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広告出稿に700社が群がる理由

スマートニュース、グノシーとは違う、アンテナの独自マネタイズ戦略

2015/7/24
モバイル時代のニューメディアとして脚光を浴びるキュレーションメディア。その中でも、独自のマネタイズ戦略で急成長を遂げているのが「Antenna(アンテナ)」だ。マネタイズ戦略のキーパーソンへの取材を通じて、そのユニークさと今後の進化を探る。

顧客数は700社に急増

ここ数年、急激な勢いでユーザー数を伸ばすキュレーションメディア。その中でも、ユーザー数で言えば、「SmartNews(スマートニュース)」や「Gunosy(グノシー)」が頭ひとつ抜けている。

一方、独自路線を突き進み、確固たるポジションを築きつつあるのが、アンテナだ。ユーザー数は約400万人に達し、特に女性(全体の50.4%)と若い年代層(20〜40代が80%)に人気を博している。

アンテナのコンセプトは「メディア of メディア」(メディアのハブ)。約450のメディアと契約を結び、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webなどあらゆるメディアのコンテンツを配信している。

スマートニュースとグノシーが、新聞寄りの速報ニュースが多いのに比べ、ライフスタイルやファッションなど、雑誌寄りのコンテンツが多いのがアンテナの特徴だ。

アンテナのマネタイズの柱は広告だが、目下、広告ビジネスが急成長中。広告主には、トヨタ自動車、三井不動産、味の素など一流企業がずらりと並ぶ。1年前に20〜30社にすぎなかった広告出稿企業数は、現在、700社程度にまで膨らみ、月間の広告売上高は、数億円レベルに達しているとみられる。

アンテナの広告ビジネス好調の秘密、アンテナのマネタイズ戦略のユニークさはどこにあるのだろうか。

スマホでブランディング広告を開拓

アンテナの快進撃を読み解くキーパーソンがいる。アンテナの運営会社であるグライダーアソシエイツで、マネタイズ戦略とビジネスアライアンスを統括する荒川徹COOだ。

荒川氏は、ネットリサーチを手がけるマクロミル出身。同社で事業会社リサーチ営業、北米赴任などを経験した後、今のポジションに就いた。もともとは広告の門外漢だ。

ゼロから事業を立ち上げてきた荒川氏にとっても、アンテナのここまでの人気は予想を超えている。“想定以上”の人気の理由はどこにあるのか。

「スマートフォンがこれだけ普及する中で、広告主側からもPCの延長線上にある広告とは違う、新しい広告をもっと試したいというニーズが強い。ビジュアルで見せる動画広告を求める顧客が多いが、今年に入ってクール(3カ月単位)や年間での発注が増えてきている。中長期で顧客を育成していきたいニーズが強いと感じている」

荒川徹(あらかわ・とおる) 早稲田大学大学院商学研究科修了。マクロミルにて事業会社リサーチ営業、北米事業担当、セルフアンケートツール「Questant(クエスタント)」事業開発責任者を経て、2014年、グライダーアソシエイツに入社。COOとしてキュレーションマガジン「Antenna(アンテナ)」の広告事業および各種ビジネスアライアンスの統括を担う

荒川徹(あらかわ・とおる)
早稲田大学大学院商学研究科修了。マクロミルにて事業会社リサーチ営業、北米事業担当、セルフアンケートツール「Questant(クエスタント)」事業開発責任者を経て、2014年、グライダーアソシエイツに入社。COOとしてキュレーションマガジン「Antenna(アンテナ)」の広告事業および各種ビジネスアライアンスの統括を担う

スマホシフトが進む中で、スマホ広告ブームに沸いているのはアンテナだけではない。たとえば、グノシーも2015年5月期に51億円の売上高を見込むなど、広告収入をぐんぐん伸ばしている。そうした中で、アンテナが注目されるのは「ブランディング広告」という分野を切り開いたからだ。

これまでWebの広告と言えば、検索連動型広告を筆頭に「1クリックいくら」「獲得コストはいくら」というふうに効果検証するのが通例。「購買にどれだけつながるか」を極限まで追求する世界だった。逆に言えば「スマホはブランディングには使えない」というのが常識だった。

その常識に風穴を空け、雑誌やテレビ広告のように「ブランディングのために広告を打つ」流れを創ったところに、アンテナの斬新さがある。

ゲームアプリの広告を断った理由

ただし、この戦略は「言うは易し、行うは難し」だ。なぜなら、短期的な収益を求めるならば、ブランディング型より獲得型のほうが手っ取り早いからだ。

実際、一時、アンテナのもとにはゲームのアプリ会社から「広告を出したい」という問い合わせが殺到した。しかし、ゲームアプリの広告は両刃の剣だ。短期的な収益にはつながるものの、ゲームアプリの広告を並べると、一流の広告主がブランディング広告を出しづらくなってしまう。

そのため、目の前の数字を捨てて、ゲームアプリの出稿を断った。その決断は吉と出る。その後、ブランディング広告の出稿が増え始めたのだ。

「昨年の6月くらいから“スマートフォンブランディングメディア”として展開し、徐々に問い合わせが増えた。『画面がきれいだからうちもやってみたい』『アンテナだったらやってみたい』という声が多く届くようになった。ラグジュアリーな印象が強いかもしれないが、自動車や不動産から、化粧品・日用品・食品、行政まで幅広く利用されている」(荒川COO)

現在、アンテナの広告商品には広告記事を配信するものと、動画を配信するものがある。単価は、広告記事は5記事で150万円、動画は1素材当たり150万円というシンプルな設定だ。

企業や商品のブランド価値を高めるクリエイティビティが高い評価を受け、アンテナの広告事業は絶好調。顧客は約700社まで膨れ上がった

企業や商品のブランド価値を高めるクリエイティビティが高い評価を受け、アンテナの広告事業は絶好調。顧客は約700社まで膨れ上がった

一般的に、マーケティングには購買に至るまでのプロセスとして「認知→興味・関心→理解→行動」の4つがあるが、そのうち、アンテナの広告が狙うのは「興味・関心」と「理解」。テレビのような「認知拡大」や、Web広告で重視される「行動」は狙っていない。

「われわれが重視するのは、認知よりも、興味喚起。今の時代、商品名を知っていても、その中身の良さを理解する機会がすごく減っている。競合商品が多くある中でも、ブランドのストーリーを知ってもらうことで、より選択されやすくなると感じている。自動車、不動産など、一生に一回の買い物になると、特にそうした部分が重要になるのではないか」

「興味喚起」を促すためにも“人”の力による、クリエイティブも重要になる。そのため、コンテンツを専門的に見る編成チームを組成。編成チームが創った特集と広告をうまく組み合わせるなどして、雑誌に近い世界観を生み出している。この点も、スマートニュースやグノシーといったアルゴリズム重視派との大きな違いだ。

カギとなる「効果指標」

ここまで順調にビジネスを拡大しているアンテナ。しかし、「スマホ空間でブランディング広告が定着した」と言い切るにはまだ早い。

これはアンテナに限らないスマホメディア全体の課題だが、確たる“効果指標”を生み出さないかぎり、スマホでのブランディング広告ブームは一過性となりかねない。

スマホ空間におけるブランド広告の指標は、世界でさまざまなトライが行われているが、まだ“正解”は見つかっていない。

たとえば、米国の新興メディアである「BuzzFeed(バズフィード)」は、自ら「ブランドリフト」という指標を創り、ネイティブ広告の普及を促している。これは読者調査によって、「ネイティブ広告を読んだ前と後で、どれだけ当該ブランドの好感度が上がったか」を測るものだが、手間もかかるため、どれだけ幅広く普及するかは読みづらい。

では、アンテナはどのように効果検証に取り組もうとしているのか。荒川氏はこう語る。

「今はいろいろな指標で試している。代表的な指標は、滞在率や訪問回数。要は、繰り返し、同じ企業の異なる広告やコンテンツを見ている人ほど、その企業に対するロイヤリティや愛着、理解が増すのではないかという仮説。各関係者と連携し、内部のデータと外部のサイトのデータを紐づけることで、統計的にそれを証明していきたい」

マクロミルがネットリサーチを専門としている点は、効果指標の確立において、アンテナのひとつの強みになるだろう。

プロが創ったコンテンツを流通させる

独自の戦略によって、独自の成長を遂げるアンテナ。では、2020年に向けて、どのような進化を目指しているのか。荒川氏が注目するのは「プロによるコンテンツ」だ。

「コンテンツの量は、静止画・動画を問わず、どんどん増えている。そうした中で、今は素人が創るコンテンツも、プロが創るコンテンツも一緒くたに存在している玉石混交の状態。しかし今後は、プロが選んだ素材が集約して、それを流通させる仕組みがすごく重要になると思う。だからアンテナは、そうしたプロのメディアが創る本物のコンテンツだけをスマートフォンで届ける『メディア of メディア』を目指している」

では、今話題の人工知能(AI)についてはどうか。

「僕は、AIがその人に合ったものを選ぶという技術にはまだ疑心暗鬼なところがある。人間は非合理的に意思決定をする部分がある。各人の過去のデータをもとに、カスタマイズするよりも、普段気づかない情報をプロの人たちが選んで届けてくれる仕組みのほうに意味がある世の中になるのではないかと思う」

AIよりも人間。獲得型広告よりもブランディング。株式上場よりも非上場。アンテナを運営するグライダーアソシエイツは、創業者の杉本哲哉CEO自ら「上場を目指さない」方針を示している。それだけに、短期的な株主の意向に左右されることなく、独自戦略を貫くことができる。

将来は海外展開も見据えるアンテナ。その独自のマネタイズ戦略が、世界でも話題になる日は近いかもしれない。
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(写真:福田俊介)

*NP特集「2020年のモバイル」は、明日掲載の「キュレーションメディア大競争(dマガジン)」に続きます。