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PHVのある未来(1) 津田大介氏インタビュー

クルマは走るモバイルバッテリーになれるか

2015/9/1
電気自動車(EV)は充電ポイントも増え徐々にインフラが整いつつあるが、まだその普及は十分とは言い切れない。一方で、トヨタ自動車や欧州メーカーを中心にプラグインハイブリッド(PHV)にも力を入れ、1つのメインストリームになりつつある。現実的な最適解としてのPHVと将来性について、連載を通じてさまざまな有識者とともに議論していく。初回は、ジャーナリストの津田大介氏に非常時に活躍する「移動型のエネルギー貯蓄体」という価値をもったPHVの実力について聞く。PHVは、防災に強い街づくりでどんな役割を果たしていくのだろうか。(聞き手:モータージャーナリスト 川端由美)

車から電源をとりながら被災地を取材

川端:津田さんは東日本大震災のとき、ずいぶんと車で被災地の取材に通っていらっしゃいました。

津田:2011年3月11日から2012年3月11日までの1年間で25回、大体50日くらいは行きましたね。そのうちの9割くらいは自分の車で運転して取材してました。実は震災直前、当時モデルチェンジしたばかりのエスティマハイブリッド(エスティマHV)を購入したんです。その新車のエスティマHVで、震災1カ月後には被災地に向かいました。

川端:エスティマHVを購入された理由は何だったんですか。

津田:もともとその前もエスティマHVに10年ほど乗っていたんですよ。エスティマHVがいいのは、取材をするのに「電源がとれる」ことと「車内スペースが広い」こと。これが購入の決め手になりました。1500ワット(*1)の電源がとれて、ノートパソコンや複数のスマートフォンを充電できるのが何よりの魅力でした。

川端:震災直後、電源がとれるHV車はすごく重要でしたよね。

津田:そうなんです。エスティマHVは低燃費なうえ、ガソリンさえ手に入れば、かなりの電力を供給する発電機にもなる。実際、気仙沼からニコニコ生放送で中継するときや、2011年6月に福島県のいわき市で被災したコンビニと協力して音楽イベントをやったときも、僕のエスティマHVから電源を引っ張りました。

川端:すごいですね。1500ワット(*1)とれるっていうのは、かなり大きいですよね。

津田:車に12口くらいあるでかいテーブルタップを積んで、ノートパソコン、ルーター、スマホ、カメラなど(*2)を車中で充電するわけです。それもスタッフ全員分なので、コンセントの口があっという間に全部埋まってしまう(笑)。そうやって車を走らせながら、機材を充電して移動していました。

川端:走りながらモバイルを充電するのは、すごく効率的な方法だと思います。HVは走行中に発電した電気をバッテリーにためることができる仕組みになっていますがフル充電されたあとに電力が余ってしまう場合があります。本来なら余るはずの電力をほかの電化製品への充電に充てられるわけですから。

津田:そう、走ることで電気がつくられているわけだから、電気を無駄遣いすることにもならないですよね。

津田大介 つだだいすけ 1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。 大阪経済大学客員教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。 NHKラジオ第1「すっぴん!」パーソナリティー。テレ朝チャンネル2「ニュースの深層」キャスター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中

津田大介(つだ・だいすけ)
1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。大阪経済大学客員教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。NHKラジオ第1「すっぴん!」パーソナリティー。テレ朝チャンネル2「ニュースの深層」キャスター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中

被災地で「命をつないだ」プリウス

津田:被災直後、東北を取材している中で「プリウスが活躍している」という話を現地で何度も耳にしました。

当時ガソリンはなかなか手に入らない状況だったんですが、スタンドによっては徹夜で並べば10リットルだけ売ってもらえたりしたんです。そうすると「このたった10リットルのガソリンでどれくらい動けるか」ということが重要になってくる。

プリウスの燃費のよさが命をつないでくれたんですね。仙台のトヨタのディーラーに取材したとき、「“プリウスのおかげでみんな助かった、ありがとう”と被災者に言われて、本当にうれしかった」と言っていたのが、すごく印象的でした。

燃費の良さが、まさに命に直結する──。非常時のモビリティの重要性がよくわかりました。

川端:実際に現地の状況を体験している津田さんの言葉だけに、重みを感じます。

津田:非常時に大切なのは、まずはガソリンが使える燃費の良い車であること。同時に「発電できること」も重要になってくる。EVは災害時に巨大な蓄電池になるのは素晴らしいんですが、いろいろな機器に給電して電気を使い切ってしまうと、そこで終わりになってしまうんですね。

移動体だけではないPHVの価値

川端:震災時、プラグインハイブリッドはまだ登場していませんでした。もし、あのときPHVがあれば、電気もガソリンも両方使えるという強みを最大限に発揮できただろうと思います。

津田:震災という視点から見ると、確かにPHVの可能性は大きいですよね。充電して電気で走ることもできれば、蓄電池にもなる。

車がパソコン機材(*2)を充電する巨大なモバイルバッテリーになるわけです。もし電池が切れても、ガソリンさえあれば走り続けることができるし、その走りによって走行中のエネルギーを回収して充電し、電化製品などに給電することができる。

巨大な蓄電池であり、発電機としても使えるのはPHVならではの特徴でしょう。HVだけでもEVだけでもない、ガソリンも電気も使えるPHVは一番対応力があると思います。

川端:エネルギー源が2つあって選べるのは意義があるし、充電してほかに給電できるというのも強い。ガソリンがなくて電気しかないときでも、あるいはガソリンがあって電気がない状況でも、フレキシブルに対応できることが、災害時に最も威力を発揮するんでしょうね。それに、PHVはHVに比べて電池容量が格段に大きい点が重要になってきます。

いざとなると、巨大な蓄電池として使えるわけで、災害に強い街づくりを考えていくうえでは、外せない存在となります。それこそ、PHVが「次世代車の本命」とされる根拠の1つです。

災害時の「情報」を車が支える

津田:震災のような非常時って、電源を供給するだけで、ものすごく感謝されるんです。いろいろな避難所を回って取材しましたが、避難所にいた人に「今、何が欲しいですか?」と聞くと、皆さんまずは「情報」と答えるんですね。

でも、情報というのは通常、携帯電話やスマホ、パソコン、テレビ、ラジオなどから得るわけですから、情報を得るには電源が必要になる。そう考えると、非常時には電源がとれる車が「情報を支える存在」になるんです。

川端:私は震災のとき、シンガポールから成田に向かう飛行機の中にいました。あのとき、成田にも羽田にも到着できず、結局福岡に降り立ったんですが、国際線で入国の制限があったからか飛行機の中に2、3時間閉じ込められていました。そのたった2、3時間でさえ、情報がないことがすごく不安でした。

津田:機内で携帯電話は使えたんですか?

川端:東京にいる人とは携帯電話がつながらずに、皆さん、ツイッター経由で情報を集めるんですが、「東京は全滅している」とか、そういうデマも含めていろんな情報が飛び交うんです。正しい情報が得られない怖さというのをつくづく感じました。

津田:僕は震災が起きてすぐ、ネット中継のために先代のエスティマHVで都内を移動していました。とにかく渋滞がすごくて中野から日本橋浜町まで移動するのに5時間もかかったんです。

その間もノートパソコン(*2)を車の電源につないで、ネットの情報を整理したり、確度の高い情報をツイッターで発信していました。電源を得られたことで、時間を有効活用できたんですね。

川端:電源が落ちるだけで、情報の入手も発信もできなくなります。「情報」をなりわいとされている津田さんにとって、どんなときも電源が確保できることは最優先事項ですよね。

もちろん、津田さんが話されたように一般の人にとっても、「情報」はものすごく大切で、PHVであれば車から電源をとることで「情報」というライフラインを確保できますし、大容量の電源を取れるクルマならヒーターやお湯を沸かす電源としても使える。そういう意味でもPHVは、これまでの「移動体としてのクルマ」だけではない価値を持っていますね。

川端由美 かわばたゆみ 工学を修めた後、エンジニアとして就職。自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開

川端由美(かわばた・ゆみ)
工学を修めた後、エンジニアとして就職。自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開

未来のプリウスPHVはマルチパーパスに

川端:では、これからのプリウスPHVの進化に期待していることはありますか。

津田:もう少し電池の容量が増えたほうが使い勝手がよくなると思います。

面白いEVの使い方をしているところが、徳島県の神山町にあります。あるIT企業が古民家をサテライトオフィスにしているんです。ユニークなのは、古民家の隣にある蔵の中が大容量のサーバールームになっていて、そこにはEVがつながれているんですよ。

川端:EVが災害や停電対策ということですか。

津田:そう。停電になっても、EVが非常用電源のUPS(無停電電源装置)になるんです。

川端:EVによっては、補助金を入れると300万円を切る価格で手に入るものもあるので、UPSを買うよりずいぶん安くすみますよね。

津田:まさにそこがポイントなんです。大容量の非常用電源は高いものでは500万円くらいする。それならEVを非常用電源として置いておくほうが安上がりなんです。彼らはEVを「乗って移動もできるUPS」と呼んでいて、目からウロコが落ちました。

プリウスPHVも、電池容量をもっと増やして非常用電源機能をもっとスマートに使えるようにすれば、「乗れるUPS」として活用できますよね。

川端:「乗れるUPS」というキーワードは、キャッチーですね。

津田:あとは、バッテリーの取り外しができると便利ですね。トランクルームにPHVで充電した電池が積める場所があって、必要なときに取り外して使える、というような。

川端:カートリッジみたいに、一部だけ取り出して使えるというイメージですね。

津田:人によってはトランクルームをつぶして、バッテリー専用スペースにしたっていい。パソコンでいうメモリーを増やす感覚です。

スペースが狭くなってもいいからバッテリーの容量を確保したいというニーズは確実にあると思いますよ。シートアレンジができるのだから、「バッテリーアレンジ」ができたっていいじゃないか、みたいな。PHVにそういう選択肢があると、もっと汎用性が広がりますね。

川端:さすが、津田さんの求める次世代車は、発想が面白いですね。

津田:プリウスPHVは、今後究極のマルチパーパス(多目的)車になってほしいですね。ただ走ればいいというのではなくて、震災のように何かが起きたとき、「これがあってよかった」という車。エスティマHVやプリウスがいかに震災に強かったかを知っているだけに、これからのプリウスPHVの可能性に期待しています。

(編集部注:リチウムイオンバッテリーの充電量が少なくなると、停車時でもエンジンがかかります。一部地域では車両の停止中にエンジンを始動させた場合、条例に触れ罰則を受けることがありますので、十分にご注意ください)

*1:合計1500ワット以下の電気製品をご使用ください。ただし、1500ワット以下の電気製品でも正常に作動しない場合があります。詳しくは販売店にお尋ねください。

*2:製品によっては正常に作動しない場合やご注意いただきたい項目があります。ご使用になる前に必ず取扱説明書をご覧ください。

(構成:久川桃子、工藤千秋 撮影:福田俊介)

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