日テレとHuluのキーマンが語るテレビの「次」(1)
日テレ×Hulu。初のオリジナルドラマは成功だったのか
2015/07/15
日本テレビとHulu(フールー)が共同製作した『ラストコップ』はフールー初のオリジナルドラマ。6月に地上波で放送され、続きのエピソードはフールーで配信するという画期的な取り組みだ。製作した両社のプロデューサーに狙いと成果、今後の展望を聞く。
視聴率は合格点
──日本テレビとフールーが共同製作した初のオリジナルドラマ『ラストコップ』は、視聴率も同時間帯トップの12.9%(ビデオリサーチ調べ、世帯視聴率・関東地区)を獲得しました。これは成功と言っていいですか。
戸田:そうですね。今、ドラマは視聴率がなかなか取りにくく、特に単発ドラマは連続ドラマより厳しい状況が続いています。一発勝負なので認知が広がらず、ギャンブルに近い。
2ケタいけば合格という感じの中で今回はクリアしましたし、全年齢層にわたって幅広く数字が取れたことも含めて合格点と言えます。
──地上波で放送後、続きをフールーで配信するという画期的な取り組みです。なぜ戸田さんがプロデューサーに選ばれたのですか。
戸田:僕が今まで関わってきた仕事が、宣伝を派手に展開して盛り上げるイベント的なものが多かったので、声がかかったのではないかと思います。
編成部にいた2008年にもサザンオールスターズ30周年と、日本テレビ開局55周年をかけて、3×3(サザン)が9日間連続でショートドラマを33本放送するという大プロモーションを手がけたり、現場プロデューサーとしてAKB48での9夜連続ドラマを手がけたりしました。
もともとバラエティーにいたので、ドラマを単にドラマとしてだけではなくて、もうちょっと違うやり方があるのではないかといつも模索しています。そこが買われたのかもしれません。
なぜコメディーなのか
──今回の『ラストコップ』はコメディーの要素が強く含まれています。戸田さんのバックグラウンドが大きいのですか。
戸田:僕のバックグラウンドだけでなく、みんなでコメディーの要素を入れてつくりあげたものです。
最初に日テレの編成部やフールー、インターネット事業部など各所から、企画と制作を拝命したときに言われたのが、「映画的なものをつくってほしい」ということ。フールーの居並ぶコンテンツの中で、超大作映画や話題の人気海外ドラマと伍(ご)して置かれるものなので、やはりそれなりのブランド感やスケール感がないといけない。
でも、映画とテレビは予算が圧倒的に違いますし、「映画的なもの」というと、すぐ重厚なものを考えがちですが、果たしてそれで成功するのかという疑問を持ちました。
そんなとき、『ラストコップ』の原作となるドイツの海外ドラマ(『DER LETZTE BULLE』)のリメイクという企画が持ち上がった。30年間、昏睡状態だった刑事がいきなり目覚めて大暴れするという、とんちきな設定です。
その企画の骨子を聞いたとき、これは重厚じゃないけれども面白いと思いました。原作のドラマはシリアスさもあるのですが、もう少し面白く扱うにはどうすればいいだろうと考えながら、古今東西のいろんな刑事ドラマを見直してみました。
やっぱり自分が子どもの頃に見ていた『あぶ刑事(あぶない刑事)』や『西部警察』って楽しかった。でも今は、コンプライアンス的にも予算的にもできない。
この『ラストコップ』だったら、頑張れば俺たちでつくれるのではないか。年配の人には懐かしさを、若い人には初めて見る新しさを感じてもらえれば、成功するのではないかと思いました。
岩崎:地上波のドラマを見て面白いと思った人が、フールーに来る最初の一歩を踏み出せるような作品をつくりたいと考えました。
フールーは海外ドラマ好きの人に多く愛用されているサービスですが、地上波の視聴者に対して、シリアスで緊張感をあおっていくような海外ドラマのテイストが本当にいいのかといったら、たぶんそうではない。
家族そろって見て、じゃあ続きはフールーで見ようというふうになってくれたらいいなと思い、コメディーの要素を足していったのです。
──狙い通り、フールーの会員は増えましたか。
岩崎:放送が終わったのが金曜日の午後10時54分で、放送終了以降、週末にかけてものすごく増えました。
「続きはフールーで」が主流になる?
──ストーリーが地上波のエピソード1で完全には完結していません。ネットが使えないような年配の人から苦情はなかったですか。
戸田:まさに実家の母親に言われました(笑)。「どうすればいいの?」と言うので、「タブレットでフールーと検索してごらん」と教えた。
ただ、ちゃんと2時間で事件が解決して、いったん満足してもらえるエンターテインメントにすることを大切にしています。あまりに「ご無体な~」という引っ張り方はしていません。
──今回のように、まず圧倒的にリーチのある地上波で放送してから、続きはフールーで配信するといったかたちが主流になっていくのでしょうか。
岩崎:いろいろなパターンがあると思います。たとえば、地上波で表のストーリーを放送していって、フールーではその反対のストーリーを追いかけていく、みたいなやり方もできるでしょうし、まったく地上波と絡まずに、たとえば映画のプロモーションと連動してやっていくこともできるでしょう。ほかにもいろいろな面白い方法がありそうです。
地上波とネット配信の予算
──1本当たりの製作費は地上波のドラマと比べてどうなのですか。
岩崎:ちゃんとした予算を取っています。
戸田:予算を潤沢にもらえたので、地上波の連ドラをつくるのと同じように、まったく齟齬(そご)なくストレスなくつくれました。
6本分の製作費を地上波の2時間ドラマでひとつのエピソード、フールーで4つのエピソードと差配したのですが、2時間ドラマに関しては通常の地上波よりもむしろ予算を潤沢に運用できて、相当スケール感を出せた。
フールーのみで配信する4つのエピソードも、アクションが強い回は人情が強い回の倍くらいかけるといったように、メリハリをつけて運用できました。
しっかりしたキャスティングをするにはそれなりの予算が必要ですし、ロケをやるにしても予算がないと、空港は無理だから百貨店にしようというふうになってしまう。
普通、脚本家になるべく自由に書いてもらって、本打ち(脚本家とプロデューサー、ディレクターが脚本の方向性を話し合う打ち合わせ)で予算を考慮して変更するというせめぎ合いがあるのですが、今回はそれをあまり気にせずにできました。
──ドラマの面白さを決める要素の中で、予算はどれぐらい大事なのですか。キャスティングやロケ、脚本などいろいろな要素があり、おカネをかければいいというわけではないでしょうが。
戸田:企画とキャスティング、脚本はドラマプロデュース上の3本柱で、この3つをかなえるために予算はやはり非常に大事です。
*NP特集「テレビの『次』」は、明日掲載の「CMなしのネット配信は、ドラマをどう変えるのか」に続きます。
(聞き手:佐々木紀彦・NewsPicks編集長、構成:上田真緒、撮影:竹井俊晴)