[東京 31日 ロイター] - フォルクスワーゲン(VW)<VOWG_p.DE>との提携解消で、スズキ<7269.T>は競争力強化に向けて新たな戦略を迫られる。提携の最大の目的だった環境技術の強化では、すでに他社による合従連衡が進んでおり、提携のこじれから足踏みしていたスズキの出遅れは否めない。

今回の裁定で指摘された一部の契約違反に対し、VWから損害賠償を請求される可能性もある中、スズキは環境技術戦略と新たな提携先探しという厳しい課題に直面している。

<エコカー技術の開発に遅れ>

「これまで『のどに小骨が刺さったようだ』と話してきたが、非常にすっきりした」――。裁判所による結論を受けて、30日に東京都内で会見したスズキの鈴木修会長は満足げだった。2009年の提携発表から約6年、11年の仲裁申し立てから4年近い時間を費やし、事業計画を狂わせてきたVWとの問題解決にようやくめどがついたからだ。

しかし、スズキがVWとの係争に時間を費やしている間に、他社のエコカー戦略は次々と動き出している。トヨタ自動車<7203.T>とマツダ<7261.T>がことし5月、環境技術での協力を視野に包括提携を発表。トヨタはすでに究極のエコカー(環境対応車)と言われる燃料電池車(FCV)の量販車を昨年末に発売。ホンダ<7267.T>も米ゼネラル・モーターズ(GM)<GM.N>とFCV技術の共同開発に乗り出している。

一方、スズキは世界で通用するエコカー戦略で後れを取っている。スズキは今月26日にモーターと発電機でガソリンエンジンを補助する簡易型ハイブリッドシステムを搭載した小型車を発売したばかり。準備中の本格的なハイブリッド車(HV)の小型車投入も早くて来年以降の見通しだ。   

軽自動車市場では高い販売シェアと燃費技術を誇るスズキだが、軽自動車税が引き上げられ、足元の販売は低迷。人口減少が著しい日本において軽自動車市場は縮小していく可能性が高く、「世界のスズキ」として躍進するためには、「軽のスズキ」からの脱却が急がれる。

実りのなかったVWとの提携が続いたおよそ6年の間に、同社は軽自動車「アルト」で1リッター当たり37.0キロという高い燃費を達成するなどの自助努力を重ねた。鈴木会長は「災い転じて福をなす」という表現でこうした成果を強調し、今後の提携戦略は「自立して生きていくことを前提に考えていきたい」と語った。だが、スズキはもともとエコカーの技術供与を受けるはずだったGMがリーマン・ショック後に経営破綻したため、GMとの提携が叶わず、VWと組んだ経緯がある。

VWから環境技術の供与が受けられなかったスズキは11年、伊フィアット<FCHA.MI><FCAU.N>からディーゼルエンジンの調達を受けることを発表。VWはこれを契約違反として強く非難していた。スズキは一部契約違反の具体的な中身について「違反になる」(原山保人副会長)として明かしていないが、VWから損害賠償が請求される可能性がある。スズキが単独で最先端のエコカーを開発するのは資金的にも難しい。

<スズキの独自性が強みに>

自動車業界や株式市場でも「スズキが将来の成長戦略を描くうえで、有力なパートナーは不可欠だ」との声は多い。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表は「会社が自立することと、提携関係を組むことは必ずしも相反する話ではない」と語り、スズキが提携を模索するだろうとの見方を示している。       

VWはもともとスズキと新興国向け低価格車の開発を進めるはずだった。このため、「大きな成長が今後見込めるインド市場でトップシェアを持ち、低価格で小型車を作る技術のあるスズキの魅力は大きく、他社が放っておくはずはない」(日系自動車メーカー幹部)との声も少なくない。

(白木真紀 取材協力:舩越みなみ 編集:北松克朗)