特別対談 堀江貴文×佐渡島庸平(前編)
“常識”に抗い、自ら仕事を創り出せ
2015/6/25
組織の中で、懸命に与えられた仕事を消化し続けていれば「安定した人生」を得られる。この“常識”が崩壊した現代を生き延びるために、必要なこととは何か。『あえて、レールから外れる。逆転の仕事論』を著した堀江貴文氏と、東大時代のゼミの後輩で、講談社を飛び出して出版エージェントを立ち上げた佐渡島庸平氏が語るサバイバル時代の仕事論。
会社員時代とまったく違って見える景色
佐渡島:僕が講談社を辞めようと考え始めたきっかけって、堀江さんなんですよ。
堀江さんがまだ逮捕される前、一緒に飲んでいたときに「これからは表現したい人が増えていく。でもプロデュースできる人間はほとんどいないから、そういう人のところに依頼が来るようになる。編集者から作家に仕事を依頼するというこれまでの立場が逆転するから、フリーになって名乗りを上げておいたほうがいいよ」と言われたんです。
堀江:憶えてないけれど、言いそう(笑)。
佐渡島:でもそのとき、僕は全然辞める気はなくて、「自由を与えてもらっているから問題ないんです」と言っていたのに、堀江さんが次の週のメルマガに「講談社のやつと飲んだら、すごく辞めたがってた」と書いていた。
堀江:まったく話を聞いてなかったんだろうね。
佐渡島:そのメルマガを読んだ役員がすぐに僕のところに来て、「そんなことを言っているのか」と質問したんです。不思議なことにその質問がきっかけで、辞めるというアイデアが現実味をおびたんです。講談社を辞めた今を振り返れば、自由じゃないものを自由だと考えていたんだなと思います。
堀江:僕は大企業で働いたことがないから、社名で「おっ」と言われたこともないし、大企業で働くというのがどういう感覚なのか、実はあまりわからない。バイトをしていた会社もベンチャーで誰も名前を知らないから、自分の名前で仕事をしていたし。
佐渡島:大企業の名前があると、はじめはやっぱり楽ですよ。ただ、その楽さが最終的にいいことなのかどうか、僕にはわからないですが。
堀江さんの『逆転の仕事論』の中で、「世の中にどんな変化が起きているかを知るには既存のところにいてはいけない」と言っていましたけれど、会社員は自社の経営者の目を通して社会を見ていますよね。1人になってみるとすべてを自分で考えないといけないから、見える景色が全然違う。そういう環境に身を置くことに意味があると感じています。
会社員のリスクとメリット
堀江:東大生はせっかく必死こいて東大に入るのに、就職でほかの学生と同じスタートラインに立つのは何でだろうといまだに疑問に思っているんだけど、何でなの?
佐渡島:ほとんどの学生は楽をして生きたくて、東大生も就職して他人の看板を借りたほうが楽だと思うからじゃないですか?
堀江:受験のときって他大の学生とは月とすっぽんぐらいの学力の差があるのに、就職するとほかの大学の卒業生とまったく同じ同期として扱われる。それはいいの?
佐渡島:そこは思考停止しているんだと思いますよ。そこを考え出すと、就職しないという選択肢になってしまうから。
堀江:会社員って損だなと思ったもうひとつの理由は、明らかに少子高齢化で人口ピラミッドがひし形になるのは目に見えているわけでしょ。
就職した大学の同期は「40代になったら責任ある立場になれる、給料も増える」と言っていたけれど、人口動態的にそれは絶対にないな、と。頭いいんだからそれぐらい考えましょうよって。
佐渡島:堀江さんのような論理的思考を社会に当てはめる能力は、テストでやるのとはまた違う能力で、それができる人は少ないんですよ。
僕は、講談社に入社したことですごくメリットがありました。就職した頃は作家の作品の出口が書店しか存在しなかったし、作家と出会いたければ出版社に入るしかなかったので。
ただ、今はネットによって出口が増えてきたことで、出版社やテレビ局が独占してきた出口の価値が低下した。出版業界で言えば、出版社の制作能力や作家との関係性に変化が起きたのではなくて、ネットによって物流や作品の出口のほうに変化が起きていて、その変化に対応していないことが問題だと思います。
堀江:そうなんだよね。ソーシャルで売ることを、まだ考えてない。
オンラインサロンが作家を解放する
佐渡島:先日、堀江さんから「メルマガ、良いよ」と言われたとき、僕は負担のほうが大きくて効果はそれほどないんじゃないかと思っていたんです。
でも最近、安野さん(『働きマン』などの作者・安野モヨコ)と小山さん(『宇宙兄弟』などの作者・小山宙哉)の無料メルマガを始めたら、ものすごい反響で驚きました。
何か書き込めばたくさん返事が返ってくるし、メルマガで何かを告知すると、濃い反応がある。『宇宙兄弟』はライン公式でフォロワーが7万人弱いるんですけど、そこでアンケートをしたら長文の返事が2万通返ってきました。
堀江:そのおかげで読者と直接つながれて、読者の属性、読者が何を望んでいるかというデータも取れるし、一度ファンになるとなかなか離れていかないので、コミュニティができる。それはすごく強いよ。
僕は完全にピラミッドをつくっていて、ツイッター、フェイスブックが一番下で、その上に有料メルマガ、その上にサロン、その上に寿司会があって、それだけで十分な収益を得ているけれど、作家はもっと大きいピラミッドをつくれると思う。作家って毎回、次の本が売れるか神経すり減らしているけれど、そういう時代じゃないでしょう。
佐渡島:ミュージシャンもファンクラブはありますけれど、メルマガをやっている人は少ない。
堀江:ミュージシャンも作家や漫画家も、まだオンラインに弱いんだよ。だから、僕がつくったオンラインサロンのプラットフォームをDMMにつくってもらおうと思っている。
基本は、今僕が使っているシナプスのサロンのシステムと同じなんだけれど、フェイスブックを使っているシナプスはユーザーの年齢層が高めなので、「LINE@」とか「LINE ビジネスコネクト」「755(ナナゴーゴー)」などを全部束ねて、特にアイドルとか作家、漫画家用に運営とECを統合したプラットフォームをつくりたいんだよね。
佐渡島:僕自身も堀江さんの言っていることの意味を理解するのに2年ぐらいかかりました。だから、世間でわかっている人は少ないと思います。
作家をサポートする人たちだけでなく、作家自身もわかっていない。作家が本当につくりたい物をつくって収益を上げるためには、ソーシャルを使ったほうが良いと思うんです。
でも、作家の中には「それって必死な感じで格好悪い」とか、「作家は人前に出ちゃいけない」という考えに捉われている人もいる。そんな余裕を言っている猶予はないのに。
堀江:ミュージシャンの浜田省吾さんはまったくメディアに出ないけれど、CDを出したら20万枚は売れるし、コンサートをすると全国ツアーで客が埋まって、いまだに事務所の稼ぎ頭。
そういうコミュニティを持つと、ヒット曲なんかなくてもファンの人たち向けに曲をつくり続ければずっと食べていけるので、非常に安定している。それって強いよね。
そういう文化が作家や漫画家にはなかったから、僕はずっと「いい方法がある」と同じことを言い続けて、自分でも証明しているんです。だけど、堀江さんだからできるって言われちゃう。
佐渡島:まずは作家の人にやる気になってもらわなければいけないので、2年近くかけてその重要性をずっと説明していました。
今は、積極的に関わってきてくれています。安野さんや小山さんもファンのリアクションを実感して、モチベーションを持ってやってくれるようになりました。漫画家って、今までは原稿に追われて世間のリアクションをなかなか見ることができていませんでしたから。
でも、ファンクラブがあると、反応がダイレクトにあって、世間を理解しながら書くようになる可能性があって、作品もより世間に受けるものになる可能性も高まると思っています。
堀江:漫画家って、すごくすり減っていると思う。しかも、ジャンプの人気投票を気にしながらストーリー変えていくとか、めちゃくちゃ大変だよね。コミュニティをつくれば、ベースがあるから楽になれるよ。
(構成:川内イオ)
*明日掲載の後編に続く。