主観を磨く　アート思考のヒント

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14本の記事

アートや子どもの視点から、異なる角度から物事を捉え直したり、自分の感覚に立ち返ったりするアート思考のヒントを見出します。

末永幸歩

美術教師「13歳からのアート思考」著者

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アートや子どもの視点から、異なる角度から物事を捉え直したり、自分の感覚に立ち返ったりするアート思考のヒントを見出します。

末永幸歩

美術教師「13歳からのアート思考」著者

見ることは視覚の特権ではない〈column 8 後編〉

全体に公開・2024/03/29

〈column 8 前編〉はこちら↓ 「みる」ことは視覚の特権ではないのかもしれない──。それについて思いを巡らせていたある日の出来事です。　秋のはじめ、近所の公園を散歩していました。桜の葉が紅葉し、なんともいえない鮮やかな色の落ち葉が地面を彩っています。美しい色の葉をいくつか選んで、当時5 カ月だった娘の手にも持たせてあげました。　すると娘は、葉の色合いには一瞥もくれず、すかさずそれを口に運んでしまいました。　　「あっ!」と慌てたものの、舐めてしまったものは仕方ないと諦めてそのままにしておくと、ペロペロとずっと舐め続けています。　飽きずに舐め続けているからには、何か感じていることがあるはずだと、次第に興味をそそられてしまいました。

どうやって「みる」のか？〈column 8 前編〉

全体に公開・2024/03/25

　世界遺産であり「フランス随一の美しさ」とも称されるシャルトル大聖堂。　全長130m の巨大なゴシック建築の内部には170 を超える窓があり、それらは眩いステンドグラスで装飾されています。　その中でも有名なのが「美しき絵ガラスの聖母」と呼ばれている作品。キリストを抱える聖母マリアと、周囲には天使たちが描かれています。　この作品に限らず、シャルトル大聖堂のステンドグラスには、聖書で語られる聖人たちの様々な物語が、大変細かく正確に描写されています。　しかし、微細な描写がされている一方で、ほとんどのステンドグラスは近寄って鑑賞することができない場所に飾られています。　ステンドグラスが孕む矛盾　実際の『美しき絵ガラスの聖母』は、2 ｍ以上の高さのある細長い窓で、掲載の絵柄は上方の一部です。

真実に迫る方法は客観的な見方だけではない〈colum 7 後編〉

全体に公開・2024/01/24

〈column 7 前編〉はこちら↓ 　話は変わりますが、娘は3歳を前にした頃から、立派に人の顔を描くようになりました。　丸い輪郭を描くと、そこに目・鼻・口を、位置関係も正確に描きます。見た目にもそれらしい絵を描けるようになり、娘自身も得意げな様子です。　しかし、まともな顔を描くのとは対照的に、体の表現は随分と妙なものなのです。　顔の周りを勢いよく大きな円でグルッと囲んだり、ときには波打つような線で囲んだりします。　娘曰く、それが体なのだそうです。どうやって「体」を表現するのか？　一義には、「子どもは人の顔に注目しているため、関心が薄い体の表現は適当なものになってしまうのだ」と考えられます。　しかし一方でこの絵を「心で捉える」という観点で考えてみるとどうでしょうか。

絵に描かれた風景が実存しない訳〈column 7 前編〉

全体に公開・2024/01/19

　『早春図』という作品は、息を呑むような壮大な自然が見事に描かれた大作であり、独自の画論をまとめ中国山水画を発展させた北宋の画家「郭煕」の代表作と言われています。　およそ1000 年も前に描かれた作品ですが、当時の中国の山奥には、まさにこのような景色が広がっていたのではないかと感じられるのではないでしょうか。　しかし実は、当時の中国のどこを探したとしても、この絵に描かれた場所を特定することは不可能です。　なぜなら『早春図』をはじめとする山水画と呼ばれるジャンルの絵は、実存する風景を描くものではなく、画家が心で捉えた風景を描き出すことが多かったからなのです。「心で捉える」ということ　郭煕と同時代に文人・画家として活躍した蘇軾は、「画を論ずるに形似をもってするは、見児童と隣る」と言いました。

大人が失ってしまう「99のもの」とは？〈colum 6 後編〉

全体に公開・2023/11/30

〈column 6 前編〉はこちら↓ 　前編の「志野茶碗」から少し話は変わりますが、1歳の子どものいる知人の家に遊びにいったときのことです。　知人が、紙パックに入った麦茶を、子どもに手渡しました。子どもはストローを口にする前に、手でパックをギュッと握ったので、ストローから麦茶が飛び出してしまいました。慌てた知人は「あ、強く握っちゃだめ！」と、子どもの手から紙パックを手放させました。「ストローから麦茶が飛び出した」という結果だけに目を向ければ、知人の対応は当然であり、子どものいる家庭ではよくある日常の１コマかもしれません。しかし、ここでは「紙パックをギュッと握った」子どもの行動を、少し違った視点から考え直してみたいと思います。

「志野茶碗」は視覚で愛でる器ではない〈colum 6 前編〉

全体に公開・2023/11/24

　よく「美術鑑賞は実物を見るのに勝ることはない」と言われますが、私がそれを実感したのは、桃山時代につくられた「志野茶碗」を鑑賞したときのことでした。　事前に作品の写真を見ていたのですが、実物を見たときとの印象の差は歴然としていました。　写真を見ていたときには、抽象的に描かれた「橋」の絵付けに特徴がある作品だと感じていましたが、実物を見てみると絵柄はそれほど目立たない印象でした。　それよりも、茶碗自体の歪な形、釉薬の具合で器全体に空いた無数の穴、茶色い粘土が部分的に露出してできた風合いなどの方が印象的でした。また、写真から想像していた以上に大ぶりの茶碗であり、厚みもあることから、ずっしりとした重みを感じるようでした。綺麗で整った一般的な意味での「美」からは、かけ離れた無骨な印象がありました。

空白の地図を持って旅に出る〈column 5〉

全体に公開・2023/10/30

絵本『もりのなか』　子どもと大人は異なる世界にいる。そのどちらかが正解なのではなく、双方が尊重されるべきものなのではないか───。　私はそう考えているのですが、そのことを優しい物語とともに感じさせてくれたのが、『もりのなか』という絵本でした。　物語では、主人公の男の子は近所の森に散歩に出かけます。森の中では「セーターを着たゾウ」や「太鼓を持ったカンガルー」など想像上の動物たちが次々に登場し、男の子はその動物たちと遊びます。日暮れに男の子を探しにやってきた父親との会話で、物語は締めくくられます。「いったい　だれと　はなしてたんだい？」「どうぶつたちとだよ。みんな、かくれてるの」「だけど、もう　おそいよ。うちへ　かえらなくちゃ。きっとこんどまで　まっててくれるよ」

子どもの視点が凝り固まった思考を揺るがす〈column 4 後編〉

全体に公開・2023/09/19

　〈column 4 前編〉では、パブロ・ピカソの名画、『アビニヨンの娘たち』をきっかけに、リアルさについて考えを巡らせました。〈column 4 前編〉はこちら↓ 2歳児が作ったリアルなアンパンマンとは？　そんな折、「リアルさとはなにか？」という問いについて、別の角度から考えさせられる出来事がありました。　それは2 歳の娘と、砂遊びをしていたときのことです。娘と私は、砂を詰めた容器をひっくり返して椀型の形をつくり、そこに棒で模様をつけて、アンパンマンを作ろうとしていました。　私は、アンパンマンの特徴である鼻とほっぺ、そして目と口を描き入れ、それらしい顔を作りました。　娘も、お椀型の砂の塊に棒で点々を描き始めます。

ピカソは何を目指していたのか？〈column 4 前編〉

全体に公開・2023/09/06

　パブロ・ピカソの作品に、『アビニヨンの娘たち』があります。縦横ともに2ｍ以上ある大作で、ピカソの数ある作品の中でも歴史に残る名作とされています。　しかし、よく見るとずいぶんとおかしな絵であるようにも感じられます。人体はカクカクとした形で表現されていますし、妙なところに影のような色がついていたり、関節が外れているかのように手足の向きはちぐはぐだったりします。　この作品が発表されたとき、コレクターは「フランス美術にとって何たる損失だ」と落胆し、画家の仲間さえも「斧の一撃で切りつけられたようだ」と手厳しく形容したといいます。　幼少期から絵の才能を発揮し、写実的な絵画の腕前も周知のことであったというピカソ。なぜ彼は、コレクターや画家仲間までも失望させてしまうような妙な絵を描いたのでしょうか？

ゴールではなく過程に目を向ける〈column 3 後編〉

全体に公開・2023/08/14

〈column 3 前編〉はこちら↓ 赤一色だけの塗り絵「足跡」としての表現がある──このことについて、別の角度から考えさせられた出来事がありました。　2 歳半の娘が、クリスマスに祖父からアンパンマンの塗り絵をもらいました。大喜びですぐにクレヨンの箱から赤い色を取り出すと、まずは鼻と頬から塗り始めました。　鼻と頬を塗り終えた娘に、祖父は「次に顔は何色にする？」「目は何色？」と問いかけます。しかし娘は、赤いクレヨンを手にしたまま、顔も目も、そして体さえも赤く塗り上げてしまいました。　真っ赤に彩られたアンパンマンを見て、「そうか、元気な赤の印象なのか～」と祖父は感心し、「じゃあ、メロンパンナちゃんはどんな色？」と今度は色のイメージを問いかけます。

レオナルドのスケッチが「作品」と言えないワケ〈colum 3 前編〉

全体に公開・2023/08/09

　史上最高と評されるルネサンス時代の画家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。『モナ・リザ』や『最後の晩餐』などの誰もが知る名画のほか、優れたスケッチを数多く含む「手稿」もよく知られています。　　その手稿は現存するだけで5,000 枚にも上り、美術館や画廊を含む世界中の様々な場所に点在。1994 年には、その一部をビル・ゲイツが当時30 億円で購入したことも話題になりました。しかし、ここで留意したいことは、レオナルドのスケッチが「作品」として描かれたわけではないということ。　その時代の絵画において「作品」として認められたのはキャンバスや壁面に完璧に仕上げられたものであり、スケッチなどは作品とみなされませんでした。事実、レオナルドは生前には手稿を誰かに見せることも、売ることもしていません。

ありのままに見るということ〈column 2〉

全体に公開・2023/07/20

「近代絵画の祖」と称されるポール・セザンヌが、故郷のフランス南部に実在するサント・ヴィクトワール山を描いた作品があります。　一見、美しい風景画のように見受けられるかもしれません。しかし、実はこの作品は「風景画」ではないと考えられるのです。一体どのようなことなのでしょうか。　ルネサンス以降の長い間、西洋美術において画家たちを惹きつけてきた目標がありました。それが「美しい自然をいかにして再現するか」ということでした。しかし、その目標を揺るがせた最初の人物こそが、セザンヌだと言われています。　セザンヌが、画学生に宛て絵画の心構えを書いたある手紙の中に、「自然を円筒形と球体と円錐形で捉えるように」という一文があります。

アウトプットを急ぐより沸き起こる興味を追求しよう〈column 1 後編〉

全体に公開・2023/07/03

〈colum 1 前編〉はこちらから↓ アウトプットを急ぐより沸き起こる興味を追求しよう表層ではなく、根底にある「興味」に着目したことで、違った意味を見出すことができた出来事があります。現在2歳の娘は、かなり早い時期から毎日のようにクレヨン絵を描いていました。クレヨンはあっという間にすり減り、勢いのある素晴らしい作品が毎日のようにできていました。しかし、ある時点から、まるで絵を描かなくなってしまったのです。買い足したクレヨンはほとんど減らず、スケッチブックもほとんど白紙のままという状態が半年以上続きました。他方、絵を描かなくなったのと同じ頃から、娘に見られた姿がありました。山手線の駅のホームに電車が近づいたときのこと、私が「電車だよ」と言うと、娘は即座に「緑！」と言ったことがありました。また、夕暮れに自転車に乗っていたときには夜空を指して「青」。タクシーに乗ったときには、「茶色」と車体の色で呼んでいました。

モネはなぜアートにブレイクスルーを起こせたのか〈column 1 前編〉

全体に公開・2023/06/14

　クロード・モネの代表作に、窓から見える都市の風景を描いた『印象・日の出』という作品があります。　今でこそ、古典的な美しい風景画のように感じられるかもしれませんが、当時の評価は惨憺たるものだったといいます。　この絵が描かれた19 世紀以前には、対象物はきっちりとした形と、固有色で表現されるのが一般的でした。しかし『印象・日の出』は、抽象的だといえるほど曖昧な形と、現実離れした色彩で描かれています。　当時の評論家は、モネの絵は完成した作品とはいえず、単なる「印象」が描かれているに過ぎないと冷評しました。奇しくも、この評が「印象派」という呼び名の由来となりました。　しかしその後、モネを始めとする印象派の画家達による作品はアートの歴史にブレイクスルーを起こすことになります。20 世紀以降の絵画が「現実世界の再現」から脱却してゆくことの源流となったのです。

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