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『モータリゼーション2.0×都市』〜都市におけるモビリティの可能性〜

DeNAと国交省のキーマンが語る、「モータリゼーション2.0」で日本が勝つ戦略

2015/9/20
NewsPicksとHIPは、「モータリゼーション2.0×都市」をテーマにしたコラボレーションセミナーを開催した。次世代自動車と都市との関係を、業界のフロントランナーや専門家が解説したパネルディスカッションをリポートする。第2回は「モータリゼーション2.0の自動車」をテーマに、自動車や社会、サービスについて詳説する。

今どうしてDeNAが自動車なのか?

中島宏((株)ディー・エヌ・エー 執行役員 新規事業推進室長)

中島宏氏(ディー・エヌ・エー 執行役員 新規事業推進室長)

中島:DeNA(ディー・エヌ・エー)が注力している領域の一つに自動車があります。DeNAのオートモーティブ事業は、今4事業あり、3事業はもうスタート済みです。

1つは、ロボットタクシーという会社をZMPと提携して立ち上げました。これはDeNAが66.6%保有です。もう1つが、DeNAロケーションズという、スマホで使えるカーナビアプリを提供している会社。これは韓国の有名なベンチャーと一緒に提携し、49%を相手に持っていただいています。

もう1つがakippaと一緒に事業を展開していて、出資率が49%で、今、経営支援をして、数字が伸びてきているという状況です。もう1つはまだ発表できないんですけれども、車の所有の在り方を変える新サービスというのを仕込んでいるところです。

どうしてDeNAが自動車事業に参入したのか。理由にまず挙げられるのは、市場が非常に大きいこと。一つひとつの産業が兆単位で、全体で50兆とか60兆とか、インパクトの桁が違う。

次に、今、自動車とそれを取り巻く環境に有史以来、最大の変革が訪れている。特によく言われるのが、ハードウェアからソフトウェアに付加価値の源泉が移行してきているとうこと。

この現状を携帯電話の歴史になぞらえると、自動車業界はまだiモード前夜。車にインターネットがつながり始めて、何かすごいことが起こりそうだけど、まだ何が起こるのかわかっていない、というタイミングだと考えています。

事業を進めていく中で、多くの声があるのが「過疎の地域の移動困難者を助けてほしい」や、これは都内も含めてですが、「介護事業者の人手が足りない」という話。あと、「高齢者の方々の事故が非常に多いので、自動運転化することによってそれを低減してほしい」といったものです。

このビジネスを成功させればさせるほど、世の中のためになる。そういうところにやりがいを感じています。

2020年オリンピックがチャンス

5年後の2020年に、日本で東京オリンピックがあるというのは、ほかの国と比べて非常に優位性がある。1960年代の第1次モータリゼーションのときは、オリンピック前後ということで、産官学が連携して、一つ大きなことを世の中に見せていこうという動きがあった。このチャンスを生かさないほうが損というか、絶対生かすべきだと思っていて。

シリコンバレーでは企業単位でIT産業が、自動車領域やグローバル標準モデルを取りにきている。ドイツは製造業の文脈で、インダストリー4.0を進めている。

「じゃあ日本の特徴は何か」というと、やっぱり社会システムとして、すり合わせなどの日本の強みを生かして、世界に乗り出していく。そして、日本は世界最初の高齢化社会のR&Dの市場なので、そこでサービスパッケージをつくって、世界にその産業を輸出していく。

そういったところまで見せられると、社会的意義も高いですし、ビジネスインパクトも非常に大きいと考えています。

モビリティ産業とインターネットとの融合から、ライフスタイルと社会システムの変化が起こると、車関連サービスの周辺には、単なる車の事業そのものじゃなくて、いろいろなサービスが勃興するだろうと思っています。

そこには、「マクロトレンドをどう読むのか」「ユーザーニーズをどうつかむのか」「ユーザー体験をどう設計するのか」といったインターネット企業が持っている力が生きてくる。そこの部分を発揮して、貢献していきたいと思っています。

つまり、マーケットが大きく、変化する中、インターネットの会社の強みが生きそうだから参入したということです。

政府として一つになっているビジョンはない

黒須卓(国土交通省 企画室長)

黒須卓氏(国土交通省 企画室長)

黒須:実は政府として一つになっているビジョンはないということだけ、最初にお断りしておきます。そのうえで、論点になりそうないくつかの提言をご紹介していきます。

国交省としては、交通空白地域の運送に非常に興味があります。また、内閣府に置かれている「戦略的イノベーション創造プログラム」で、さまざまな流通分野について検討していて、その中で自動走行システムの検討が進んでいます。

社会的、産業的、それから移動の価値改革と多様化と、非常に多様な検討を進めています。

それから、ビッグデータ処理。車が持つ、あるいは車が集めることができるさまざまな情報をどう活用したらいいか、これも検討が進んでいます。すでにイギリスやアメリカでは、運転手の運転、たとえばスピードを速めに運転するかゆっくり運転するか、急ブレーキが多いかどうかで保険料を変えるサービスがすでに始まっています。

こうした情報を活用した仕組みがつくれるだろうと。また自動車流通市場においても、履歴情報を収集することでより精緻な使用履歴や購買履歴が測れるだろうというトレーサビリティサービスも考えられています。

さまざまな会議、あるいは検討が行われている

ちょうど1カ月ほど前に、経済産業省と国土交通省と有識者の方、アメリカの方も入って、自動走行ビジネス検討会というものをやりました。

この中でも、産業としての在り方や日本の自動車部品産業はどうやっていったらいいか、自動運転の文脈では産業としてどう発展したらいいかなどを検討した会議がありました。

さまざまな会議、あるいは検討が行われています。

では、次世代の自動車社会はどういうかたちで社会に影響を与えていくか。たとえば、コンパクトカーがさらに超小型モビリティのようなものに発展していくとどうなるか。都市の構造を変えるのか、変えないのか。あるいは高齢化とどう関係するのか。

また、人手不足、特に運転者不足というところで、地方の足、物流システム、これにも人手不足が影響を与えているので、これがどういうふうに変わっていくのか。

渋滞などへのソリューションも挙げられます。以前だとピークロードプライシングという、シンガポールで行われているような価格による経済的インセンティブで、自動車の量を調整していたものを、自動車とインターネットがつながることで、ICTを利用して、渋滞が起こりそうな道をあらかじめ伝える、あるいは混み具合を先回りして信号にリアルタイムで反映する。

需給量調整メカニズムが、ITS(Intelligent Transport Systems)と呼ばれる技術でこれからどんどん進んでくると思います。

ほかにも、位置情報や走行データ、燃費などの車から得られるビッグデータプローブ情報を、どう活用していけるのか。以上のことが今後の「モータリゼーション2.0」という社会の中に含まれる、さまざまな要素や概念に影響を与えていくのではと考えています。

問題は人手不足。ロボットタクシー

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佐々木:黒須さん、どうして国の政策ってこんなにバラバラなんですか。大局的に何を目指しているのかが、わからないと思いまして。

黒須:ビジネスだと、ある顧客の層に絞って、特徴的な話題をつくりだしても批判はされません。でも、行政は、話題にならない社会的な課題にも対応しなければならないから、どうしても総花的になる。逆に言えば、すべてを統合して1つの概念にまとめ上げるのは、正直、難しいと思っています。

佐々木:多分、「モータリゼーション2.0」がインパクトを与える業界や、分野が大きいということの証左でもあるわけですよね。中島さんは、自動車産業に参入されて、「話を聞かせてくれ」と引く手あまただと聞いたのですが、どういった依頼が大きかったのですか。

中島:最も反響をいただいたのは、ロボットタクシー。国内の都道府県や市町村です。

過疎が深刻な中山間地域の県や市では、1キロぐらい行けばバスや、電車の駅があるが、高齢者はそこまで行けないので、コミュニティバスや、デマンドタクシーを運行したい。

しかし、地元の事業者に話をしても、まず人手不足と言われる。たとえばタクシーの運転手さんが1人採用できたら、地方に回すよりも都市部に回したほうが売り上げが立つので、どうしても優先順位が上がらず、担い手がいない。

実は、関東圏の神奈川や千葉でも、部分的にもう過疎が始まっている地域があり、そういったところでも、似た悩みを抱えていて、直接担当部署もできていて、何かできないかと直接お声かけをいただくことも多いですね。

佐々木:中山間地域の話は、国交省も高齢者対策として抱いているイメージに近いですか。

黒須:近いといえば近いです。やはり人手不足で公共交通や準公共的交通が供給できないことによって地域の生活が細ってしまう。

たとえば、物流、山奥までものを届けるというのもなかなか難しい。ビジネスベースで行われている宅配便は、ユニバーサルサービスとしてどこにも行ってくれるイメージありますが、実は採算が乗るかどうか、いいビジネスかといえば、かなり厳しい。物流面でも、人手不足がかなり大きな課題になっているというのは、これは間違いないです。

自動運転について

佐々木:今回のテーマは「都市」ですが、地方と都市では、新しい技術の使われ方が全然違うと思います。たとえばロボットタクシーに関して言うと、2020年のオリンピックまでには実現させると宣言されています。実現しますか?

中島:2020年までには実現「させたい」ですね。すでに技術的には、環境を制限すれば実現できる状態にある。たとえば特定の道路だけにするとか、ある程度優先路の道路にするという制限をかければ、実現の可能性は高まります。ただ、特に東京オリンピックで、都心で無人の車を運行させるというのは、ショーケースの意味合いが強い。

ビジネスを成立させるというよりは、この環境でここまで実現しているのであれば、困っている地域の解決の一手になり得るんじゃないか、と示す。

佐々木:自動運転に限らず、電気自動車、パーソナルモビリティであるとか、都心において、どう車が使われるか。黒須さんが注目されているポイントは?

黒須:一つは、超小型モビリティは大きな可能性があるんじゃないかなと思います。

電気自動車や自動車運転とも親和性が高いと思いますが、都市においては駐車スペースの問題と、渋滞問題というのが大きな話だと思うので、それを解決していく物理的な方法として超小型モビリティは大きな話の1つとしてはあるかなと思います。

シェアリングはもののシェアリングに限る

中島:都市部に限定した話になりますが、圧倒的にシェアリングエコノミーに興味を持ってます。シェアリングといっても、2種類あります。1つはもののシェアリング。Airbnb(エアビーアンドビー)や、車や駐車場などもの自体のシェアリングです。

もう1つは、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)の労働力のシェアリング。この2つは同じ言葉でくくってはいけないほど違うものだと思っています。そして、私が圧倒的に興味を持っているのは、前者の、もののシェアリングのほうです。

具体的な事業では、一つは、もうすでに始めている駐車場のシェアリング。月極の駐車場がすごく余っていて、そこを1日単位で貸し出すことによって新たな経済が生まれるというところ。

もう一つは、一般の方が所有されている車。これは実は稼働率が5%以下だと言われていて、95%以上の時間が、個人の方の駐車場で眠っている。ここに着目したサービスを展開していきたいと思っています。

ただ、非常にいろいろな法律や規制がかかっていますので、どういうかたちであれば許されるのか、違法性のない展開を実現していきたいと思っています。

黒須:技術的な側面からの安全、安心が想定されやすいと思うのですが、労働の質に対しての部分をきちんと守るべき線だと国土交通省としては考えています。一方で新しい需要、新しい社会的なニーズに対応していく必要もあると思います。

佐々木:その意味で、多少問題があるということですね、今のウーバーとかは。

中島:個人的には輸入モデルのビジネスモデルって、もう、やっていてもしょうがないのかなと思います。まだ世界のどこでも実現していないビジネスモデルを、高齢化する日本の環境で、R&D拠点として、世界に先駆けてサービスをつくって、それをグローバル展開していくというくらいの志を持たないと、先細りすると思いますね。

アジアはスピードがある

佐々木:中島さんは、シンガポールや韓国などのモータリゼーションの状況も見てこられましたが、日本と比べて、どう感じましたか。

中島:国や政府の動きは、正直、ほかの国のほうがかなり攻めの姿勢ですね。特にシンガポールとか韓国とか。中国は国全体というよりは都市レベルで非常に攻めの姿勢です。

基本的に「規制とか法律は曲げるから、来て、やりたいことを言ってくれ」と。投資、おカネのつきかたも桁が違う。ただ、マーケットのニーズが顕在化しているのは圧倒的に日本ですね。

黒須:人口規模とか、地域の多様性、複雑さを考えると、日本は非常に多様で、面積も広い。シンガポールは、東京23区より小さい中で、東京23区みたいな行政をやれば十分。

日本は、全面的に何かをいきなりビッグスタートするよりも、特区制度など、スモールスタートで進めるのが、一つのやり方かなと思います。

佐々木:中山間地域で、自分の行きたいところにロボットタクシーが連れて行ってくれる世界って、どれくらいの時間軸でできると思われていますか。

中島:内部でも結構、議論がありまして、さっき言った通り、2020年は東京でショーケースとしてある程度制限された環境で実現するのがターゲットです。

ただ、世界的に人材獲得競争が起こっている中、トップランクの研究、もしくは実証実験ができる人材を、どれだけ獲得できて、何チームつくれるかによって、2020年の時点で地方で実現できるか、できないかが決まる。アグレッシブにやっていきたいと思っていますが、人材次第ですね。

新しい解決策には、裏の側面がどうしても出てきてしまう

佐々木:「モータリゼーション2.0」の世界を実現するためにどこを乗り越えるのが重要だと考えますか。

黒須:どうしても私の立場だと、社会の持つ価値観の問題は大きい。たとえば自動運転やビッグデータなど、いろいろな要素技術を基にしたさまざまな解決策が出てくると、そこで考えなければいけない社会的価値が必ず出てくる。

それは「社会的受容性」として、守るべきもの、達成すべきものを社会がどのように考え、受け入れるかが最大のポイント。国が言ったからとか、国がこう仕掛けたからと言ってできることって、多分、実はほとんどなくて。

やっぱり物事が進むのは、ニーズの顕在化であって、それを解決していこうとするビジネス側の意欲が、私は原点だと思うんですね。

国の役割は、そうした際に、先ほど述べたことと重なりますが、社会的な課題にも対応し、社会的受容性を反映させた制度をつくっていくことにあると思います。

(取材・文:福田 滉平、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載予定です。