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Jリーグ・マネジメント・カップの新王者は浦和

デロイト トーマツが徹底分析。浦和レッズの経営力

2015/7/23
デロイト トーマツがJリーグの経営力を測るべく、新たな試みを始める。各クラブの経営力を数値化してランキング化する、「Jリーグ・マネジメント・カップ」だ。今秋の正式発表に先駆けて、本連載では注目クラブの順位、そしてデロイト トーマツによる分析を掲載する。
「Jリーグ・マネジメント・カップ」概要:Jリーグのビジネス力を数値化。経営最強クラブはどこか

2014年度「Jリーグ・マネジメント・カップ」優勝は浦和レッズ

2013年度の「Jリーグ・マネジメント・カップ」ではセレッソ大阪に敗れ、2位にとどまった浦和レッズ。

それが2014年度は、ビジネス・マネジメントポイントを3ポイント伸ばし139ポイントとして順位を逆転、同136ポイントだったセレッソ大阪を抜いて1位となりました。

セレッソ大阪がポイントを落としたことも理由のひとつですが、浦和が単独1位に輝いたのは、前年度からビジネス・マネジメントポイントを着実に伸ばしたことが要因です。以下でその要因の内訳を確認してみましょう。
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【今回の読みどころ】
・浦和のチーム人件費の総額は約20億円
・勝ち点1あたり人件費が約5%改善
・売上高は10年連続でトップ(約58億円)
・売上高成長率は8.1%から1.2%に後退
・課題は新規顧客の開拓
・「REX CLUB」開始で改善なるか

「2ndステージ:経営効率」で躍進

浦和がまずポイントを伸ばしたのは「2ndステージ:経営効率」です。

ここでは「勝点1あたり人件費」、そして「勝点1あたり入場料」という2つのKPIを用いて評価します。浦和はこのうち、「勝点1あたりチーム人件費」を改善させることで、ビジネス・マネジメントポイントを2013年度から3ポイント伸ばしました。

具体的には、2013年度は勝点1を獲得するのにかけた人件費が3480万円だったのに対し、2014年度は3310万円となっており、約5%の改善となっています。

この背景には、若手選手の移籍や主力級の選手の獲得といった入れ替えはあったものの、チーム人件費総額を2013年度の20億1600万円から、2014年度は20億5400万円と微増にとどめたという結果があります。

“選手人件費を売上の一定割合以下に抑える”というクラブ方針が実践された結果と言えるでしょう。

加えて、チーム成績である勝点は前年の58から、今年は62に延ばすことに成功しました。ミハイロ・ペトロビッチ監督体制になって3年目ということもありチームの戦術などが定着し、フィールド・マネジメント面でも結果が出てきたことを示しています。

人件費を抑えつつ、戦術を浸透させ、効率的に勝ち点を取る。このようなチーム運営の手腕がもたらした3ポイントと言えるでしょう。

「3rdステージ:経営戦略」でさらにポイント獲得

浦和はさらに「3rdステージ:経営戦略」でもポイントを伸ばしています。

ここでは「売上高÷人件費」、そして「入場料収入等÷販売管理費」という2つのKPIを用いて評価します。

このうち浦和は「入場料収入等÷販売管理費」を改善させることで、2014年度は前年比で3ポイント伸ばすことに成功しています。このKPIは、販売管理費を1円かけることで、いくらの入場料収入を獲得できたかを示す指標です。

浦和は2013年度、販売管理費1円に対し、入場料収入などを1.27円獲得していました。そして2014年度の値も、実は1.28円と0.01円の微増にとどまっています。

しかしながら、2014年度のJ1のクラブの中で前年よりも当該KPIを改善できたのはわずか8チームとなっており、どのクラブも苦戦している状況でした。そのため、相対的にはわずかであっても改善が進んだ浦和が高く評価され、3ポイントも獲得できたのです。

「4thステージ:財務状況」では苦戦

財務における、浦和の最大の特徴はなんと言っても「売上高」です。18クラブ中唯一50億円台を記録しています。

財務数値の公表を始めた2005年以降、一貫して10年連続のトップです。そして、これを支えているのが、9年連続でトップとなっている「平均観客動員数」です。

「平均観客動員数」は入場料だけでなく、グッズ販売やテナント売上にも影響するため、とても重要なKPIだとわれわれは考えています。

ただし浦和は、「4thステージ:財務状況」では前年比で3ポイントも得点を減らしてしまいました。その最大の理由は「売上高成長率」です。2013年度は8.1%の成長でしたが、2014年度は1.2%と大きく後退したことが原因でした。

では、なぜ売上高成長率が伸びなかったのでしょうか。

ひとつの要因は「無観客試合」による減収が考えられますが、理由はそれだけでしょうか。もうひとつの要因は「新規観戦者割合」の低迷と考えられます。

2014年度における当該KPIはわずか2.3%にとどまっており、これはJ1の中で15位という結果です。一方で「スタジアム集客率」は55.8%であり、新規顧客が開拓できれば、まだまだ売上を伸ばす余地はあると考えられます。

圧倒的な売上高を誇る浦和も、「スタジアム稼働率」や「新規観戦者割合」というKPIではまだまだ改善の余地があり、今後のクラブ経営における施策に注目です。

今年度復活した2ステージ制において、浦和レッズは無敗で第1ステージを制した(写真:アフロスポーツ)

今年度復活した2ステージ制において、浦和レッズは無敗で第1ステージを制した(写真:アフロスポーツ)

観客の嗜好を重視したマーケティングを展開

このような背景もあり、浦和はこれまでの取り組みに加え、2015年度より「レッズをたのしむ、レッズでつながる」というキャッチフレーズの下、「REX CLUB」という独自のメンバーシップ制度を運用し始めました。

この制度は、ファン・サポーターを法人・個人別や観戦スタイルなどで複数のカテゴリに分類し、カテゴリに応じて異なるサービスを提供していくものです。

具体的には、個人サポーターはシーズンチケットホルダーとしての「REX LOYALTY」、一般会員の「REX REGULAR」、メールマガジン会員の「REX WHITE」の3カテゴリに分類され、さらにカテゴリは9段階のステージに分類されています。

そして、各ステージごとに年会費の免除や優先入場権の付与、来場時やグッズ購入時にたまるポイントなどが細かく設定されています。

「REX CLUB」をはじめとして、クラブとしても広報やマーケティングの陣容を人的・物的に補強し、さらなるファン・サポーターの獲得と満足度向上に力を入れていく方針を打ち出しています。「満員のスタジアム」の実現に向け、今後も取り組みを強化していくという強い意思が淵田社長から感じられました。

クラブスタッフの育成にも注目

今回の淵田社長へのインタビューで印象に残ったもののひとつに、人材育成の重要性があります。

浦和では無観客試合という前代未聞の問題が発生したことをきっかけに、クラブ内でも関係者間の意識の変化があったと言います。

そこで、従来の部門の垣根を越えたクロスファンクショナルなプロジェクトチームを組成し、クラブの経営課題への対応策を関係者全員で協議する体制を整え、ディスカッションを重ねています。

この手法は横浜F・マリノスの嘉悦朗社長が実践して効果を挙げたクロス・ファンクショナル・チームと同様の取り組みです。今後はこの体制をより推進していくために、独自の社内研修制度をスタートさせようと考えているとのことです。

2014年度はJ1で2位とフィールド・マネジメント面での結果を残し、ビジネス・マネジメント面ではトップに輝いた浦和レッズ。2015年においても、J1の1stステージを無敗で優勝するなど、フィールド・マネジメント面では好調を維持しています。

一方で、ビジネス・マネジメント面では新規観客が増えない、売上高が伸びないといった課題もあります。この課題に対し、「REX CLUB」やトップマネジメント主導による「人材育成」がどこまで効果を発揮するのか。今後の成果に注目したいと思います。

(文責:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 スポーツビジネスグループ・里崎慎)

<連載「Jリーグ・ディスラプション」概要>
本連載はJ1クラブの社長を、スポーツライターの金子達仁がインタビュー。月曜日から水曜日まで社長インタビューを掲載し、木曜日にデロイト トーマツの会計士による経営分析、金曜日に総括を掲載する。7月27日から始まる第2弾では、FC東京の大金直樹社長を取り上げる予定だ。