【解説】イギリス「14年ぶり」の政権交代で変わること
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英国の下院は650議席、その内の411議席を労働党が取りました。
各党の得票率を順番に並べると、
労働党 33.7%→411議席
保守党 23.7%→121議席
リフォームUK 14.3%→5議席
自由民主党 12.2%→71議席
https://ig.ft.com/uk-general-election/2024/results/
この結果から、いろいろなことがいえます。
完全小選挙区制の特徴が非常によく出た結果といえます。
・保守党は対労働党比で70%の票を取っていますが議席は30%
・リフォームUKに至っては、対労働党比で40%の票を取っているのに、議席は82分の1
完全小選挙区制は、1位の総取り、「2位ではダメ」な選挙制度です。
その結果として、勝者がハッキリとあらわれます。政権担当政党としての第1党が決まりやすい制度といえます。
完全小選挙区制であるがゆえに、多大な利益を得たのは労働党、損をしたのは保守党です。
リフォームUKという、全体では14%の票を取った新興勢力は、5議席しか得ていませんが、保守党の得票を削るうえでは大変おおきな働きをしました。
たとえば、今回落選した保守党のトラス前首相の選挙区(サウス・ウェスト・ノーフォーク)だと、
労働党 26.7%
保守党 25.3%
リフォームUK 22.4%
で、リフォームUKが22%も取っていなければ、保守党の圧勝だったでしょう。こういう選挙区が、今数えてみた限りだと、160はあります。
160の選挙区で結果がひっくり返っていれば、保守党は第1党になっています。
つまり、今回の労働党勝利の立役者は、(保守党の足を引っ張った)リフォームUKといえます。
総投票数の14%を得票したリフォームUKは、ブレグジットを推進してきた政党で、反移民です。
反EU、反移民である理由は、雇用と公共サービス、つまり、医療や教育の質が移民のせいで著しく下がっている、というものです。
労働党が勝てたのは、14年間この問題を解決できなかったので有権者の不満が労働党とリフォームUKへの票となった結果です。
保守党が解決できなかったように、労働党も解決できないでしょう。今回、250もの議席を失った保守党は再生に相当の時間がかかるかもしれません。それでもスナク氏が新しい首相のスターマー氏を「公共性のある人物で、尊敬している」と評したのは素晴らしいと思いました。また、新首相も初演説の最初に
「我が国で初のアジア系首相としてのスナク首相の功績は、誰も過小評価してはいけません。 敬意を評します」と述べました。
選挙とは言っても大人同士の戦いなので、こういうリスペクトのあるやり取りは遠く日本から見ていても後味の良さを感じさせるものです。アメリカの「史上最低の討論会リターンズ」とはずいぶん違うなと…。
そして、政治サイクルというのは面白いと思いました。欧州各国にアメリカも反移民になびき、グリーン路線を修正する中でイギリスは真逆の動きを取ることになります。今後のイギリスはどう変わるのか、注目点をまとめてみました。昨今はどこの国も選挙やると右傾化か左傾化が問題になります。が、英国は違いました。EU離脱で右傾化を反省、トラス政権の財政大盤振る舞いで左傾化を反省、とまともな中道になる条件が整っていました。新しい労働党政権はかなり安定感のある政権運営になりそうです。前保守党時代の格差や財政赤字削減など行き過ぎた保守政治を修正する方向は正しいと思います。大きな流れでは行き過ぎた市場原理主義の修正が加速すると思います。予想通りの選挙結果で市場はごく平穏でした。選挙で大勝することが見えていたので、賛否の分かれやすい政策は曖昧な面が多く残っています。具体策はこれからです。こういう時は政権運営の基本的な哲学が大事になると思います。新政権のテーマは、大リセット、本当の英国を取り戻す、とのこと。意外と英国の政治は、米国を先取りして世界の方向性を決定づけることがまはまあります。レーガンの前のサッチャーが代表例です。それを最初にダレの目にも見える形で察知するのが市場です。こういう目で見ておけば良いかと思います。