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連載キックオフ企画:村井満チェアマン 第4回

企業名を解禁すべきか? CSRという新たな視点

2015/7/16

スポーツライターの金子達仁は、プロ野球との資金力の差を埋めるために、かねてから「Jリーグのクラブ名に企業名を入れることを解禁すべき」と提案している。その難しさを理解しつつ、議論することで意識改革を促せるからだ。

はたして、村井満チェアマンは企業名についてどう考えているのか。

【第4回の読みどころ】
・広告倫理は時代によって変わる
・企業名を入れることの投資回収率を考えるべき
・宣伝ではなく、地域貢献という視点
・富士通は工場がある川崎への利益還元と考えている

パチンコ広告の是非

金子:厳しい質問をさせてください。ヨーロッパの一部の国ではブックメーカーの広告が認められています。一方、Jリーグではパチンコの広告が禁止されています。この違いをチェアマンはどう考えていますか。

村井:チェアマンに着任して以来、まだその問題については議論していないのですが、僕はどちらかというと広告畑の人間だったので、広告倫理が時代とともに変遷するのは理解しています。

たとえば昔、消費者金融は危険なイメージでしたが、今では都市銀行が運営している。

金子:サラ金という言葉がなくなりましたよね。

村井:聞かなくなりましたよね。リテールバンキングは非常に重要で、健全化すれば業界自体も良くなる。それによって民放連や新聞協会における扱いも変わってきた。

Jリーグの判断というよりも、社会の広告に関する価値基準、判断基準をにらみながら考えていくべきことだと思います。個別論としては判断しかねます。

村井満(むらい・みつる)1959年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現在のリクルート)に入社。入社当初は求人広告の営業を行い、のちに人事部に異動。2000年に人事担当の執行役員に就任し、2004年にリクルートエイブリック(のちのリクルートエージェント)代表取締役に就任。2011年にリクルートの香港法人の社長を任され、2013年まで務めて同社会長に昇格。一方、2008年からJリーグの社外理事を務め、2014年1月、5代目のJリーグチェアマンに就任した

村井満(むらい・みつる)
1959年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現・リクルート)に入社。入社当初は求人広告の営業を行い、のちに人事部に異動。2000年に人事担当の執行役員に就任し、2004年にリクルートエイブリック(のちのリクルートエージェント)代表取締役に就任。2011年にリクルートの香港法人の社長を任され、2013年まで務めて同社会長に昇格。一方、2008年からJリーグの社外理事を務め、2014年1月、5代目のJリーグチェアマンに就任した

企業名を解禁すべきか?

金子:これもまた僕の持論なのですが、もうこの際、クラブ名に企業名を解禁したらいかがでしょうか。

村井:これもいくつか考え方があると思います。たとえばスタジアムの場合、ネーミングライツを販売するやり方があります。

調布にある東京スタジアムは、味の素にネーミングライツを販売して、普段は「味の素スタジアム」と呼ばれている。ただし、日本代表が試合をやったときは東京スタジアムになることもあります。契約上、どこまで命名権を行使できるかはケースごとに異なりますが、普遍的なスタジアムの名称を持ったまま、オプションで企業名などをつけた名称も持つことになります。

ただ、スタジアムの名前からその土地の名前が消えてしまうことは、地域密着の観点からすると惜しいことですが。

クラブ名も同様で、日ごろ、大きな声で自分の住む土地や故郷の名前を叫ぶ機会はそうないですよね。毎週末、全国で何十万人が移動し、最も下部のJ3でも1000人規模がスタジアムに訪れる、そんなイベントはなかなかありません。クラブが地元に支えられているからこそ、成り立つ光景です。

中国でもJリーグ同様、クラブ名から企業名をなるべく外すようにと国務院からお達しが出ました。

韓国のクラブもその多くに企業名が入っていますが、オーナーなどが変わるたびにクラブ名が変わり、それが地域密着を阻害しているという見方もあります。

企業の社会的責任という視点

金子:企業名を出さないとしたら、世界3番目の経済大国という土壌を生かすにはどうしたらいいんでしょう。

村井:冷静に見るべきは、名前をつけることで企業イメージがどれだけアップして、その投資回収効率はどれだけあるかということだと思います。

いかに収益の一部をCSR(Corporate Social Responsibility)に回し、「企業市民」として社会に貢献していくかが株主総会で問われることも増えてきていると聞きます。

川崎フロンターレの関係者に聞くと、メインスポンサーの富士通は知名度を上げるというよりも、自社の工場がお世話になっている川崎市というエリアに対して利益を還元するという考え方でクラブをサポートしているそうです。

そういう意味では、Jクラブが地域を名乗りホームタウン活動で貢献することと企業のCSR活動の親和性は非常に高いと考えます。地域に根差す企業でありたいとする企業のニーズをかなえ、企業に有効に資金を出していただくための工夫をリーグとしてもしていきたいですね。企業の投資価値を担保するバリエーションを増やすことはいいことではないかと考えています。

金子:僕自身も単に企業名を入れればいいとは思ってないんですが、そういうことを誰かが叫んでいかないと、どんどんJリーグが原理主義になっていくと感じていまして。

村井:そうですね。スポーツ団体として地域や企業から一方的に支援していただく、という保守的な在り方ではリーグの成長は止まってしまいますよね。

「不易流行」という言葉があるように、Jリーグもどんどん変わっていくべき。地域密着や健全経営という本質は保ちながら、新しいことを求める。地域や企業と相互に支え合い、ともに発展していくことを前提に、現状に満足せず常に模索し続けなければなりません。

(構成:木崎伸也、写真:福田俊介)

*「Jリーグ・ディスラプション」のキックオフ企画となる村井満チェアマンインタビューは、月曜日から金曜日まで5日連続で掲載する予定です。

<連載「Jリーグ・ディスラプション」概要>
本連載はJ1クラブの社長を、スポーツライターの金子達仁がインタビュー。月曜日から水曜日まで社長インタビューを掲載し、木曜日にデロイト トーマツの会計士による経営分析、金曜日に総括を掲載する。7月20日から始まる第1弾では、浦和レッズの淵田敬三社長を取り上げる予定だ。