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巨大ロボットの意味

巨大ロボット日米対決。エンタメとしての魅力

2015/7/27

巨大ロボットの対決

『鉄人28号』や『機動戦士ガンダム』など、日本のアニメには巨大ロボットがしばしば登場してきた。巨大ロボットは、日本の子どもたちにとって闘うヒーローだ。成人になっても巨大ロボットのファンであり続ける人々も多く、その熱が高じて物理的な巨大ロボットがつくられてきた例が日本にはいくつもある。

最近、日本が得意なその巨大ロボットに、アメリカのロボットが挑戦状を突きつけたことが話題になった。挑戦を挑まれるのは、日本が誇る巨大ロボットの「クラタス」(水道橋重工製作)。挑戦を挑むのは、アメリカで最近生まれた「マークII」(メガボット製作)だ。

挑戦状も、それを受けて立とうという受諾も、「YouTube(ユーチューブ)」のビデオで交わされたのだが、その大げさなやりとりを見ているだけでかなり面白い。

星条旗をマントにしたアメリカのロボティシストの2人は、「水道橋! 俺たちには巨大ロボットがある。お前たちにも巨大ロボットがある。次に何が必要かはわかるだろう? 俺たちは決闘を申し込む」などと挑んでいる。ご丁寧に、ビデオは日本語の字幕付きだ。

これを受けて、水道橋工業側も社長自ら「油圧」と書かれた日の丸を肩にかけ、「もうちょっとカッコよくつくれよ!」と、相手のロボットにまずケチをつけて、決闘をやろうじゃないか、という返答ビデオを公開した。

このやりとりを見て、アメリカのアニメやロボットファンは大喜びだ。こんな巨大ロボットは1台いるだけでも迫力十分だというのに、2台集まって互いに闘うとなれば、その様子を想像しただけで興奮するだろう。

Megabots Inc.

メガボットのロボット(Megabots Inc.)

巨大ロボットは、本当のロボットではない

ただのビデオのやりとりなので、具体的な日時や場所が決まっているわけではない。それにビデオをよく見ると、お互いに「闘いの場所を用意すれば、そこへ行く」などと言っており、相手任せである。どこかのエンターテインメントかメディア会社がセットしなければ、実際の闘いは実現しないだろう。

ところで、この巨大ロボットはわれわれが親しんできた、愛すべきタイプのロボットだが、これから世界の産業と生活を変えようとしているロボットではない。

そもそも巨大ロボットは「パイロット・ロボット」と呼ばれるように、中に人が入って操縦しているものである。人の力が何十倍にも大きくなって、巨大な動きに翻訳されているが、実際には重いモノを持ち上げるパワーはないのだ。

いろいろな混乱があるが、本来のロボットの定義は自律的に「認識し」「考え」「動作する」ものを指す。認識とは、環境や相手の動きなどをカメラやセンサーで知ることであり、それを分析し、考えて判断を下し、その結果しかるべき動きや行動に出ることだ。人間がやっているような、これらの一連のことを自律的に行わなければロボットとは呼べない。

そう考えると、巨大ロボットは、見かけはすごくとも残念ながら本当のロボットではないということになる。この基本的な点は見誤ってはならない。

水道橋重工

水道橋重工のロボット(水道橋重工)

エンタメとしてはピカイチ

一方、巨大ロボットに似ていてちょっと違うものに、軍事用のエクソスケルトン(パワードスーツ)やビッグアームと呼ばれる製品もある。

こちらは、見たところ人間のような手足があって、人間が中に入っているところまでは巨大ロボットと同じだが、実際のパワーが異なっている。

これらのエクソスケルトンやビッグアームは、人間の実際の力を何倍ものパワーにして、長時間歩き続けたり、重いモノを持ち上げたりすることができる。

「認識する」「考える」の部分はないが、「動作する」の部分で機械にしかできないパワーを発揮するところが、ロボットとしての大きなポイントだ。今後筋肉の信号や脳波を拾って動作するようになれば、より本格的なロボットにつながる。

とは言え、巨大ロボットにはエンターテインメントとしてピカイチの魅力がある。ただ、この巨大ロボット同士の闘いが実現するなら、注意深く行われるべきだろう。

一部には、いずれの巨大ロボットも銃を備えていて、「こうした破壊的な闘いは、イノベーションには何の役にも立たない」という声も出ている。「ワシントンポスト」のブログも、そんな意味のことを述べていた。

確かに空想としての銃と、ロボットであれ実際に相手に向けられる銃とでは、その持つ意味がかなり異なる。ロボットが巨大だから、なおさらそのインパクトは大きい。

相手を撃ち倒した場合の破壊度は、心理的にもかなりの打撃だ。それに中に人も入っている。「面白い」だけではすまなくなることもあるだろう。不必要な損傷なしに、闘いをエンターテインメントにする工夫が必要だ。

巨大ロボットは、しょせんアニメや空想の産物だ。だが、ロボットが本当の世界にやってくるようになったこの時代には、空想のロボットにもちょっとした責任が出てきたと言わざるを得ないのだ。

「サルコス社のビッグアーム」で、www.arcos.com

サルコスのビッグアーム(www.arcos.com)

*本連載は毎週月曜に掲載予定です。