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「国際的マスギャザリングイベント」であるパリ五輪などに関する健康リスク評価 – リスクを知って安全にイベントを楽しみましょう

「国際的マスギャザリングイベント」であるパリ五輪などに関する健康リスク評価 – リスクを知って安全にイベントを楽しみましょう

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峰 宗太郎
感染症を中心とする医学・健康に関する話峰 宗太郎

 第2回の記事になります。このトピックでは、健康や医療に関わる情報、論文の紹介、感染症の解説などを中心に記事を書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。このトピックの他に、theLetter という媒体や Yahoo!ニュースのエキスパートオーサーとしても記事を書いています。ご覧いただければ幸です。

 今回の記事も theLetter でも配信しております。

 なお、いずれも、内容は個人の考えであり、所属する団体等を代表する意見ではありません。

 さて、人がたくさんあつまるイベントのことをマスギャザリング(mass gathering; MG)といいます。オリンピックやサッカーのワールドカップは国際的 MG の代表的なものですし、音楽のフェスや大規模コンサートは国内 MG の代表例ですね。スポーツやエンタメ以外にも、メッカ巡礼(ハッジ)や新年の初詣など宗教的行事 MG もありますね。

 このような MG が行われる際には、人が多く集まるという特性から、様々な健康に関わるリスクが生じたり高まったりします。そこで、そのリスクを評価し、参加者への注意喚起を促したり、予防措置や事象発生時の対応を準備したりすることは重要になります。

 2024年7月にはフランスのパリにおいて、オリンピック・パラリンピック大会が行われます。こういった MG イベントについては、開催地、渡航者、選手団など様々な対象を想定してリスクアセスメントが行われています。

 今回この記事では、ヨーロッパの疾病予防と管理の専門機関である ECDC が公表した、MG に向けての感染症のリスク評価(文書自体は保健当局者向けのものです)と、ユーロサッカーゲームを念頭に観戦者・渡航者を対象に発出されたパンフレットを参考に、MG における感染症リスクアセスメントの考え方も簡単に紹介したいと思います。

 パリ五輪やツールドフランス、サッカーなどの観戦に行かれるかたもいらっしゃると思いますし、参考にしていただければと思います。

●    Mass gatherings and infectious diseases, considerations for public health authorities in the EU/EEA

●    ECDC - Helping football fans stay safer this summer: new public health advice developed for spectators of UEFA European Championship

マスギャザリングとは

 マスギャザリング(MG)とは人が多く集まるイベントのことを指します。厳密な人数の定義はありませんが、様々な形態のものがあることはよく認知されています。WHO のキーコンシダレーション(Public health for mass gatherings: key considerations)という、MG について考えるべきことをまとめた文書があり、ここにもよくまとまっています。

 先に述べたように、オリンピックやサッカーのワールドカップは国際的 MG の代表的なものであり、音楽のフェスや大規模コンサートは国内 MG の代表例ですね。スポーツやエンタメ以外にも、メッカ巡礼(ハッジ)や新年の初詣など宗教的行事 MG もあります。

 MG では人が同じ場所に集まりますので、さまざまな健康関係のリスクが生じたり上昇したりします。事故が起こる可能性もありますし、集合地域での自然災害やテロもあり得ますよね。人が集まるので感染症が持ち込まれてひろがる可能性もありますし、食中毒の問題が起こることもあります(過去の事例は文書にも記されていて、これまでのオリンピックでは呼吸器疾患や感染性胃腸炎、COVID-19 、フェスティバルでの髄膜炎菌感染症などが挙げられています)。

 MG では様々なリスクがあるため、リスクを評価して備え、注意して、そしてイベントを楽しむ、充実させることが必要になります。そのために、世界中の保健当局ではリスク評価(リスクアセスメント、Risk assessment)が行われ、公表されています(あまり宣伝がうまくいっていなくて広がっていないという問題はありますね)。

リスク評価とは

 リスク評価は、どのようなリスクがどの程度あるか、といったことをあらかじめ挙げてよく検討し、問題点を抽出し、備えるための行為です。ビジネスにおいても重要ですね。健康関連のリスク評価については、WHO の出している文書にも詳しいです(Rapid risk assessment of acute public health events、この文書はなにか事象が起こった際の対応の文脈が主体なので、あらかじめしておくリスク評価とは少し観点はずれています)。

 リスクというのは、実際に害を及ぼす事象(感染症、テロ行為、自然災害など)=ハザード(Hazard)と、それに影響される人、それが起こる背景に分けて評価することができます。また一方、リスクは、それが起こりうる可能性と、起こった場合の重大さ(インパクト・コンシークエンス)に分けて評価することも可能です。リスクを、構成する要素などに分解し、重み付けを加味して評価していくわけですね。

オールハザードアプローチ

 人に害をなす事象、ハザードにはいろいろなものがあります。またまた WHO の文書(Emergency response framework (‎ERF)‎, Edition 2.1)によい情報があります。付録部分にあるのですが、起こりうるハザードを系統的に、網羅的に分けて考えることが重要です。

 つまり、まず、ハザードを自然災害と人災(人の行為によるもの)にわけます。自然災害には火山活動、水害、地震なども含まれますし、感染症の流行も入ります。人の行為によるものはテロ・戦争はもちろん、バイオテロなども含まれることになります。

 このように、あらゆるハザードをしっかり認識し、リスク評価し、対処していくことをオールハザードアプローチといいます。

感染症のリスク評価

 さて、オールハザードアプローチは大事ですが、膨大な検討をすることになりますので、多くのリスク評価はハザードのまとまりを意識してなされていることが多いですね。今回は感染症リスクを主体としてなされている文書を参考に解説するのでした。

 実は国立感染症研究所もホームページ上で、「大規模イベントと感染症」として、リスク評価を行った結果を公表しています。直近では東京五輪、大阪万博にむけて、の評価があります。

 MG イベントにおいての感染症リスク評価については対象者や目的などによってさまざまな考え方ができます。対象者として、渡航・観戦者、選手団・報道関係者、主催者、イベントそのもの、開催地域の住民、渡航者が戻ってくる地域…などが考えられますし、リスクもイベント中に起こるもの、イベント終了後に引き続くものなどがありますよね。

 今回紹介する文書類は渡航者・観戦者・観光者を対象として、健康リスクを警告するための評価であるといえるでしょう。

 ではここからは文書に関わる内容のうち一部をみていきます。以下の二つですね。

●    Mass gatherings and infectious diseases, considerations for public health authorities in the EU/EEA

●    ECDC - Helping football fans stay safer this summer: new public health advice developed for spectators of UEFA European Championship

いずれの文書も感染症を中心とする健康リスク評価を行った上で推奨を出しているものですが、一つ一つのハザードを個別に挙げ連ねて評価するというよりは、いくつかのカテゴリー・グループにあげて考えていることが多いですね。

 感染症といっても病気はいろいろあります。そこで、グループごとに概要を見てみたいと思います。

ワクチンで防げる疾患

 紹介している文書もそうですし、それとは別に、アメリカのCDCも旅行者への注意・勧告ページにおいてもさまざまな感染症を含む健康関連の情報を提供しています。フランスのページに行くと、2024年7月現在、パリ五輪向けの情報提供も行われています。

CDCホームページ

 その筆頭で紹介されているのが、ワクチンで防げる疾患(Vaccine preventable diseases; VPD)というものです。これは読んだままのもので、ワクチンを打てば防げる疾患なので、ワクチンを打ちましょう、ということですね。

 世界各国で子どもころから定期接種のようにルーチンで打たれているワクチンがありますが、渡航先に応じて、オプションで打てるワクチンなども推奨するのが一般的になっています。アメリカCDCの上記のページでは、ルーチンである水痘・帯状疱疹、ジフテリア・破傷風・百日咳、麻疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・風疹、インフルエンザ、ポリオの他、COVID-19、A型・B型肝炎、麻疹単独、狂犬病、ダニ媒介性脳炎(後述)について触れられています。

 VPD はワクチンさえ打てばリスクを下げられますので、打つことをしっかり推奨する、というのが世界の保健当局の一般的な姿勢になっていますね。 今回紹介している2つの文書においても、しっかり紹介されています。

 感染症のリスクを下げるには予防が一番。予防といえばワクチン。これは世界共通認識であり、最も重要なことなんですね。

伝播性が高いもの

 「うつりやすい」病気も問題になります。特に呼吸器感染症や髄膜炎菌感染症などは有名どころですね。 

 麻疹は COVID-19 とは違い、空気感染を非常によく起こすウイルス性感染症であり、注意が必要です。ただ、これは VPD ですのでワクチンが重要になります。同じく VPD の百日咳も今ヨーロッパで大流行しており、特に子どもではワクチンの確認が重要ですね。

 髄膜炎菌感染症は、寮生活などが典型になるように、非常にうつりやすい、といえます。発症すると進行が早く、重症化しやすいこともあり、ワクチン接種を行うことは推奨されます。ただ、すべてのタイプについてワクチンがあるわけではありません。

 伝播性が高い感染症については、ワクチンで防げるもの以外は、マスク着用や人混みをできるだけ回避するなどの工夫も重要になってくるでしょう。

流行が起こっているもの、地域性があるもの

 MG が行われる地域において流行のある疾患、も重要です。日本にいれば一般的ではない、とか、ワクチンは打たないとか、日本ではリスクがほぼない(狂犬病など)ものもありますね。

 フランスにおいては、百日咳、伝染性紅斑(パルボウイルス感染症)RSウイルス、COVID-19 、デング熱などが多く見られるほか、日本ではほぼみられないダニ媒介性脳炎や、ハンタウイルス感染症などもあります。その国の感染症の流行状況を把握することが大切であるといえます。その意味では、COVID-19 も重要ですね。

発症すると大きな影響があるもの

 発症すると大きな流行につながるものや、個人の予後もよくない(重症化、後遺症、死亡など)ものも重要です。めったに起こらなかったとしても、結果が重大ということですね。

 バイオテロで懸念される天然痘、炭疽などもありますし、中東地域ではやっている MERS、またアフリカなどからはウイルス性出血熱(エボラ、マールブルグなど)もあり得ますので、考慮しておく必要はあります。

イベント特有の状態や行動変化に関わる

 イベントが行われますと、露天商などの出す食品も多くなります。感染性胃腸炎・食中毒・大腸菌感染症なども起こりますし、水の汚染で起こる疾患、空調などの問題でレジオネラ感染が起こることもあり得ます。人が多いと結核なども問題なりますね。人が密になるということ、世界中からあつまる、ということの特性は特殊であることを認識しないといけません。

 また、イベント特有の空気もあり、行動が変わることがあります。具体的には、無理してはしゃいでしまう、飲み過ぎてしまう、性的な行動を含め羽目をはずしてしまう、そういったことでリスクが起こったり上昇したりするケースです。

 筆頭は、性感染症です。HIV感染、梅毒、淋病、クラミジア感染症、エムポックス(旧サル痘)、性病性肉芽腫症、B・C型肝炎など…があります。これらはコンドーム使用などを含む安全な性的行動でリスクを下げられるものもあります。どういった予防法が可能であるか確認をしておきましょう。

 そして体調不良が生じたら、しっかり受診すること。その際に、渡航したこと、渡航先、どういった行動をしたかをしっかり医療従事者に伝えることが重要です。それをもとに、どういった病気が考えられるか考えますからね(鑑別診断といいます)。

 このように、感染症のリスクは MG で上昇しえます。まとめてしまえば、流行状況を調べて勧告に従い、ワクチン接種、一般予防、飲食の注意、そして性行動を含む人との接触時の注意を守ること、そして症状が出た場合には渡航歴を含めしっかり受診することが重要ですね。

感染症以外の健康リスク

 さて、最初の方にオールハザードアプローチの話を書きました。感染症ばかりに目をとられていてはいけませんね。安全に楽しむために、これらの文書でも以下のようなものも注意されていたりします。

・ 熱中症と紫外線。しっかり対策しましょう 

・アルコール、たばこ、大麻(ドラッグも?)これらの問題も大きいですね。

・事故。交通事故だけでなく、将棋倒しなどもあり得ますので注意は必要です。

 そして、緊急時のアクセス先も紹介されています。観戦などに旅行される方は、連絡先やいざというときに駆け込む場所の調べ、確認はしておくとより安心でしょう。

まとめ - リスクを知って備えた上で、安全にイベントを楽しみましょう

 今回は、MG における感染症リスク評価について簡単に紹介しつつ、パリ五輪などにむけての海外の実際の評価による文書を紹介しました。リスクアセスメントはリスクと向き合うために大変重要であり、アセスメントに基づいた対策、準備が重要ですね。

 MG を楽しみ充実したものにするためにも、リスクアセスメントなどに基づく注意を知った上で、しっかり対策をして備えたいものです。

 このトピックスでは、健康や医療・医学に関する情報を、できるだけわかりやすく、正確な情報とともにお届けすることを主眼としています。

 最後に宣伝です、このたび、新刊を出版しました。健康にかかわることを簡単にまとめています。是非お手にとっていただきたく存じます。

 このトピックの他、theLetter、ヤフーエキスパート、ブログなどでも記事を書いています(リンクツリー)ので、興味があればご覧いただけますと幸いです。いつでもネタや質問を募集中です(このリンク先のマシュマロまたは問い合わせフォームにお願いいたします)。

 今後も感染症や健康・医療・医学の話題を中心に書いていきたいと考えています。記事を気に入っていただけましたら SNS などでシェアをしていただけますと幸いです。

参考資料

1.        ECDC - Mass gatherings and infectious diseases, considerations for public health authorities in the EU/EEA

2.        ECDC - Helping football fans stay safer this summer: new public health advice developed for spectators of UEFA European Championship 

3.        US CDC Travelers' Health

4.        WHO Public health for mass gatherings: key considerations

5.        WHO Emergency response framework (‎ERF)‎, Edition 2.1

6. 国立感染症研究所 大規模イベント


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