第4回:川上量生×宮崎吾朗対談「コンテンツづくりにおける天才とは?」
知られざる一面。宮崎吾朗のジブリ美術館館長の顔
2015/7/19
ドワンゴの会長として「ニコニコ動画」を成功に導いた川上量生氏。アニメーション監督として、『ゲド戦記』『コクリコ坂から』を生み出し、『山賊の娘ローニャ』でTVシリーズ初監督を務めた宮崎吾朗氏。2人のクリエーターが、代官山蔦屋で開いたイベントで、「コンテンツづくりにおける天才とはいったい何か?」について語り尽くした。その内容を全5回・5日連続で紹介する。
宮崎駿、怒りの「なんでだ!」
川上:皆さんご存じないかもしれませんが、実は吾朗さんはジブリ美術館の館長だったんですよ。
宮崎駿監督という偉大な人がいて、彼がつくった美術館の館長が息子だというと、まず間違いなく働いてなさそうじゃないですか。「明らかに名前だけだろう」って。
でも、実際にジブリ美術館に関わったひとに話を聞いたら、「つくったのは吾朗さんです」って。
宮崎:まあ、いろいろやりましたよね。
川上:ええ。だって、宮崎駿さんの構想通りにつくったら、柱すら建たなかったんですよね。
宮崎:だいたいひどいんですよ。最初、宮崎駿は美術館を全部「木造で建てたい」って言ってたんです。だから、「それは建築基準法上、無理だ」ってこちらから言うわけです。
川上:はい。
宮崎:そうすると、「なんでだ!」(拳を振り上げる)って、なるわけですよ。
(一同、笑)
川上:「なんでだ」って、もう吾朗さんのほうから説明済みですよね。
宮崎:そう。だから、「こういう不特定多数の人が集まる建物を木造でつくるのは、法律上難しいんです」ってもう一度、説明する。でも、「なんでだ!」って、なるわけですよね。
それをなんとか説き伏せて、業者さんに建築のプランをあげてもらうわけです。
川上:はい。
宮崎:そうすると宮崎駿は、今度は「なんでこんなところに柱があるんだ! 」って。「いや、それがないと2階が落ちますので」と回答……。
(一同、笑)
川上:でも、宮崎駿っていう人もアニメーション制作においては現実主義者なんですよね?
宮崎:そうです。「こうじゃなきゃできない」って納得すると、現実主義でやるわけです。
たとえば、「この期間でつくらなきゃいけない」とか、「このスタッフィングしかできない」というような制約に関しては、ものすごく現実主義者ですよ。専門分野に関しては、ありとあらゆることを知っているので、妥協も含め、どうすれば完成させることができるかを知り抜いている、という感じですね。
川上:つまり、一歩離れて、専門外の分野になったとたん……
宮崎:「なんでだ! 」(両拳を振り上げる)ってなるわけですよ(笑)。
川上:「なんでだ、なんでだ!」と(笑)。
宮崎:「それ、さっき説明したでしょう」っていう(笑)。
クリエイターは、なんで新しい表現にこだわるの?
宮崎:ジブリ美術館関連で言うと、今僕は美術館の改修の仕事を手伝っています。波風立てちゃいけないと思っているから(笑)、要望も聞きつつ、探り探り提案を出しながら、皆さんが納得するようにやっていますよ。
川上:改修だけのはずなのに、いろいろと(笑)。
宮崎:そうそう。いろいろ、改造までしようって話になって。
川上:それ、最初はそれこそ「雨漏りを直そう」とか、その程度の話でしたよね?
宮崎:「雨漏りの修繕と空調の機械の入れ替えだけやろう」って言ってたんですけれど、「何カ月か閉館するのに、なにも代わり映えがしないのはつまらないんじゃないか、ちょっと屋上をいじったほうがいいんじゃないか」って。
川上:あれね(笑)。大変な……。
宮崎:頼まれてもいないのに、仕事を増やすことをやっています(笑)。
川上:僕、まだ答えが完全には出てない疑問があって。アーティスト志向が強いクリエイターって、必ず新しい、世の中にまだ出てない演出にこだわるじゃないですか。でも、それって、売れる売れないを考えたら、別にどうでもいいですよね。(笑)
宮崎:全然関係ないです。(笑)
川上:全然関係ないですよね。あれ、なんであんなにこだわるんですか、クリエイターって。
宮崎:それがオリジナリティだっていうふうに思ってるからでしょう。あとは、飽きてきちゃいますから、新しいことに手を出さざるをえないんですよ。
川上:もうつくりたくない、ってことなんですか。
宮崎:同じことやりたくないんですよね。
川上:しんどいし。
宮崎:ええ。だから、次のジブリ美術館での宮崎駿の短編はですね、とうとう。
川上:とうとうですよね。
宮崎:とうとうですね。3DCGでやろうとしてるんですよ。