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カントリーリポート:インドネシア(予告編)

「眠れる巨人」、インドネシアは目覚めたか

2015/9/13
8月18〜25日に連載した「ざっくりASEAN」では、ASEAN全体に対する視点と基本情報を提供した。本日からは国別編にあたる新連載「カントリーリポート」をスタート。9月13〜22日にかけて、東南アジアの大国インドネシアを10回連載で取り上げる。「外交官×エコノミスト」としてASEANを長期にわたってウオッチしてきた筆者の視点から、独自の情報・分析を生かして、インドネシアを見るための視座を提供する。

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中国やインドと並ぶ、最も重要な国

「活気あふれるジャカルタでのご活躍をお祈り申し上げます」

これは、筆者が2年ほど前に日系航空会社を利用してインドネシアの玄関口スカルノ・ハッタ国際空港着陸したとき、機内アナウンスで客室乗務員がアナウンスした一節である。いつものあいさつとは違うな、と感じたので、今でも良く覚えている。

インドネシアは、約2億5000人の世界4位の人口と豊富な天然資源を擁することから、経済成長の潜在性の高さが注目されている。その一方で、「眠れる巨人」「アジアの臥龍」とも呼ばれていた国である。

筆者が外務省から証券会社に転身した2010年、インドネシアは眠りから遂に覚めたかのように、経済成長の熱気に満ち始めていた。当時、インドネシアに出張したビジネスパーソンが、帰国後に口をそろえて言う言葉は、「活気」であった。

国際協力銀行(JBIC)の調査によれば、日本の製造業企業はインドネシアが今後の事業展開で最も有望な国の一つとみなしている。2013年の調査では初めて1位となった。

日本企業のビジネスにとって、インドネシアは、インドや中国と並んで、最も重要な地域として存在感を高めている。こうした日本とインドネシアの関係については、連載の1〜2回目で要点を解説する。

先行きを不安視する声も

しかし、このところ、現地に行くたびに、インドネシア経済の先行きに対する不安や不透明感を心配する声が大きくなっている。筆者は年間3から4回はインドネシアで調査を行っており、定点観測的に会う人物もいるが、8月に面会したある市場関係者は、これまでのトーンよりもやや警戒感が強くなっていた。

また、米国連邦準備制度理事会(FRB)がなかなか利上げに踏み切らない中、新興国市場の変動性(ボラティリティ)が高まっている。インドネシアも例外ではなく、通貨ルピア安、ジャカルタ総合指数の下落に見舞われている。

インドネシア市場に対する懸念の声は、特に証券投資や為替ディラーなどの投資家から強まっている。景気回復のタイミングが予想よりも遅れがちであることから、事業会社の間でも懸念の声があがり始めている。

確かに、短期的には、経済成長率はゆるやかな減速の一途をたどっている。改革を掲げるジョコ政権に対しては、なかなか景気が上向かないことから、期待外れだという声もあがり始めている。

こうした政治経済・金融マーケットについての一般的な見方について、筆者は少し違った考えを持っている。これについては、連載の4回から7回目で詳しく分析したい。

長期的にはインドネシアの重要性は高まる

いずれにせよ、インドネシアという国を長期的にみれば、日本にとって欠かせない国の一つといえる。

短期的な動向も重要だが、より長期的な展望を予測していく必要がある国と言えよう。現在試みられている改革や政策は、スピードが十分とはいえないが、成果が出始めている分野もある。

インフラ開発の遅れも経済成長の重しとなるといわれていたが、飽和状態のスカルノ・ハッタ国際空港には第3ターミナルが完成し、首都ジャカルタ市内に向かう空港鉄道の着工も始まっている。そして、日本政府の政府開発援助(ODA)による地下鉄「南ジャカルタ線」は着々と工事が進んでいる。

国際政治経済においても、インドネシアの重要性は高まっている。1999年に財務省・中央銀行G20に参加し、世界秩序をつくる側に回った。

また、今年9月8日、石油輸出国機構(OPEC)はインドネシアの再加盟を認めた。インドネシアは産油国であり、OPECには創立2年後の1962年から加盟していたが、2008年には純輸入国に転じ、2009年にはOPECからメンバーシップを停止されていた。インドネシアのエネルギー担当相は、サウジアラビアによる支援で再加盟が実現したことを明らかにしている。

短期的な浮き沈みはつきものである。その間に次のステップへと進む準備をした国が生き残る。インドネシアはどういった選択をするのか。長期的視野でみればインドネシアの動向はアジア経済にとって重要な影響を与え、安全保障においてもキーストーン(要石)となり得る。

豊かな歴史と文化、若者や青年が紡ぎ出す新しい可能性

インドネシアの歴史は面白い。1万3000以上の島から成る世界最大の群島国家がどのような歴史を持ち、現在のインドネシア共和国になったのかをぜひ知ってほしい。

また、世界最大のムスリム(イスラーム教徒)人口を擁するが、昔からイスラーム圏だったわけではない。基層文化としてヒンドゥー文化があり、バリ島などに現在も根づいている。インドネシアの歴史は、現代の文化的多様性も生み出している。

歴史については第3回で取り上げるが、眠くなるような歴史講義はするつもりはない。インドネシアでビジネスをしたり、インドネシアの人々と交流するうえで、歴史へ敬意を払う外国人は一目置かれる。信頼関係を築くためには歴史理解は必須であり、そのための視点を提供したい。

これからのインドネシアを担う若者や青年層の創造性にも感心させられる。ジャカルタでは古い市場を活用して、若者が集まり飲食店やオリジナルグッズを売る「パサール・サンタ」という場所がある。アイデアにあふれた楽しい空間であり、つい長居をしてしまう。

一方、農村でも青年層の農家が新しい試みに取り組んでいる。たとえば、有機栽培の米やカカオ農家は、インドネシアの豊かな自然の恵みの本来の力を引き出し、良質な農産物を市場に供給している。

筆者が今年8月に訪問したカカオ農家は、京都のチョコレートメーカーで気鋭の起業家吉野慶一氏が代表を務める「Dari K(ダリケー)」に良質なカカオを供給しており、日本のチョコレートファンの間で話題となっている。

丹精込めてひと工夫した農産品は、一般的な価格よりも高く買い取られ、農村の暮らしを豊かにすることに貢献している。こうしたインドネシアの新潮流ともいえる動きについては、筆者がこれまで足しげく通ってきたインドネシアでの現地調査を踏まえ、第8回で取り上げる。

読書案内とQ&Aも。読者と共につくりあげる連載を

インドネシアという魅力的でダイナミズムにあふれた国を10回の連載で語り尽くすことはできない。

本連載をきっかけとしてインドネシアをより深く知りたいと思う読者に向けて、第9回には読書案内を予定している。インドネシアを理解するために、筆者がえりすぐったインドネシア関連書籍を紹介したい。

そして、「ざっくりASEAN」を連載したときと同様、コメント欄を活用して読者の皆さんと対話していきたい。最終回の第10回目では、読者のみなさんからのコメントや質問に対する、筆者の見解や回答を記す予定だ。

「カントリーリポート・インドネシア」を読むに当っては、8月に連載した「ざっくりASEAN」も併せて読むことをお勧めしたい。すでに読んだ方も、今一度読み直してほしい。きっとインドネシアという「国のかたち」をASEAN全体の位置付けの中で、より深く理解してもらえるはずだ。

*目次
【Vol.1】日本との関係:(1:経済・ビジネス)日本の中のインドネシア、インドネシアの中の日本
 【Vol.2】日本との関係:(2:外交)投資は「プロモシ」、広がる協力の領域
 【Vol.3】インドネシア史への視点:ヒンドゥーからイスラーム、植民地、独立
 【Vol.4】マクロ経済動向:正念場迎え、我慢の経済運営が続く
 【Vol.5】主要産業と貿易:「資源の呪い」から逃れられるか
 【Vol.6】マーケット:インドネシアの株式・為替・債券市場 
 【Vol.7】現代政治の構造:ジョコ大統領誕生のインパクト
 【Vol.8】新しい潮流:若者の創造性と青年層のチャレンジ
 【Vol.9】読書案内:インドネシアを理解するためのえりすぐり書籍
 【Vol.10】Q&A:読者の質問とコメントに答える

<初回10/7 ASEAN経済フォーラム(by SPEEDA)の開催>

10月7日(水)午後2時から丸の内にて、この記事を手がける川端と日本貿易振興機構(JETRO)より海外調査部アジア大洋州課長 池部 亮様や他ASEANに詳しいゲストを招き、記事に連動したフォーラム第一回を開催いたします。

下記リンクより、ぜひお申込みください。
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