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第3回は「仕事」から読み解く

若者は「働き方」にどのような意識を持っているのか

2015/9/17
プロピッカーで電通若者研究部の奈木れい氏が、「消費」「恋愛」「仕事」という3つの切り口から、「欲がない」といわれている若者の本当の“欲”に迫る。果たして、これまでの世代とはどんな意識の違いがあるのだろうか。3日連続全3回。

若者には働く意欲がない?

先日、「若者×働き方調査」というのを電通総研と共同で実施したところ、「若者の3割ができれば働きたくない」という結果がでました。NewsPicks内でも読者の皆さんから多くのコメントが寄せられていました。今回は若者の「働き方」にフォーカスしてみたいと思います。

「若者の3割ができれば働きたくない」。この結果に対して、皆さんはどのように考えていますか。「3割じゃなくて、もっと多そう」もしくは、「こんなに働く気がないのか」など、さまざまなことを感じたのではないか、と想像しています。

ただ、私たちは若い人たちに働く意欲がない、とはまったく考えていません。大きく変化したのは、“どのように働きたいのか”という働き方の部分なのです。

少し前までの日本は「24時間戦えますか」というリゲインの広告に登場した言葉に代表されるように、とにかく働き、お金を稼ぎ、そして出世することが当たり前でした。

しかし、現代の日本では根本的に変化しました。働き手として女性の存在も大きくなり、日本全体の経済状況の変化も伴って大きく変化してきました。同時に、“働き方”というテーマそのものが日本だけではなく、世界的にも叫ばれるように変化してきたのです。

2年前に就職活動生に対して行った調査の中で、「多少忙しくても出世したいか、出世するよりのんびりと暮らしたいか」と聞いたところ、47.5%が多少忙しくても出世したいと回答し、52.5%が出世するよりものんびりと暮らしたい、と回答していることからも、働くことに対する価値観が変化していることがわかります。

ちなみに、余談にはなりますが、今の18~29歳の若者たちに「企業戦士」や「モーレツ社員」という言葉の認知について聞いたところ、「企業戦士」を知っていた若者は、40~49歳の認知が53.6%であったことに対して、31.2%。「モーレツ社員」を知っていたのも40~49歳の認知54.4%に対して、21.7%にとどまりました。

単純に言葉として少し古い、ということも認知には関わってきますが、一方で類似した意味を持つ言葉が存在していないのは、世の中の機運としても、こういった“とにかくがむしゃらに働く”ということが叫ばれなくなったことがわかります。

若者は何のために働くのか

そのような中、今回実施した調査では、非常に興味深い結果が出ました。それは、若者の4人に1人が「日本人の働き方や働く環境はおかしい」と感じているというものです。

今の若者たちは、SNSやテレビ、そして本など、さまざまなメディアを通じて働き方の多様性を知る機会を持っています。また、「失われた20年」の言葉の通り、バブル崩壊後の日本の中で育っていることもあり、「明日何が起こるかわからない。いつ突然自分が勤めている企業が破産するか、絶対的に安心できるものはないのかもしれない」という意識を、働き始める前から持っている、という特徴があります。

2013年に就職活動生を対象に実施した調査の中でも、「大企業で働きたいか、企業規模は気にしないか」を聞いたところ、企業規模は気にしないと約6割が回答しました。

さらに、日本生産性本部が今年の新入社員に対して行った調査結果でも、「会社を選ぶときどのような要因を重視したか」という問いに対して、30.9%もの若者が「自分の能力、個性が生かせるから」と回答しました。

企業規模よりも、自分とその企業の相性や関係性に重きを置いていることがわかります。単純に企業規模だけを自らの企業選びの物差しにするのではなく、その企業の中における“自らの在り方”まで意識しているといえるのではないでしょうか。

また、何のために働くか(働く目的・モチベーション)について聞いたところ、1位は「安定した収入のため」と回答したのが男性で68.5%、女性で70.3%でした。次いで「趣味や遊びに使うお金を稼ぐため」「将来(就労期間中)の生活資金のため」という回答となりました。

一方で理想的な働く目的やモチベーションは何かと聞くと、1、2位は上記と同様でしたが、3位に「生きがいを得るため」という回答が入ってきている部分もあり、若者たちが働くことに対して強い目的意識や意味を見いだそうとしている姿も見ることができます。

電通総研「若者×働く」調査(2015年)より。

電通総研「若者×働く」調査(2015年)より

また、「仕事を通じて交友関係を広げたいか、今の人間関係が心地よいので広げたいとは思わないか」と質問をしたところ、78.8%が交友関係を広げていきたいと回答しており、仕事を起点として自分の世界を広げていきたい欲求なども持っていることがわかります。

そして、働く意欲はもちろん持っているものの、理想のロールモデルとなる大人像が見えにくくなっている若者の現状も垣間見えます。

同調査の中で「こんなふうに働きたいと思える人がいますか」と聞いたところ、18~29歳の男性67.2%、女性70.5%が「こんなふうに働きたいと思える人はいない」と回答しています。

働き方だけではなく、今の世の中には過去に存在していたような、社会全体が向かっていく物差しがなくなっています。そのような中、若者たちは従来の価値観とは異なる新しい価値観(物差し)で自らの働き方を考えている、といえます。

連載の第1回でも書きましたが、やはり若者たちはネガティブな側面が注目され、記事やニュースになっているものが多くなってしまいがちです。しかし、若者たちは一概にネガティブなほうへ変化しているとは思いません。丁寧に彼らの状況を読み解いていくことで、解釈できることはたくさんあります。

今回の連載を通じて、若者たちのさまざまな実態をお伝えできていればとてもうれしいです。