特別対談_堀江貴文_佐渡島庸平_02

特別対談 堀江貴文×佐渡島庸平(後編)

島や組織を脱出して、50億円を儲けるための発想法

2015/6/26
組織の中で、与えられた仕事を懸命に消化し続けていれば「安定した人生」を得られる。この“常識”が崩壊した現代を生き延びるために、必要なこととは何か。『あえて、レールから外れる。逆転の仕事論』を著した堀江貴文氏と、東大時代のゼミの後輩で、講談社を飛び出して出版エージェントを立ち上げた佐渡島庸平氏が語るサバイバル時代の仕事論。
前編:“常識”に抗い、自ら仕事を創り出せ

不完全でも良しとされるインターネット

堀江:僕は今、次世代のエンターテインメントだと思って注力しているものがいくつかある。

たとえば、人狼ゲームの舞台と、バンカラというバンドでカラオケができるお店。この2つは共通点があって、どっちも不完全なんだよね。人狼ゲームをアドリブでやるので、プロの役者は「これって芝居じゃないよね」って否定から入ってくる。バンカラも同じで、知らない曲をアドリブで弾かなきゃいけないから「最初はこんなのできない」って言われる。

佐渡島:昔は作品を発表する場やチャンスが少なかったから、完璧なものを出さなきゃいけないと思います。けれど、それが本当に完璧だったかというと、完璧と思うことにした完璧であって、結局はすべて完璧を目指す旅の途中なんですよね。

とくに大企業の場合、社内でチェックしすぎなんだと思うんです。社内のチェックだって完璧なわけじゃないから、まず世間に出さなきゃいけない。むしろ、不完全なものでも出す回数が多いほうがいいというのが、インターネットが浸透した後の正解なんだと思います。

堀江:安野モヨコさんのインスタ(インスタグラム)はまさにそれ。安野さんがアップしているのは走り書きなんだと思うけど、一般人のレベルからしたら完成品。フォロワーも「いいね!」もどんどん増えているよね。

佐渡島:作家も不完全を許容して、ちょっとぐらいうまくいかなくても「まあ、いいや」っていう許容範囲が広くなってくればと思います。ネットの肝って、過程の共有とコラボだと思うんです。

でも、リアルでは過程を見せることはないし、コラボって手間がかかりすぎてあんまりやりません。意識をネット的に変えていかなければと思っています。たとえば、安野さんが、有名なモデルさんを5人描いて、それを双方のインスタにアップするとか、そういうことをやりたいんですよ。

堀江:いいじゃない。

佐渡島:依頼を受けてやる原稿と自発的に描く原稿のバランスをどうしていくのか。昔の仕組みに慣れているので、ちょっとずつ適応してもらっています。

堀江:おれがあんなに絵が描けるならどんどんやるけど(笑)。絵がうまい人ってうらやましい。

佐渡島:知名度が低い若手のメルマガに、どう登録してもらうのかも課題ですね。芸能事務所の場合、人気のある子が事務所の若い子と一緒にインスタに写って、その子のインスタを紹介したりすると、結構ファンが増えるんです。

漫画の考え方で言えば、若手を育てるために同じ事務所のベテランと若手がひとつの漫画を描く。たとえば、ベテランが描く漫画の20ページのうち、1コマだけを若手が描くとか、そういうことをやりたい。そうすれば、絶対にファンの移動が起きますよね。

堀江:それ、面白いね。

佐渡島庸平(さどしま・ようへい) 1979年生まれ。中学時代は南アフリカ共和国で過ごす。灘高校から東京大学文学部に進学し、大学卒業後の2002年、講談社に入社。週刊モーニング編集部で、井上雄彦『バガボンド』、三田紀房『ドラゴン桜』、安野モヨコ『働きマン』などの担当を務める。また、小山宙哉『宇宙兄弟』は累計1600万部を超えるメガヒット作品に育て上げ、TVアニメ、映画実写化を実現。漫画以外にも、伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など、小説の連載も担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立した

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
1979年生まれ。中学時代は南アフリカ共和国で過ごす。灘高校から東京大学文学部に進学し、大学卒業後の2002年、講談社に入社。週刊モーニング編集部で、井上雄彦『バガボンド』、三田紀房『ドラゴン桜』、安野モヨコ『働きマン』などの担当を務める。また、小山宙哉『宇宙兄弟』は累計1600万部を超えるメガヒット作品に育て上げ、TVアニメ、映画実写化を実現。漫画以外にも、伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など、小説の連載も担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立した

やりたいことを実現するために

佐渡島:ソーシャルの仕組みをつくって、そういうコラボを起こすような会社に、コルクをしたいんですよ。そういうことをしないと会社をつくった意味がない。作家同士がどうやって仲良くなるかという仕組みを整えるのも、うちの会社のやることかなと思っています。

ただ、社内で僕の考えたことを共有して、僕が思いついたことを執行するのはすごく難しい。堀江さんは、自分のやりたいことをどれくらい実現できているんですか。

堀江:全然実現できていないから、ずっとイライラしているよ。でも、何が足りないのかはわかる。この前も、いまCFOが足りないなと思って、CFOっぽい人を雇いました。

佐渡島:堀江さんは経験値があるからいいですよね。僕の場合、僕の描いているビジョンにミスがあるのか、執行役がいないことが間違っているのかわからなくて、一度立ち止まったりすることが意外とあるんですよ。

自分で経営するようになって、チームをつくり上げていくのは難しいなと感じています。堀江さんは、今はもう会社はいらないというスタンスだと思いますけど、ライブドアで成し遂げたレベルのことが、今の堀江さんの働き方でできるような気がしますか。

堀江:ライブドアの頃は、株主の利益を最大化しなければいけなかった。でも、今は誰にも投資をしてもらっていないから、リターンを返す必要もない。

組織があったほうが楽だけど、あえて今の新しい組織でチャレンジすることで、何か効率のいい仕掛けが見えてくるんじゃないかと思って実験している感じ。何か思いついたら、やれそうな人に「これやれば? 」と伝えて、それができたら、俺が考えたアイデアなんだよって言えればいいんです。

そうそう、この前、すごく良いアイデアを思いついたんだ。パンツの広告枠を売っているフリパンという会社があって、タダで広告がプリントされているパンツをもらえるわけ。それなら、Tシャツとパンツと靴下を全部セットにして、おしゃれなものが月に5セット送られてくるほうが良くない? 誰かやらないかな。

佐渡島:Tシャツって結構宣伝効果あるし、意外と価値あるかもしれませんね。無料じゃなくて、ユーザーがおカネをもらえるようにすらなるかもしれない。

堀江:あとシャツやジャケットが毎週送られてきて、段ボールに入れて返せるとすごく便利。女の子向けサービスは始まっていて、オンラインDVDレンタル方式で、月に何千円か払うと、週に1回、3着ぐらいの洋服が送られてくる。男向けでまともなのができたらやってもいいよね。服がなくなると持ち物がかなり減るから。

堀江貴文(ほりえ・たかふみ) 1972年福岡県八女市生まれ。血液型A型。実業家。ライブドアの元代表取締役CEO。民間でのロケット開発を行うSNSファウンダー。東京大学在学中の1996年、23歳の時にオン・ザ・エッヂ(後のライブドア)を起業。2000年、東証マザーズ上場。2004年から2005年にかけて、近鉄バファローズやニッポン放送の買収、衆議院総選挙への立候補などといった世間をにぎわせる行動で一気に時代の寵児(ちょうじ)となる。しかし2006年1月、証券取引法違反で東京地検特捜部に逮捕され懲役2年6カ月の実刑判決を下される。2013年11月に刑期を終了し、再び自由の身となって「ゼロ」からの新たなスタートを切った

堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年福岡県八女市生まれ。血液型A型。実業家。ライブドアの元代表取締役CEO。民間でのロケット開発を行うSNSファウンダー。東京大学在学中の1996年、23歳の時にオン・ザ・エッヂ(後のライブドア)を起業。2000年、東証マザーズ上場。2004年から2005年にかけて、近鉄バファローズやニッポン放送の買収、衆議院総選挙への立候補などといった世間をにぎわせる行動で一気に時代の寵児(ちょうじ)となる。しかし2006年1月、証券取引法違反で東京地検特捜部に逮捕され懲役2年6カ月の実刑判決を下される。2013年11月に刑期を終了し、再び自由の身となって「ゼロ」からの新たなスタートを切った

チャレンジするためにベースを築く

佐渡島:そう考えると、全然違うビジネスがどんどん生み出せますよね。講談社の社員時代は全然おカネを使うこともなく、せいぜい宣伝費を使って1000万円、2000万円くらいのレベル。僕が思いつくのもそのくらいの金額のアイデアでした。

それが今自分で会社をやるようになって予算も増え、『逆転の仕事論』でも言いましたが、島や組織を自ら脱出して、船で大海にこぎ出した人たちと出会うことで、会社員時代にはなかったアイデアが湧いてくるようになりました。

ただ、まだ10億円、100億円を使ったときに、世の中をどう変えるかというアイデアが出てこなかったり、そういう目線でモノを考えたりすることに慣れていない。この前、堀江さんに「50億円を使って、60億円を儲けるようなことを考えられるようになれ」と言われたんですが、そういう発想法ってなかなか難しいと思います。

堀江:自分の中で仮説ができれば、それをやるだけだよね。ライブドアのときはベースとなる収入を確保している状態で自己資金で攻めていたわけだから、危ない投資ではなかった。

佐渡島:サロンのように収入が安定している仕事と、スポットの仕事の組み合わせをどうつくるかですよね。コルクの場合、まだ出版社や作家に頼っているので、実はスポットの仕事が中心です。

堀江:それは怖いよね。俺はそういうの無理。最初から、どうやったらベースの収入を確保するかを考えるよ。ライブドアのときは、サーバーの管理をベースにしていた。

佐渡島:そもそも作家自体がショットの仕事しかないタイプの職業で、客も移ろいやすい。

堀江:だからサロンなんじゃない? 描かなくてもトークイベントをやるとか、昔の作品を蔵出しするとか、昔書いたイラストをシルクスクリーンにして100枚出すとか、いくらでもやりようがあるでしょう。

佐渡島:僕もまだビジネスが下手なんだと思います。これだけ堀江さんの近くにいて、堀江さんのやっていることを見ていても、サロンのシステムを作家に応用すると良いことを実感するのに、時間がかかりました。来月、小山さんのファンクラブイベントを初めてやるんですよ。小さいライブハウスなので130人ぐらいの規模なんですけど。

堀江:宇宙兄弟は世界観ができあがっているから、やりやすいよね。ロケットでコラボしようよ。年末に宇宙空間に行くから。

佐渡島:そうですね。何かやりましょう。

(終わり)

(構成:川内イオ)

『あえて、レールから外れる。逆転の仕事論』
いま最も有効な働きかたとは何か?
本書では、武田双雲、佐渡島庸平、増田セバスチャン、田村淳、HIKAKIN、小田吉男、小橋賢児、岡田斗司夫というグローバルビジネス時代を生き抜くイノベーターの仕事論を紹介し、堀江貴文が分析する。
Co逆転の仕事論.eps