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世界中で消費される娯楽を手にすることを目指す

動画の有料ストリーミング配信最大手のNetflix(ネットフリックス)が、真の意味で「オリジナル」と呼べるコンテンツづくりを目指す。番組の制作を外部に任せず、すべて自前でつくるのだ。

関係者によると、今夏にハリウッドで大規模なスタジオ施設の長期リースを契約。手始めに、コムキャスト傘下のE!(エンターテインメント・テレビジョン)から引き抜いた辛口コメディ女優チェルシー・ハンドラーをホストに、新しいトーク番組を計画している。

今年前半に計画が発表された2本の新しいコメディドラマシリーズ『フレイクド』(ウィル・アーネット主演)と『レイディ・ダイナマイト』(マリア・バンフォード主演)も、新しいスタジオでの制作を目指すと、先の関係者は語る。

この試みは、ネットフリックスにとって新たな経済的リスクだ。才能あるクリエーターを雇い、設備を借りて、巨額の予算を管理しなければならない。しかし一方で、世界中で均質なサービスを提供するという目標に拍車がかかることになる。

すでに多くの番組を「ネットフリックス・オリジナル」のブランドで世界的に展開しているが、ヒット作の一部は、厳密には他社が所有している。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』はライオン・ゲート・エンターテインメントが、『デアデビル』はウォルト・ディズニー傘下のマーベルが、それぞれ制作した。ネットフリックスの独占配信契約の期間が終了すれば、ほかのケーブルチャンネルやオンライン配信サービスでも視聴できるようになるだろう。

「自分たちで番組をつくる利点は明らかだ」と、ネットフリックスのデービッド・ウェルズCFOは、7月に投資家向けの業績発表で語った。「世界中に配信でき、世界中で消費される娯楽を手にする。配信の規模を考えただけでも、とてつもない利益が想定される」

フォックスはライセンス契約を変更

コンテンツを所有すれば、21世紀フォックスやタイム・ワーナーなど、大手メディアへの依存を減らすことにもなる。消費者はテレビやケーブルチャンネルを以前より見なくなり、オンライン配信を視聴する機会が増えて、ネットワーク局にとって最も重要な収益源が縮小している。

大手メディアにとって、傘下のコンテンツ制作部門とネットフリックスのライセンス契約は、おまけのような扱いだった。しかし最近は、彼らもオンライン配信サービスとの関係を見直している。

21世紀フォックスのジェームズ・マードックCEOは9月下旬に投資家との会議で、オンライン配信の定額見放題サービスと結ぶ番組のライセンス契約を変更すると語っている。マードックはさらに、ネットフリックスをHulu(フールー)の競争相手として重視していることも示唆した。

Huluは、フォックスやディズニーABCテレビジョングループ、NBCユニバーサル(コムキャスト傘下)などが合弁事業として展開している。「今後は片方(とのコンテンツの契約)を減らし、もう片方を増やすことになるかもしれない。私たちの考え方は絶えず進化している」

「ハウス・オブ・カード」の所有権は別の制作会社に

カリフォルニア州ロスガトスを拠点とするネットフリックスは、郵送によるDVDレンタルから事業を拡大し、2007年にいち早く定額ストリーミング配信サービスを開始。以来、ショービジネスの世界に深く食い込んできた。

タイム・ワーナー傘下のケーブル大手HBOと同じように、ネットフリックスのストリーミング配信は、テレビ番組の再放送や映画のライセンス契約から始まった。2013年にシーズン1を配信した政治ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』はネットフリックス・オリジナルとして高い評価を得たが、コンテンツの所有権は、映画『テッド』などの制作で知られるメディア・ライツ・キャピタルが持っている。

ネットフリックスが自前で制作したドキュメンタリーやコメディ番組もあり、今年は制作費の安いオリジナル番組も配信している。劇場やオンラインで公開する映画も買っている。

今年8月には、ハリウッドで大規模なスタジオを構え、コンテンツ制作を強化すると発表した。新たに長期のリース契約を結んだのはサンセット・ブロンソ・スタジオ(旧ワーナー・ブラザーズ・スタジオ)の一画で、所有者のハドソン・パシフィック・プロパティーズのビクター・コールマンCEOによると、オフィスとプリプロダクション(撮影前の準備)用に約1万8500平米を確保。

さらに約1万1000平米の防音スタジオも加わる見込みだ。来年から工事が始まり、2017年前半にも入居する。関係者によると、ハンドラーのコメディ番組は、新しいスタジオが間に合わなくても制作を進めるという。

アマゾンとの契約も強化

一方で、『デアデビル』『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』『ブラッドライン』などの人気シリーズは、引き続きソニー・ピクチャーズ・テレビジョンなど大手スタジオの制作部門と提携。具体的な現場はスタジオが主導し、ネットフリックスは共同制作として補佐する。

大手スタジオにしてみれば、すでに数十億ドル相当の番組をネットフリックスに提供しており、今後の契約で彼らがどこまで後退するかはわからない。しかし、ネットフリックスの方針転換は、大手スタジオが絡むコンテンツの行方に影響を与えそうだ。

21世紀フォックスはすでに、Huluや、ネットフリックスにとってストリーミング配信の新たなライバルであるアマゾンとの契約を強化している。最大のヒット作『エンパイア 成功の代償』はHuluとライセンス契約を締結。傘下のケーブルチャンネルFXは、アマゾンと『アメリカンズ』の配信契約を結んでいる。

FXのジョン・ランドグラフCEOは、ネットフリックスが他社のコンテンツを自分たちのオリジナルであるかのように称していると批判。FXのヒット作『サン・オブ・アナーキー』も、ネットフリックスのドラマだと思っている視聴者が多いだろうと指摘した。さらに、ネットフリックスとは、本心ではもう契約を結びたくないとまで語っている。

それでも、制作費を考えればネットフリックスに権利を売らざるを得ないと、ランドグラフも認める。他のスタジオも似たような結論に至っている──ネットフリックスとの契約金は、完全に無視するには大きすぎるのだ。

9月下旬にネットフリックスは、法廷ドラマ『殺人を無罪にする方法(How to Get Away With Murder)』のライセンス契約をディズニー傘下のABCスタジオと結んだ。関係者によると、ほかにも2つの交渉が大手スタジオとのあいだで進んでいる。

原文はこちら(英語)。

(執筆:Lucas Shaw、翻訳:矢羽野薫、写真:LPETTET/iStock)

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