世界で戦う和僑たち_150704

水不足はリゾート地でも喫緊の課題

再編進む「水ビジネス」業界、日系勢に商機

2015/7/4

「水が不足している場所」と聞けば、途上国を思い浮かべるかもしれない。だが、集中する人口に比して資源に限りがあるハブ都市や水を要する施設が集まるリゾート都市も、同様に水不足に陥る恐れがある。

実は、そのアジアの水業界で再編が起きている。それまで「水メジャー」と呼ばれる大手企業は同業の中小企業を買収して事業を拡大してきたが、最近ではそれらを手放す動きが目立つ。

背景には、市場としての伸びが期待できるだけに競合企業の参入が相次ぎ、業界内の多様化が促進されたことがある。元来、水ビジネスが専門ではなかった大手企業が対応しきれなくなってきており、その市場シェアが希薄化しているのだ。

そんな中、日本勢としてアジアの水ビジネスを強化しているのが、日立製作所だ。アジアでは途上国向けの政府開発援助(ODA)案件での上水設備整備や、海水を真水に変える「逆浸透膜(RO膜)」を使った設備(リゾート都市の浄水場やホテル向け)の受注に相次いで成功している。

2014年には、シンガポールを拠点とする現地法人を買収した。コンドミニアムや商業施設向けのプール、噴水など装飾の多い施設に向けて攻勢を強めている。

業界再編が進む中、日立の強みは、RO膜の浸透効率だ。膜の効率は、海水から塩分を取り除きどれくらいの真水をつくれるかを表す、「回収率」で計られる。従来はそれが40%だったが、50~60%に引き上げ、差別化を図ろうとしている。

わずか10%の向上と言えども、そのインパクトは大きい。アジアにも多数ある島しょ国にとっては、RO膜設備による上水設備は飲料水などの安定供給に有効である。

しかし、従来技術では、真水を得るために60%のエネルギーを浪費していることと同じであった。エネルギーの浪費は、地球温暖化に直結する。地球温暖化による海水位上昇は、島しょ国にとっては、死活問題である。

一方で、海外、特にアジアには各国で大小多数の水処理企業が乱立している。しかし、水の浄化に長けている専門の企業は、日本ほど多くない。市場を啓蒙していけば独自の技術力がますます受け入れられる可能性がある。

今後は特に東南アジア、中でもモルディブやインドネシア、マレーシアなどのリゾート都市に加えて、ODA関連の大規模案件の受注を狙う。

起業家にも開かれた門戸

日立シンガポールのマネージャー、志田勝巳氏によれば、この水業界にはベンチャー企業が多いという。これは意外だった。

たとえば、下水処理場の臭いを消す技術を開発している企業や、IT技術と絡めるなら、浄水場から上水道網まで運転状況に関するデータをクラウドに集約し、データを解析、運転管理の効率化を図るための、センサーやソフトウェアを開発している企業など。

そうしたベンチャー企業が開発している製品を、日立のような大手企業にも売り込んでくる生きのいい起業家は多くいるそうだ。

日立も今年、バヌアツの病院にRO膜とソーラーパネルをセットにした設備を導入した。このように独自技術とほかのテクノロジーとの掛け合わせを常に模索している。アイデアのある新参者への門戸は、開かれているのかもしれない。

志田氏は、特に若い人に対して、水ビジネスは魅力的な仕事であるとはあえて言わないようにしている。水ビジネスの現場の仕事は、真水と異なりどこまでも“泥臭い”からだ。

昨年の12月には、製品を納入したモルディブにある施設の火災事故の対応に追われ、現場に2週間缶詰め。周囲からは、クリスマスシーズンのモルディブ出張をうらやましがられたが、もちろんリゾートの「リ」の字もなかった。

それでも水ビジネスに携わるのは、「水のないへき地に水が出てきたときに人が集まってきて、みんながペットボトルに水をくんで、うれしそうに飲む姿を見たときの達成感が忘れられない」(志田氏)から。

だから、水を通して社会に貢献することにやりがいを感じると思える若い人には、ぜひ挑戦してほしいと言う。

シンガポール現地法人の志田勝巳氏。昨年の企業買収も同氏が中心メンバーの一人として進めた

シンガポール現地法人の志田勝巳氏。昨年の企業買収も同氏が中心メンバーの1人として進めた