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(ブルームバーグ):オバマ大統領をはじめ歴代の米大統領や国賓、世界の要人をもてなしてきたホテルオークラ東京。切子を玉型にした吊り灯「オークラ・ランタン」が淡い光を放ち、窓には大きな格子をあしらうなど本館ロビーの随所に和の意匠が見られる。

しかし、この本館は建て替え工事のため31日で閉館。ホテルだけでなく、企業に貸し出すオフィスフロアも併設した高さ195メートルの高層ビルなどに生まれ変わる。

「日本モダニズムの傑作」と評される本館を取り壊しから救おうと、ライフスタイル誌の英モノクルは「ファイナル・チェックアウト」と称した嘆願サイトを開設。イタリアのファッションブランド、ボッテガヴェネタも記録に残すため写真共有サイトのインスタグラムに投稿を呼び掛けている。

同ホテル広報担当の鈴木隆太郎氏は電子メールで、「日本のみならず海外のお客様から惜しむ声をこれほどまでにいただいていることに心から感謝申し上げたい」と述べた。建て替えについては、1962年の開業から半世紀以上で老朽化し、「日本のトップホテルにふさわしい快適な時間と空間を提供し続けることが難しくなった」と説明する。

64年東京五輪をにらみ開業したホテル群は建て替え期を迎え、新装オープンしたパレスホテル東京や東京ヒルトンホテル(現キャピトル東急ホテル)に続き、オークラ本館も建て替え、19年の再開業を目指す。いずれもホテル以外にオフィスも入居する高層複合ビルだ。米不動産サービスのジョーンズラングラサール(JLL)の沢柳知彦執行役員は、収益安定に向け「オフィス部分が増えるのは世の定め」と話す。

有効活用

昨年5月の建て替え発表を受け、ホテルオークラの荻田敏宏社長は同年7月のインタビューで、老朽化に加え07~08年の世界金融危機が建て替え決断の契機になったと話していた。09年度に赤字転落し、グループ最大の収益源のオークラ東京の強化を検討。「法定容積率の約半分しか使っておらず、有効活用すれば改善余地がある」と考えたという。

地上11階建ての本館は41階建ての高層棟と16階建ての中層棟に建て替えられる。中層棟は全てホテルだが、高層棟はホテルのほか、8~25階がオフィスフロアとなる予定。客室は408室から510室に増やす。

新国立競技場問題のように建築費高騰はホテル建設にものしかかる。JLLの沢柳氏は、ホテルの場合「各部屋ごとにバスルームなどオフィスに比べ内装を作り込む必要があり、建築費上昇の影響はより大きい」と話す。外国人観光客増で「ホテルのキャッシュフローは強くなっているが、オフィスを上回るまでには至っていない」とし、同じ開発案件なら「ホテルより儲かるオフィスになりがちだ」という。

16年夏の再開業に向け、建て替え中の旧赤坂プリンスホテルも、商業施設を含むオフィス・ホテル棟と住宅棟で構成される複合型施設になり、客室数は従来の700室以上から250室に減る。

日本は安い?

円安や東南アジア諸国向けのビザ発給緩和、格安航空(LCC)の乗り入れなどで、1-7月の訪日外国人客数は1105万人となり、昨年より3カ月も早く1000万人を突破。STRグローバルとJLLによると、 6月の東京の高級ホテル稼働率は83.3%と、1年前の80.4%を上回った。平均客室単価も前年同月比で約11%上昇、約3万1000円となった。

それでも「日本のホテルは安い」と、ホテルファンドを2本組成したスパークスの阿部修平社長は話す。マンダリンオリエンタルホテルで25日に1泊した場合、東京の客室料は6万7000円(約560ドル)に対し、ニューヨーク795ドル(約9万5000円)、ロンドン798ポンド(約15万1000円)、パリ975ユーロ(約13万5000円)だ。

同氏は20年に及ぶデフレの結果、「日本は品質が高いのに値段が安い。モノの価値の感覚が大幅にずれている」と語る。

オークラ・ファン

ホテル・オークラによると、本館建て替え前に国内外の顧客が宿泊するケースもあったという。建て替え後も日本の伝統美を継承する方針で、設計チームには現本館を設計した谷口吉郎氏の長男で建築家の谷口吉生氏を起用した。

しかし、海外のオークラ・ファンは取り壊しを惜しんでいる。ソウル在勤のドイツ銀行のアンドリュー・リンジー氏もその1人。同氏は過去1年に2度来日し、フェイスブック上の「セーブ・ジ・オークラ」 (オークラを救え)に投稿するため写真を撮った。「完璧なミッドセンチュリーの日本風モダン建築なのに」という。

モノクル誌のタイラー・ブリュレ編集長は、「ロビーの優雅さや低層階のショッピング街、着物姿のアテンダントに風格のあるオーキッドバー。その全てが素晴らしい」と絶賛する。

リンジー氏は言う。「このような再開発はここ何年も続いており、現代社会の現実だ」

--取材協力:桑子かつ代.

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