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マイクロファイナンスを取り巻く現状とは

マイクロファイナンスに対する誤解――高利貸しか、連帯責任は問題か

2015/6/23
ソーシャルファイナンスの最前線で活躍している慎泰俊氏が、その実態を解き明かす連載第2回。今回から2日連続で、マイクロファイナンスに対する誤解を解きながら、その可能性を探っていく。(6日連続・全6回)
第1回:私が「機会の平等をつくる仕事」に取り組む理由

マイクロファイナンスとは、文字通り小規模の金融のことで、途上国で貧困層に対して提供されている小規模の金融サービスの総称です。

このマイクロファイナンスについて、日本にはあまり情報が入ってこないので、経済新聞だけを読んでいるとなかなか情報がアップデートされていない可能性があります。そこで、4つのよくある誤解を解くかたちで、リアルなマイクロファイナンスについて書いてみたいと思います。

マイクロクレジットは高利貸しか

マイクロファイナンスにおける融資、マイクロクレジットの金利は30%前後が相場です。そのことから、日本では一部の人が「マイクロクレジットは、要は高利貸しではないか」という話をすることがあります。

しかし、これはいくつか重要な前提を見落としています。高利貸しかどうかは、経済状況的に妥当とされる金利水準から、どの程度逸脱しているかを基準に考えるべきでしょう。

金融不安などがあるような場合を除くと、貸出金利はリスク、インフレ率、資本の限界生産性によって決まります。リスクとインフレ率はわかりやすいと思いますので、ここでは省くことにして、資本の限界生産性について書いておきましょう。

資本の限界生産性とは、何かのビジネス機会に対して追加投資をしたときにその追加投資から得られるリターンのことで、途上国ではこれが先進国に比べてはるかに高くなります。

たとえば、日本ではどんなにすごい飲食チェーン店でも、新しく店舗を出店したらその回収に4年はかかります。一方で、途上国で豚を買って育てる仕事をした場合には、投資回収ははるかに早く実現することができます。

養豚の仕事は回収率が高い

養豚などのビジネスは効率が良い

たとえば、1980年代の日本において郵貯の定期預金金利は8%から12%でした。この期間の年率のインフレ率は2%です。カンボジアの今のドル定期預金金利は7%程度で、インフレ率は2010年以降0%から5%程度で推移しています。現地の優良企業の借入金利は10%強です。

こういった数字感覚をベースにすると、30%の金利というのが法外に高いと言えないということが理解してもらえるのではないでしょうか。途上国もそれぞれですし、厳密な計算は難しいのですが、途上国の30%前後の金利というのは、日本でいえば7〜8%くらいの金利水準といっていいと思います。

そして、途上国にいる本物の高利貸は、1週間に金利4%などの水準でお金を貸しています。年率に直すと200%弱です。もっと高い金利を要求していることもあります。個人でこういうことをしている業者もあれば、マイクロファイナンスを名乗るNGOが非合法的にやっている場合もあります。

個人的には、こういった本物の高利貸業者こそ早く根絶したいのですが、彼らは地元の村人のことをよく知っていて(かつ顔見知りで)、村の人が急にお金を必要とするときに、無審査でお金を貸し、そして取り込んでいきます。

困っているときに「無審査・即決」の便利さは、金融教育があまり行き届いていないことと相まって、一部の人にはかなり魅力的に映るのでしょう。

こういったヤミ金業者の存在は途上国でも問題になっていて、マイクロファイナンス機関側としては、既存の顧客が急にお金に困ったときには無審査ですぐに少額のお金を融資する「緊急ローン」などを提供することなどを通じて、ヤミ金業者に流れる人が減るように努めています。

また、ヤミ金業者からのローン完済のための融資を提供しているマイクロファイナンス機関もいます。とはいえ、早く正確に融資の審査ができるような体制を整えることこそが最重要課題であって、顧客情報がより正確に入手できるようになる未来には、これは現実のものになっていくのでしょう。

今も連帯責任の「5人組」にお金を貸しているのか

日本では、マイクロファイナンス=グラミン銀行というくらい、バングラデシュのマイクロファイナンス機関であるグラミン銀行と、その創業者であるムハマド・ユヌス氏は有名です。ノーベル平和賞の受賞と相まって、彼の名声は非常に高いものとなりました。

ムハマド・ユヌス氏

ムハマド・ユヌス氏

そして、グラミン銀行のことを少し知っている人は、「要はグラミン銀行がお金を貸す方法は、昔でいう5人組だな」と言います。すなわち、5人の連帯責任グループに対してお金を貸し、それによって高い返済率を維持しているというわけです。

確かに、グラミン銀行のはじまりではこういった連帯責任グループをつくっていましたし、今もこのグループに対して融資をする「グループローン」は一定数存在し続けています。

なぜグループを組むのかというと、単純に連帯責任によって回収率を高めるためではありません。グループを組むということは、マイクロファイナンスからお金を借りる人が、自分で信用できる仲間を探してくることにほかならず、それは結果としてマイクロファイナンス機関側が審査時に顧客調査のためにかける時間を大いに減らすことにつながるためです。

グループローンの融資現場

グループローンの融資現場

しかし、グループローンについてはさまざまな問題が指摘されています。いくつか代表的なものを紹介しましょう。

第一に、グループを組むのが大変であることです。信頼できる仲間を探すために必要な労力は、グループローンを組むことによって下がる金利より高いのではないかという人さえいます。

また、ローンの返済時にはグループで集まらないといけませんが、この集会のための移動時間もバカにならないことがあります。特に山岳地帯などではそうです。

次に、社会正義的な問題があります。ひとつは、グループに入れてもらえないような人が、マイクロクレジットを利用することができないという問題です。途上国における金融アクセスを解決するためのマイクロファイナンスがそれで良いのか、というわけです。

社会正義的な問題としてもうひとつ取り上げられるのは、仮にグループの仲間のひとりが不可抗力的な理由でローンの返済ができなくなった場合、たとえば飼っていた牛が死んでしまったような場合、その責任を周囲の人が取らされるのはあまりにもひどい話ではないかというものです。

実際、現場の融資担当者らは、こういったケースが発生した際に、グループの仲間に対して返済を要求することを強くちゅうちょします。

さらに、最近の研究によって提示されているのは、コミュニティの団結力が過度に強い場合においては、グループ全員でローンを踏み倒そうという動機付けが働くこともあり、必ずしも連帯責任という仕組みが返済率を高めるのに貢献していないというものです。

よって、今や、連帯責任の5人組が常にマイクロクレジットにおける最適解とは言えないというのが、常識となっています。国別に固有の事情や文化背景があり、各国のマイクロファイナンス機関はその状況に合わせて融資の仕組みをつくり込んでいるわけです。

最近は個人に対するローンが主流になりつつあります。個人ローンの場合は、グループローンの場合と違って借手に情報集めの労力を転嫁できませんので、近隣の村人からのうわさをかなり聞きこんで融資審査をすることになります。

そのため、村の村長さんとの関係づくりは事業をうまく運営していくうえで非常に重要なことで、マイクロファイナンスの行員たちは外回りの際に村長さんや村の情報通によくあいさつにいきます。

その際に、融資の審査対象となっているお客さんについてのうわさを聞いたり、返済を渋っているお客さんについて相談したりします。これは、地方の信用金庫の人たちには、かなり馴染みの深い話になってくるのではないかと思います。

ある村の村長さん

ある途上国の村長さん。マイクロファイナンスの行員は、こうした人々との関係づくりに努める

具体的な契約のつくり込みにおけるポイントは、返済期間を短期にして継続的な借り換えを行えるようにすることです。

たとえば、個人に対するマイクロクレジットでうまくいくケースとしては、最初の融資額が100ドル、次に200ドル、と返済が完了するごとにローンを増やしていくものがあります。この仕組みがうまくいく理由は、ゲーム理論の「繰り返しゲーム」で簡単に説明することができます。

また、マイクロファイナンスでは担保をとらないというのが有名な話になっていますが、担保をとるマイクロファイナンス機関もあります。

もちろん、債務不履行時に担保である草葺の家を差し押さえたとしても、それをすぐに現金にできるわけでもないのですが、借手にとってそれは大切な資産であるわけなので、それを担保に差し入れることを通じて返済の動機を強く持たせるというわけです。

次回は、もう2つの論点についてお伝えしたいと思います。

著者プロフ_慎さん