ノーベル賞候補者が携わる「すごいスタートアップ」
10月7日から14日にかけて、「人類に最大の貢献をもたらした人々」に贈られるノーベル賞の受賞者が発表されます。
日本では2021年に物理学賞を受賞した真鍋淑郎さん以来、3年ぶりの受賞者が現れることに期待が高まっています。
『Coffee Break with Startups』では候補者に上がっている研究者が携わる日本のスタートアップに注目して紹介していきます。
サムネイル画像: ©︎Nobel Prize Outreach. Photo: Bernhard Ludewig
☕️coffee break:ノーベル賞級の技術が眠る大学
今回のノーベル賞の日程は以下のようになっています。
・10月7日(月)生理学・医学賞
・10月8日(火)物理学賞
・10月9日(水)化学賞
・10月10日(木)文学賞
・10月11日(金)平和賞
・10月14日(月)経済学賞
ノーベル賞の候補にあがるのは、世界的に大きな問題・課題を解決する可能性のある革新的な技術。スタートアップではディープテックと呼ばれる分野です。
その革新的な技術の種となる基礎技術のほとんどは大企業と大学内に眠っています。ゆえに、昨今は大学発スタートアップに注目が集まっているのです。
まずは日本における大学発スタートアップ(*)の現状を抑えいきましょう。
大学発スタートアップは2001年に経産省が1000社輩出計画を発表し、その後に国立大学にVCの設立を認可、知的財産権取得の仕組みなどが整備されたことで急速に社数が増加しています。
*一般的に各大学が技術活用や支援を受けている企業に称号を与える
2024年上半期までの資金調達動向は以下。
2023年の大学発スタートアップの資金調達額は約2000億円と、日本のスタートアップ全体の調達額(約8000億円)の25%を占めています。
そのうち、東京大学と慶應大学発のスタートアップだけでそれぞれ計500億円ずつ(約50%を占める)の調達をしています。
さらに、京都大学、東京科学大学(旧:東工大)、名古屋大学発のスタートアップの調達額を加えると、実に73%もの割合を占めているのです。
このことから、今後は会社設立だけではなく、首都圏外への資金供給・人材確保を支援していくのかが大きなポイントでしょう。
🍪もっとくわしく
では、今回のノーベル賞の候補に上がっている研究者が携わるスタートアップをみていきましょう。
「生理学・医学賞」
・大阪大学特任教授 坂口 志文氏
レグセル:制御性T細胞(Treg)を活用した免疫療法の開発
累計調達額:約21億円(2024年7月時点/スピーダ参照)
👉体内の免疫反応の暴走を抑える「制御性T細胞」を発見したことで、関節リウマチの治療法開発などにつながりました。レグセルでは自己免疫疾患・がんに対応する免疫療法を開発しています。2023年10月には連続起業家のマイケル・マッカラー氏をCEOに迎え、臨床試験の実施、米国への事業展開を加速させる体制を構築しました。
・筑波大学教授 柳沢 正史氏
S'UIMIN(スイミン):ウェアラブルデバイスとAIを活用した睡眠計測サービス
累計調達額:約16億円(2022年3月時点/スピーダ参照)
👉柳沢教授は脳で睡眠と覚醒の切り替えを行う神経伝達物質「オレキシン」を発見したことで、睡眠障害「ナルコレプシー」の原因解明につながりました。 S'UIMINは自宅で正確な睡眠状態が把握できるようにすべく、2017年に創業されました。
「物理学賞」
・桐蔭横浜大学特任教授:宮坂 力氏
ペクセル・テクノロジーズ:ペロブスカイト太陽電池の開発
累計調達額:不明
👉ペロブスカイト太陽電池は現在普及しているシリコン製太陽電池よりも軽くて薄く、曲げられることが特徴です。また、光を電気に変える変換効率も高いため、 曇りや雨の日、室内の光でも発電することが可能です。
・東京科学大学名誉教授:細野 秀雄氏
つばめBHB:小規模オンサイト型のアンモニア製造
累計調達額:76億円(2024年2月時点/スピーダ参照)
👉現在主流のアンモニア製造方法は、100年以上前に発明されたハーバーボッシュ法。郊外にある高温・高圧の大規模プラントで大量生産することしかできません。
しかし、細野教授が開発した「エレクトライド触媒」技術を用いると、低温・低圧の小型プラントを現場近くに設置して、必要なときに必要な量のアンモニアを製造することができます。
これを社会実装すべく、科学技術振興機構(JST)支援のもと、東工大関係者(細野教授)、味の素、ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター(素材・化学特化VC)の3者で立ち上げられました。
「化学賞」
・信州大学特別特任教授/東京大学特別教授:堂免 一成氏
ティエムファクトリ:超軽量透明断熱材「SUFA」の開発
累計調達額:15億円(2024年1月時点/スピーダ参照)
👉堂免教授は太陽光により水を水素と酸素に分解することで効率的に水素を生成する手法を開発しました。将来的にティエムファクトリが開発する透明断熱材と堂免教授の研究テーマでシナジーが想定されることから、2023年からアドバイザーとして関与しています。
・京都大学特別教授:北川 進氏
Atomis(アトミス):多孔性配位高分子の設計、量産化
累計調達額:20億円(2024年7月時点/スピーダ参照)
👉多孔性配位高分子(PCP/MOF)と呼ばれる新素材を開発しました。この新素材を液体や気体に混ぜると、簡単に構造を変えることができるので、水素やガスを効率的に大量輸送することができます。
こうした優れた技術を有するスタートアップが日本にも多々あるものの、研究者だけでは社会実装をすることはできません。
革新的な技術を推進する研究者と事業拡大・資金調達を推進できる経営人材が揃ってこそ、社会実装の道へと近づくのではないでしょうか。
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コメント
注目のコメント
今日からノーベル賞の発表が始まりますね。3年ぶりに日本人が受賞するのかということに注目が集まっていますが、実は革新的な技術を実用化すべく、スタートアップが立ち上げられている事例も複数あるんです。
テック分野だと、Google DeepMindの共同創業者、デミス・ハサビス氏が受賞するのかにも注目が集まっていますね。