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三木谷浩史×三田紀房、インベスターPicks【前編】

三木谷浩史「リスクをとって飛び込む、“最初のペンギン”であれ」

2015/8/17
モーニングで連載中の『インベスターZ』とNewsPicksがコラボレーション。著者の三田紀房氏が数々の著名な起業家・投資家を訪ね、投資の神髄を聞く。第1回は楽天・三木谷浩史社長が登場する。第1回の対談は「ファーストペンギン」なる耳慣れない言葉から始まった。実は、『インベスターZ』でも登場し、三木谷氏自身もお気に入りの言葉だという。

沈みゆく氷山の上から思い切って飛び込む「最初のペンギン」

──まずそもそもファーストペンギンという言葉を三木谷さんは最近よく発言していますよね。一方、モーニングで連載中の『インベスターZ』という漫画があるんですが、その第6巻では表紙にペンギンが登場しています。お二人に聞きたいのですが、なぜファーストペンギンという言葉に注目しているのでしょうか。

三木谷:1980年代前半からインターネットというものが登場しました。またWorld Wide Webができて昨年でちょうど25周年なんです。25年経って今やIoT(Internet of Things)、モノがインターネットにつながる段階にまで進化しました。

そのモノとはスマートウオッチやテレビだけでなく、車を含む電気につながるあらゆるモノすべてを指します。その次にはディープラーニング、AI(人工知能)が控えている。これは第1次産業革命、第2次産業革命を上回る革命と言っていい。人間の生生から国の在り方まで、教育、医療、農業まで全部にかかってくることだと思います。しかも、それがすさまじい速さでやってきます。もう次から次に新しいことにチャレンジをしていかないと厳しい状況になっています。

やっぱり、沈みゆく氷山の上で手をこまねいているんじゃなくて、飛び込んで新しい「魚=事業領域」に踏み込んでいかなければならない。だって、今の氷山はどんどん小さくなってきているから。ならばリスクをとって最初に飛び込むペンギンになろう、それがファーストペンギンです。

──三木谷さんがファーストペンギンを口にしたのと同時期に三田さんもペンギンを表紙にしましたが、なぜここでファーストペンギンを漫画に登場させたのでしょうか。

三田:まずペンギンというのがビジュアル的にわかりやすいから。登場人物である財前は中学1年生で投資部に入ったことによって、いろんな社会の仕組みをいろいろ勉強していくんです。

漫画の中には経済の話や株の話、金融の話など結構複雑な話も出てきます。その中でペンギンという象徴はわかりやすいんです。漫画の最大の武器は絵がつくことによって読者の理解度がすごく高まるところにありますから。

(C)三田紀房/コルク

(C)三田紀房/コルク

──ファーストペンギンという言葉は響きはいいかもしれませんが、なかなか今の日本社会では受け入れられにくいのではないでしょうか。新しく出ようとする、飛び込もうとする人たちに対して、「ちゃんと順番待ちをしろ」とか「行儀よくしろ」と言うのが日本です。

三木谷:確かに。群れを離れて飛び出すと浮いちゃうとかね。後ろ指を指されるみたいな。そういう雰囲気を壊したいというのはあります。

三田:確かに日本は同調主義というか、みんなが横並びでいることに非常に安心感を得るのが日本人ですから。でも『インベスターZ』を読んで、中学生がそれに刺激を受けて、「あ、そういうふうにして社会に参加していくんだ」ということをこの漫画の中で学んでほしい。

できれば、そこからさらに進んで「いつか自分もファーストペンギンになりたい」と思ってほしい、そういうメッセージは一応込めたつもりではいます。
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どうやってファーストペンギンになるのか

──いわゆるアントレプレナーシップですよね。それは三木谷社長も政府の産業競争力会議で発言しています。

三木谷:まるで日本にはアントレプレナーシップというものが存在しないように語られていますが、そんなことはありません。日本の今までの歴史を見ると、やっぱり幕末から明治維新にかけて。それから第2次世界大戦、敗戦したあとの終戦後、この2つの時代に大きな波がありました。つまり、前の世代の人たちが何らかの外的要因で一掃された後ですね。

実は、今現在は、日本では戦争や革命は起きていませんが、同様の時代背景にあるように感じています。それがインターネットですべてが地続きになったということ。国境はもはやなくなったと言っていい。よって、日本人だけでいいものつくっていれば食っていけるんだ、という時代はもう完全に終わった。そういう時代において、やはりイノベーションこそが、国の力になる。

──ですが、どうやったらファーストペンギンになれるのでしょうか。親や先生がそれを教えるのは難しいですよね。「人と同じことをしなさい」とどうしても言ってしまいがち。三木谷さんの経歴を振り返ると、一橋大学を出て日本興業銀行を出てという、典型的なエリートコースを歩んできました。ですが、そこからある日、ポーンと飛び降りる。そのとき何を考えたのか。なぜそこでリスクがとれたのですか。

三木谷:僕はリスクをとってるつもりはないし飛び込んだつもりもない。極論を言えば「だって魚いるじゃん、そこに」みたいな感じです。「魚が泳いでいる。みんな、見えないの?」と。

だからある意味、他人から見ると無鉄砲に見えるかもしれませんが、確信を持って飛び込んでいるんですよね。三田さんこそ、漫画家という相当リスクの大きい選択をしていますよね。

三田:確かにリスクが大きそうに見えますが世間が思っているほど、漫画家になるのは難しくないと僕は思ったんですよ。

要するに、きちっと商品をつくって出版社に納めれば、出版社を満足させられる。クオリティが高くて品質のいい商品であれば買ってもらえて原稿料というかたちでリターンが得られます。では、何をつくればいいか。手っ取り早く言ってしまうと、対立と和解なんですよ。ほとんどの漫画が。

三木谷:なるほど。

三田:だから、対立と和解を軸にストーリーをきちっとつくって持っていけば、だいたい載るという確信がありました。

三木谷:あんまり言わないほうがいいんじゃないですか、そういうことは(笑)。

三田:いやいや、でも、いくらこういうことを言っても、意外とみんなはやらないんですよ。それで、自分の作品への「こだわり」を強く持っちゃう。僕はそういうこだわりは一切ないんですよ。

とにかく売れるもの、儲かるものを書くというのが出版社から求められていることだし、それに応じるのが僕のスタイル。そこさえわきまえていれば一般に思うほど漫画家のハードルは高くないんですよ。しかも、漫画界というのはものすごく間口が広い。

──なるほど、間口ということですが、事業の立ち上げ方について“間口”という考えは持ちますか。

三木谷:そうですね。極端な話をすれば、間口以前に、よほどコンセプトさえずれていなければ、成功しない事業なんてありません。事業で成功していないというのは、実行の段階で何らかのミスがあるんですよ。

イーロン・マスクと話していても、基本的な姿勢はぶれていない。「だって、行けるでしょ。電気自動車が走れるんだから。計算したらいけるじゃん」っていう。その延長線上に「計算したら火星も行けちゃうでしょ」というのがある。ならばあとは実行力の問題ですよね。

──それがでも、普通の人には荒唐無稽に見えるんですよ。「そんなことになるわけないだろ」みたいな。漫画好きだけど、書きたいけど「漫画家は無理だ」と。で、「サラリーマンになるしかない」ということが大半の人なんですよ。そこは何が違うんでしょうか。「無理だろ」と思う人と、「火星行けるだろ」「魚があるから最初に飛び込むだろ」と思える人。

三木谷:アントレプレナー、起業家ってどういう生き物かというと、登山家に一番近い。目の前の山を登り切ることに、生きがいと快感を感じるんだと思うんですよ。

一部ではグーグル対フェイスブックのように格闘技みたいになっている局面もあるけど、本来は自分の山を考えてそれを登り切る。登り切る間に、また別の山やさらに高い山が登場することもあります。簡単なことはあんまり楽しくない、みたいな。

「売れる漫画」と「成長する事業」に共通する要因

──それ、漫画も同じじゃないですか。

三田:漫画家とか小説家、いわゆるクリエイターという、非常に成功確率が低くて、食うのに困っている人が大半だと思われていますが、完全な誤解ですね。

だって、出版界って漫画が一番儲かっているんですよ。漫画をやっていない出版社って、みんな大変なんでね。漫画だけがビジネスとして儲かるんですよ。そこに自分なりに考えたノウハウを持つことが大きな武器になりますね。

三木谷:ノウハウ?

三田:イメージですけど、フィールド、すなわち畑があるというふうに僕は考えるんです。やっぱり畑を耕すときに、みんなちっちゃいところから耕し始めると思います。僕は思うに、まず杭をどこまで立てるかっていうことを初めにすべきかと思います。

たとえばこの『インベスターZ』、文字通り「投資」がテーマの漫画なんですよね。でも、それだけだと、すごく畑としてちっちゃい。そこに、たとえば今までの日本経済の歴史や戦争という要素を織り込んでいく。

そこからさらに具体的な杭を打ち込んでいく。たとえば、日経平均と言われても、なんとなく言葉だけはわかるけど、日経平均そのものの本質がよくわかっていない。では株価とは何か、などの小さな杭を打ち込んでいく。

そして杭を打ち込み終わったら、一気に各杭を縄で囲ってしまう。ここで重要なのは自分のその畑をなるだけ大きくつくっておくこと。なぜかというと、漫画ってヒットするとみんな参入するんですよ。編集者ってパクるということに何の罪悪感もない(笑)。

きちんと畑を囲うことができれば、あとはその中で勝手に花がどんどん育っていくんですよ。で、育ったところで一気に刈る。ちょっと抽象的かもしれませんが、これが僕のビジネスパターン。ずっと繰り返し守ってきました。

──楽天のビジネスでも何かありますか。

三木谷:もしかしたら三田さんが言ったのと似ているかもしれない。最初に、ものすごい大きなフィールドをまず抑えて、各事業での杭を打ち込んでいく。最初は赤字かもしれないけど、きちっと囲っていればある日ガバっとリターンがある。で、今は世界で杭を打とうとしているわけです。まだ、杭と杭を結ぶロープが短かすぎて届いていないところもありますが。

三田:なるほど。気をつけているのは、杭を打つときにちゅうちょしないことですよね。地面にがっちり食い込むくらい打つ。ちゅうちょするとだいたい失敗するんで。もうベンチャーや起業の漫画と言えば『インベスターZ』だと。しつこいくらいに印象づけるようにしています。「もう投資と言えば、これ!」っていう。決定版にしてやろうと思っています。

三木谷:そのための「Z」なんですか。主人公の財前君もZから始まるし。

三田:それもありますけど、「インベスター」というワードだけではちょっと弱いんですよね。で、ドンと強烈な印象を植え付けるためのZですね。余談ですが、実はタイトルの付け方にも法則があります。それは、濁点と「ん」が必要なんですよ。イ「ン」「ベ」スター、には2つの要素が入っています。それに「ゼ」ットでさらに印象を強くする。

三木谷:ら、く、て、ん。「ん」はありますね。

三田:「ん」ありますね(笑)。いち「ば」がある。なるほど。じゃあ、楽天市場はオッケーですね?

──楽天トラベルもオッケーですよ。

三木谷:おお、それは安心ですね(笑)。

──じゃあ次は三木谷さんの歩んできた道について、いろいろお話してもらいましょうか。
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*続きは明日掲載します。