私が子どもに「受験させる」と決めたとき
2015/07/23, AERA
小学校、中学校の受験なんて言われても、近くに受験できる学校がない。こういう人も少なくないだろう。
だが、身近に選択肢があると、考えてみたくなるのが親心。「最終決断」は、どう下されているのか。
中学校受験:落ちこぼれるより「浮きこぼれ」がイヤ
小学校のトイレで、休み時間のたびに洋式便器に座って受験勉強している子がいるらしい。
そんな噂を耳にしたのは、メーカー勤務の女性(45)の長女(13)が小学5年生の頃だった。長女が通っていた公立小学校は、7割の児童が中学校受験する。
4年生頃からほとんどの子が塾に通い始め、塾を中心に生活が回るようになると、小学校での勉強や遊びは二の次になる。長女も周囲と同様に塾通いを希望し、選んだのは、2週に1度のテストの成績順にクラス分けされる受験塾だった。
友達が塾通いを始めて遊べる子がいなくなった。4年生で学童保育の預かり対象外となった。都市部では、こんなきっかけで塾の門をたたき、中学校受験に踏み切るケースは珍しくない。
「中学校受験はかつてに比べて大衆化しています。いったん受験のレールに乗ってしまうと、降りることはなかなか難しい」と、3人の子どもに中学校受験のための塾通いをさせたファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは言う。
6年生では年間100万円以上かかる受験塾が、4年生の入塾時の月謝は補習塾と同じ程度で「お得感」を醸し出すことも、ハードルを下げている。
クラブを辞めて塾か
長女が塾に通うようになった5年生のはじめ、冒頭の女性には葛藤があった。小学校の吹奏楽クラブに熱中していた長女が、塾からの帰宅が午後9時半を過ぎ、朝練習の時刻に起きられない。本当に受験するなら、このタイミングでクラブを辞めさせるべきだ。
だが「後発組」ゆえ塾のクラスはまだビリ。合格できなかったら、小学生のときにしかできない子どもらしい体験や楽しみを長女から奪ったうえ、失敗の経験しか残してやれない。
友達が受験するからといって流されず、親として子どもの伸びしろを見極めなければ。この子は一体どこまで伸びるの? 「あと半年、様子を見よう」そう決めて、クラブも細々と続けさせた。
5年生が終わるころには周りはすっかり受験モードで、学校の宿題は「選択制」に。やってもやらなくてもいい宿題の一つひとつに、長女は真剣に取り組んだ。
塾の後、深夜までかけて手書きの新聞を完成させ、図工の作品は展覧会に出品された。ちょうど塾のクラスも一つ上がり二つ上がり、4年生から入塾していた「先発組」を追い抜くようになっていた。
「無理せず着実に上がっていけるタイプ。この子なら受験しても、うまくいくかもしれない」
1年後、長女は第1志望の都立中高一貫校に合格した。
中学校受験は、わずか10年ほどしか生きていない子どもにとって初めての試練だ。多くの子どもと接してきた花まる学習会代表の高濱正伸さんは断言する。
「10〜12歳の子どもは心身の成熟に個人差がある。でもそれは能力の差ではない」
だが、学力で順位がつき、その順位が少なからず進路や将来に影響するという現実を突きつけられると、親子ともども心穏やかではいられない。
公立に行かせたくない
全国ニュースで流れたいじめ報道を見て、土木系の会社に勤める女性(44)は目を疑った。テレビに映っていたのは、当時小学3年生だった長女(11)が通うことになる学区の公立中学校だった。
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コメント
注目のコメント
高校まで地方の公立校で育った身としては、東京の選択肢の多さは子どもにとって幸せなのか、それとも・・と悩みます。実際、私が住む地域の公立小では8割近くが受験組み。まだうちの娘は小学校3年生ですが、周りの親後さんたちの話題には受験がのぼり、驚きます。
最近はさらにそこに「グローバル」教育という新たな選択肢が加わり。このグローバル教育熱のすごいこと。これだけ過剰な情報に晒され、それでも子どもの適性などを冷静に見極められるのか。今週のAERAの特集はまさにそんな親の葛藤から生まれました。