで変化しているので、テクノロジーの速さにも追いつかなくてはいけません。

ベル:今年、グーグルはこれまでとは違うことをやっていますよね。単なるプラットフォームやサーチエンジンから、(メディアを)構成するようになっています。デジタルニュース・イニシアチブを始めたり、(風刺画を掲載して)銃撃されたパリの週刊誌『シャルリエブド』に寄付したりしました。どんな意味があるのでしょうか。

ギングラス:私たちは、出版・報道業界と同じ目標を共有しています。「Google Search」は、豊かで開かれたエコシステム、つまりWebの中でコンテンツを見い出す機会にほかなりません。メディアの目的は、インターネットにおいて読者を構築し、新しいユーザーと関わりを持ち、持続可能なビジネスモデルをつくることです。これも同様に開かれたエコシステムを必要としているのです。

ベル:「Google News Lab」や「Google News」の今後についてはどう考えていますか。

ギングラス:Google News Labは、グーグルが用いているさまざまなツールをニュースルームに持ち込み、みんなが使えるようにするためのものです。Google Newsは毎月100億を超えるアクセスをニュース媒体にもたらしています。どうすれば、これ以上ない最高のジャーナリズムを目に触れさせることができるかということです。

ベル:ギングラスさんが始めた「Trust Project」(報道機関の倫理方針や記事作成過程などの透明性を高め、メディアの信頼を再構築するプロジェクト)はいかがですか。信頼されるジャーナリズムをつくるための取り組みですが、「信頼」というのは「私が考える正しさ」という意味にもなってしまうと思います。ここでいう信頼とは何でしょう。記事の検証とかアトリビューションのことですか。

ギングラス:この目的は、ジャーナリズムの質をどう高めるかではなく、存在している質の高いジャーナリズムが認識されるにはどうすればいいか、ということです。

言うまでもなく、今日のメディアのエコシステムは40年前とは違います。ニューヨーク・タイムズがブログなどと対等な立場で競争しているのです。これは「私たちはニューヨーク・タイムズだから信頼してよ」という古いモデルにはもう頼れないということを意味します。

9月に、ニューヨーク・タイムズのとても才能ある記者に会いました。彼は3カ月におよぶISISに関するプロジェクトを終えたところで、3週間も編集者や弁護士に検証してもらって、明日記事が出ると言いました。

でも、彼は「数時間もすれば何百もの(大した努力なしに作られた)模倣品が出るだろうね」ともこぼしたのです。私は彼の作品が、あらゆる場所に行き多くのインタビューをこなし、編集者のチェックをクリアした結果だとわかりますが、読者はそんなこと知りません。

つまり、こういうプロセスがあるということを、もっと読者に、そしてアルゴリズムに知らせるための新しいアプローチを取れないか、ということです。私たちはソーシャルメディアで友達のお薦め記事を読みますが、その記事が定評ある編集者によってつくられたか否かということは、世間には見えていません。

写真左からTwo Centerのディレクター、エミリー・ベル氏とGoogle Newsのリチャード・ギングラス氏。

写真左からTwo Center for Digital Journalismのディレクター、エミリー・ベル氏とグーグルのリチャード・ギングラス氏。

モバイル・ウェブは危機にある

ギングラス氏は、モバイル・ウェブの閉鎖性にとりわけ危機感を持っているといい、開かれたウェブ空間を構築する必要性を何度も強調した。

ベル:最近会ったソーシャルメディア会社の設立者や、ジャーナリスト、デベロッパーなどは、一様にモバイル・ウェブの世界で起きていることに現実的な不安を感じていました。これは開かれたウェブの終焉だと。特に、アップルやフェイスブックの動向を踏まえてどうお感じになりますか。

ギングラス:まず認識すべきことは、モバイル・ウェブは危機にあるということです。これは本当に強調したいです。スマートフォンを見てください。すぐにわかります。

モバイル・ウェブは遅いし、うっとうしい広告が頻繁に現れる。これはだめです。この数カ月間、私たちはニュース媒体や技術者と一緒にどうすればこの問題を解決できるか話し合ってきました。解決策はオープンソース・モデルの構築にあると思います。ウェブの基本原則に従って、すべてのメディアが作品をユーザーの前に届けられるために、ある特定のプラットフォームとのビジネス取り引きなしに、どこでもオープンに作品が見られるようにするためにはどうすればいいのか、ということなんです。

ベル:(グーグルが)アップルやフェイスブックを買収する以外に(会場笑)、いつフェイスブックの「Instant Articles」のコンテンツをGoogle Newsで見られるようになるのでしょう。

ギングラス:それは開放性に尽きます。一度つくられたコンテンツが、どこでも見られるようなオープンソースの枠組みでどうやるか、ですね。

ベル:先日ワシントン・ポストが、すべての記事をInstant Articlesで公開すると発表しましたね。これは良いやり方でしょうか。

ギングラス:正しいです。私たちの目的は、自分のサイトやアプリを使ってもらうことです。媒体の目線としては、読者を獲得するためにどんな方法でも使うべきです。

特定のプラットフォームと契約する人たちを批判しているわけではありません。規模の大小に関わらず、どんな媒体のコンテンツでも、少なくとも特定のプラットフォームとのビジネス取り引きなしに素早いアクセスを得られる環境が必要だと言いたいのです。

ベル:それでは、アップルが進める、開かれたウェブの世界から閉じたモバイル・ウェブの世界に読者を引き込む取り組みは成功すると思いますか。

ギングラス:……成功しないことを切に願いますね。今起きていることを見ると、それは可能性としてあるとは思いますが、私たちが考えるオープンな枠組みをしっかり構築できれば、そういう結果にはならないと思います。

ある参加者からの質問に、会場からは拍手が沸き起こった。「グーグルは秘密のアルゴリズムを持っているのに、ウェブの開放性について語る資格があるのか」という問いだ。ギングラス氏の答えは明確ではなかったが、こう話した。

ギングラス:アルゴリズムはとても複雑で常に変化し続けますが、すべての人に私たちの取り組みを開示することで、結果をチェックしてもらい、グーグルが間違ったことをしていないかがわかると考えています。アルゴリズムそのものを公開することはしたくありませんが、それによって、私たちを正しい方向に導いてもらえると思っています。

(文・写真:耳塚佳代)

*続きは明日掲載します。