猪子寿之は天才かカルトか? 「ヤバいものをつくる」チームラボの正体

2015/10/31
エンジニア、デザイナー、建築家、数学者などさまざまな分野のクリエイターが集まり、「ヤバいものをつくる」ことを目指すというチームラボの代表、猪子寿之氏。既成概念にとらわれない自由な発想で「天才」と称されるが、本人は「日本は天才神話が強すぎる」と「チーム」にこだわり続ける。世界のアートシーンで活躍するチームラボも、創業時はシリコンバレーを意識した。デジタルを駆使した斬新な作品はなぜ生まれるのか。原動力を追った。

「グーグルに負けてでも、やっておいた方がいい」

チームラボは、エンジニア、デザイナー、建築家、数学者などさまざまな分野のテクノロジストが集まり、デジタルのテクノロジーやクリエイティブの力で「ヤバいものをつくる」と標榜しています。人類が前に進むような、そんなことができたらいいな。
起業したのは、東大に在籍していた4年のとき。2001年の1月に、東大と東工大の工学部出身の5人が集まって、チームラボを立ち上げました。最初のオフィスは僕の下宿でした。
当時から、情報社会は情報が大量に増えていくから、大量の情報をどう扱うかといったようなことに興味を持っていました。
「サグール」という検索エンジンや独自のレコメンデーションエンジンもつくりました。「グーグルに負けてでも、やっておいたほうがいい」と──。

「泥くさいシステム、死んでもつくります」

「システムがっちりつくり込みます」という制作会社は少なかったから、仕事は徐々に入るようになりました。
チームラボは、泥くさいシステムと、新しいインターネットの考え方と、クリエイションと全部をやるというスタンスだったので、そういう会社は少なかったんじゃないかな。
しかも、体育会系じゃないけど、ガチンコの会社で「泥くさいシステム、死んでもつくります」みたいな勢いでした。
一方で、デジタルテクノロジーを使って空間演出するような仕事も、初期の頃から手掛けていました──。

代表の役割は「ある種の宗教」

「チームラボはデジタルだ」ということは創業のときに決めました。デジタルに絞り込むのは、本当は最適じゃないですよね。何か事をなすときに、デジタル以外の手法の方が最適かもしれないですし。
でも、それが最適であろうとなかろうと「チームラボはデジタルなんだ」と。「重要なのは、デジタルのテクノロジーとクリエイションで、あとはもうまったく重要ではない」と決めました。信じたわけです。すごい、カルトですよね。
「代表の役割は?」と聞かれたら、「ある種の宗教」と答えるかもしれません。カルトであることを気にせず、「デジタルでいく。チームでいく」と信じ、決めることですね──。

「使いやすくて気持ちいい」とビジネスは伸びる

システムソリューションの仕事で大事なのは、「普通に」使いやすいこと。目新しいことではなくて、もっと地道で着実で、だけど革命的に使いやすくなること。
たとえば、Uber(ウーバー)について、みんな「タクシー業界の価格破壊だ」とか言うけど、そうではなくて本当に使いやすくつくられています。海外で仕事をしている人や、初めて海外に出張に行った人はわかりますが、便利で使いやすいし、気持ちがいいのです。
「システムがしっかりしていて、使いやすくて気持ちいい」とビジネスは伸びます。「人の気持ちのよさ」や、細かいところまで設計して、しかもシステムが大規模につくれる会社って、競合が少ないんです。
チームラボは、100人、200人体制とかつくれるから、大規模な仕事も引き受けられました──。

デジタルは実は自然と共存しやすい

一般的に、今までデジタルというと、自然と一番遠いイメージだったと思います。逆に、木でできた机は自然と近いと。でも、そうではないと思っていて。
物質的な人工物というのは、実は自然と対立したものではないかという気がしています。木の彫刻にしろ、木の机にしろ、ある種の自然の破壊の結果、存在するものだと思うのです。
一方で、デジタルは非物質で、実は自然と共存しやすいので、自然そのものを生かして、アートにすることができます。昼間は普通のお庭、自然のままなわけです。そして自然をそのまま生かして、夜はアート空間になってる。
デジタルは実は自然と共存しやすいのではないかと思っているんです──。

アートを続けてきた理由

チームラボの売り上げの中心は今も、ソリューションのようなクライアント向けの仕事ですが、アートを続けてきたのは、制作プロセスを通して、デジタルが表現の概念をどう変えるのかを知りたかったし、アートをつくることで、人類の価値観を少しでも変えられたらいいな、と思ったからです。
アートを続けられたもうひとつの理由は、株主もいないし、借り入れもないし、成長しようとか、儲けようとかもないからです。
売り上げとか利益を今期中にここまで伸ばさなきゃいけないなどのプレッシャーや強制、目標もないので、やりやすかったというのもあると思います。だから、やれる範囲で追いかけてきました──。

チームラボに組織図はない

仮にものごとを1次元で考えている人が組織を設計しようとしたら、組織も1次元になってしまいます。つまり、社長、副社長、副々社長、副々々社長、部長、副部長、副々部長というような組織になってしまいます。それは、2次元で考えている人からすると、極めて頭が弱く感じますよね。
でも、もしかしたら3次元とか4次元とかで組織を考えると、2次元である組織図は同じように見えるかもしれませんね。
まだ、メンバーが数十人の頃、大人に「組織図もないのか! そんなのは、人数が増えれば無理だ」と、お叱りを受けていました。今は約400人で働いていて、組織はあると思いますが、組織図はないです。書くことが不可能なので──。

昔の「正解」、今は「不正解」

30年前に「正解」だった本屋さんは、今、「不正解」になっているかも知れません。
ワンクリックしたら数時間後に本が届く本屋さんが正解になったり、カフェなのか本屋なのかわからない本屋さんが正解になったり。新しい答えをどんどん創っていかないと、昔の答えは不正解になっていく。
そういう問題に溢れているのです──。
(予告編構成:上田真緒、本編聞き手・構成:山田亜紀子、撮影:遠藤素子)