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ライフプランあってのファイナンシャルプラン

これからの若者は、好きな場所で好きな仕事をすればいい

2015/9/21
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第6弾である『大前研一ビジネスジャーナル No.6「教える」から「考える」へ〜世界の教育トレンド/日本人の海外シフトの現状と課題〜』(初版:2015年7月17日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。
今回は、大前氏自身の教育観に始まり、世界に見る人材海外シフトの現状、そしていかにライフプランを設計するかについて聞いた。(2015.6.4 取材:good.book編集部)
大前研一特別インタビュー:「教える」から「考える」へ〜世界の教育トレンド(9/14)

就職を急ぐ日本、急がないヨーロッパ

これからの若者たちに私が言いたいことは、好きな場所で好きな仕事をすればいい、ということです。国内にいても海外と関わる仕事はたくさんありますし、国内にとどまったから問題があるという話ではありません。ただ、出来れば子どもたちには、成長過程の途中で1年くらいアジアなどに行って、それまでとは違った環境に身を置いてみて欲しいと思います。

ドイツでは、ほとんどの人がギルド制度というマイスター(職人)育成制度の中で育ち、一方で大学に行った人たちは、将来の事務職やリーダー候補として活躍することが期待されているので、就職を急ぎません。就職内定率などという言葉が通用するのは日本と韓国、中国くらいで、イギリスやドイツにはそのような概念さえ存在しません。イギリスでこの数値を測ったら、恐らく半分を下回っているだろうと思います。ドイツの場合は、「ワンダーフォーゲル(さまよえる鳥の意)」という言葉があって、大学卒業後の若者が世界を旅して見て回ることが習慣化しています。

先日、友人とバイクツーリングをしていたら、ドイツ人青年のふたり組みが道を尋ねてきました。何をしているのか聞いたら、一ヶ月もの間レンタカーで日本を周遊しているのだそうです。

いずれにしても北欧やドイツでは、「急いで就職しても仕方ないだろう」という考えが一般的なようです。日本人にしたって、卒業後すぐに就職して40年間働き65歳で退職しても、まだ人生は20年もあるのです。しかも、この20年の間は特にやることがなくなってしまう人が多い。引退した私の友人たちに何をしているのか聞くと、せいぜい蘭の栽培か犬の散歩といったところです。最後に暇を持て余すくらいならば、就職する前の5年くらい「ワンダーフォーゲル」したって問題ないだろうと私は思います。

人生の展望を考えないから意志のない就職をする

なぜそこまで就職を急ぐのか。日本人の答えは単純で、おそらく「皆が急いでいるから」です。「お前まだ就職決まってないの?」などと言われるとひどく軽蔑されたように感じますが、イギリスやドイツではむしろその逆で、就職が早々に決まった人の方が「窮屈な生活に押し込められて可哀想」という見られ方をします。就職が決まらないことを、さも欠陥人間であるかのように見る風潮が日本にはありますよね。

お見合いと入社試験には似ているところがあって、何度やってもうまくいかない人がいます。なぜかというと、人生について考える暇がないからです。皆同じようにエスカレーターに乗って、皆が同じ「2階」を目指す。でも人生なんて、そんな簡単なものでも単純なものでもないでしょう。「とりあえずの目的は2階です」なんて言うようなつまらない人生は送るな、ということを私は強く言いたいのです。

日本は長寿世界一の国ですから、日本人は急いで生きたところで最後の20年はどうせ暇なのです。この20年を心底楽しんでいる人間を、私はほとんど見たことがありません。だからといって意味のない浪人生活などしても仕方ありませんから、学校を出てから「さあ、これから何をしよう」と考えればいいのです。

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大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数。

ライフプランを考える

「キャリアプランニング」は耳慣れた言葉ですが、「ライフプランニング」という概念が日本にはまだ定着していません。それでいて、ひたすらお金だけは貯めています。なぜかというと、こういう人たちはお金を貯めること自体が目的になっているからです。貯金の目的を聞いても「いざという時のため」。生命保険も年金も同様。「いざという時」の具体的イメージがないから、同じ目的のために貯金・年金・保険の三重投資をしているわけです。

私は、ライフプランというものを若いうちから考えていくことが、日本人にはもっと必要だと思います。自分が平均寿命まで生きていくとした時に、どう生きていきたいかを考え、それにふさわしいファイナンシャルプランを立てればいいだけのことです。ライフプランあってのファイナンシャルプラン。この順番が大事なのです。日本人にはこの順序をはき違えている人が多くて、まずは貯金という人が本当に多いのです。

ライフプランがないから、お金の使い方を知らない

最近、日本人が家族旅行をする日数の平均が年間で2日になったという統計が出ました。今まではずっと年1日だったのが、ようやく2日に増えたようです。

しかし、さんざん休暇や家族との時間を削ってお金を貯めておきながら、最後にはそのお金を使うこともなく天国に持っていってしまうのです。これだから日本は不況なのですが、最近ではこの貯金を自分が死ぬまでに使いたいと考える人も増えていて、そういう人の一部がJR九州「ななつ星」のような贅沢に流れているわけです。

こういう人たちは無精でライフプランもなく生きてきたので、たった3泊4日の電車旅に150万円も注ぎ込む。なんとこれがものすごい人気で、乗車した10組のうち1組は次回をその場で予約していくと聞くから驚きです。冷静に考えたら、九州一周をするといってももっと安く済むはずなのです。ただ、それには行く場所や宿泊先など自分で考えて行動しなくてはなりませんから、そのような習慣がない人にとっては楽な「ななつ星」がいいのでしょう。

旅行や、人生でやりたいことは、どんどん実行していった方がいいのです。このふたつは、70歳を過ぎてから考えるのは難しいですから。そのためには若い頃から計画的に実行していかなくてはなりません。ライフプランさえあればファイナンシャルプランも少しは変わってくるはずなのです。私はこのことを今まで何度も提言してきていますが、日本人の生活パターンは昔からずっと変わりません。

重税時代の中でも楽しむスタンス

日本という国は、どのように稼いでも55%は国に持っていかれます。給与も55%引かれ、相続税も55%、キャピタルゲインで得ても同じように引かれるのです。江戸時代は五公五民といって税率は50%でしたから、実は現代は江戸時代よりもひどい重税の時代というわけです。

よく相続税対策などと叫ばれていますが、そのようなことは親が高齢になってから考えても無駄です。相続税を回避するためにシンガポールや香港など海外に出る人がいますが、そういう人たちはたいてい海外で寂しい老後を過ごしています。そうなるくらいならいっそ、最初から50%はないものだと思って、残った金額の範囲で人生を楽しめばいいと私は思います。

相続税対策をしたいのであれば、子どもが生まれた時点で始めなくてはなりません。早くから動けば法定の範囲でもって出来ることもたくさんあります。ただライフプランもファイナンシャルプランもない人は、手遅れになってようやくこの事実に気づくわけです。

あの松下幸之助氏も、最後は遺産の半分が国に持っていかれると知って「江戸時代だったら農民一揆だ」と、『無税国家論』を提唱されていました。日本が生んだ天才経営者でさえも、自らのライフプランを立てるのは苦手だったようです。幸之助氏は、美術館を作ったりハーバード大学に寄付したりと、お金の使い道を探っていました。だからハーバード大学には今でも、リーダーシップ論講座の中に彼の名を冠した授業があります。ご本人はとても喜んでおられましたが、やはり計画性があるに越したことはありません。

最後になっていきなり勢い任せにお金を使うよりも、計画的に楽しみを織り交ぜながら生きていった方がよほどいいのです。死ぬ時は貯金ゼロでいいのですから。

(2015.6.4 取材・文責:good.book編集部)

次回、「世界の教育トレンド〜世界に通用する人材を育てるには〜」に続きます。本連載は次回から毎週水曜日に掲載します。

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