その予算、“費用”か? “投資”か? 施策を成功させる『売上の地図』を描こう

2024/4/24
実践第一主義のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、2024年6月15日(土)から「『売上の地図』構築ブートキャンプ」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、株式会社トライバルメディアハウスの池田紀行氏。
大手企業300社以上の広報や販売促進を支援した実績を持ち、3万人以上のマーケター育成を手掛けてきたプロフェッショナルです。
開講に先立ち、池田氏の著書『売上の地図』(日経BP)より、マーケティングの本質に繋がる考え方を抜粋してお届けします。
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その「問い」に意味はあるか?

「で、それやったらどれだけ売れるの?」
新しいマーケティングのアイデアに接したとき、こう発言しがちな人もいるのではないでしょうか。
この問いは企業活動の中で常に求められることでありながら、「この施策で絶対に、これだけ売れます!」と言い切ることはほぼ不可能です。
良い製品をつくって配荷率を拡大しても、競合がそれ以上の経営資源を投下して市場環境が厳しくなれば、思うような売上をあげることはできません。当然、景気や天気、気温や湿度などのコントロールできない要因からも影響を受けます。
売上は多くの変数に左右されるものです。しかし、広告・PR業界では「プロモーションが良かったから売れた」「広告がイマイチだから売れなかった」と判断しがちです。
もちろん、マーケティング業務に携わる人は、売上から逃げてはいけません。すべての仕事は「売上と利益」に繋がります。
しかし、ひとりの人やひとつのチーム、個別の施策だけで売上をあげることなど、本当にできるのでしょうか。ひとつの商品が世に出て、売上をあげるまでには、調査、商品企画・設計・開発・製造、営業(配荷)、広告、PR、販促、イベント、デジタル施策など様々な活動が多重構造的に効果を発揮しているはずです。
こう考えると、「で、それやったら売れるの?」という質問が、僕にはとても空虚に感じるのです。

売上は原因特定解像度が低い指標

売上を作る要因は多岐にわたるため、「原因特定解像度」が低いと言われています。
「原因特定解像度」とは、成功や失敗の要因をどれだけ明確に特定できるかを示す指標です。売上は景気の循環や地球温暖化と同じで、多くの要因が複合的に折り重なってできています。
広告が良くても商品がイマイチならリピート購入は起こらないし、商品が良くても企業の総合的なイメージが悪ければ思うように売れないでしょう。
売上に影響を与える変数は宣伝部の仕事、ここからは広報部、事業部と、明確に切り分けられるものだけではありません。すべて相互に関連しているのです。

その指標は、あなたの努力で上げられるのか?

ある飲料メーカーが新製品を出したとします。消費者は、「一度飲んだけどおいしくなかったからもう買わない」と言っています。このとき、宣伝部や広報部だけの力で、この課題を解決することは難しいですよね。おいしくないんですから。
買う前に買いたいと思わせる力(=Concept)と、買ったあとにまた買いたいと思わせる力(=Performance)は違います。
この状態を改善することができるのは、味(=Performance)に直接手を入れることができる部署だけです。
しかし、多くの企業はトライアルもリピートも同一の「売上」として扱い、各事業部や部門に責任を持たせようとしてしまう。これが不幸の根本にあるものです。

目的に応じた適切な施策を

各手法をポジショニングマップで見てみましょう。縦軸は広さと深さです。多くの人に知ってもらいたい場合は、いまでもテレビCMが強いです。顧客との関係を深める場合は、CRMの方が得意ですよね。
大切なのは横軸です。左が収穫、右が種まきです。
「収穫」とは、顕在化したニーズを、短期的・効率的に獲得をするのが得意な施策です。
たとえばあなたの家の掃除機が故障したとします。潜在顧客だったあなたは、故障というトリガーによって一瞬で顕在顧客になります。そして検索行動に向かいます。
だから、「いま私は掃除機に興味がある」というプレートを持って近寄ってくる顕在顧客に声をかけるGoogleやYahoo!のリスティング広告は、顧客獲得効率が高いのです。
一方「種まき」とは、潜在顧客の中長期的育成が得意な施策です。需要が顕在化したときに自分のブランドを思い出してもらう状況を作り、未来の売上につなげます。
掃除機が故障した際、「掃除機 売れ筋」と検索せず、「ダイソン」とブランドを指名して検索することがあります。その場合、競合の製品に触れることなくダイソンの情報に到達します。
これは、「ダイソン」が顧客の想起集合(想起するブランド群)に入っており、なおかつ第一想起だったために行われる「指名検索」です。さまざまな施策が折り重なり、想起集合かつ第一位選択のポジションを獲得したわけです。
種まきの施策は、効果が出るまでに時間がかかりますが、長い期間持続します。

「種まき施策」で追うべき指標

種まきの施策は、半年以上の時間をかけて大きな果実をつける施策です。一方、収穫の施策は短期的な成果に直結しやすく、指標が機械的に測定可能なため、説明責任も果たしやすいことが特徴です。
そのため、多くの企業が収穫施策にマーケティング予算を投じ、その結果、ブランドの想起率が下がり、ブランド指名の検索数が減少する課題が出てきています。
ブランド指名検索ではない一般検索を入口とした競争は、競合と一斉に顧客を奪い合う、熾烈な闘いとなります。これが、企業が未来の顧客を抱えられない問題に繋がっています。
手法や施策が違う場合は、見るべき指標も異なります。
収穫の施策では、幅広いニーズに訴求する「広さ」を重視するなら測定指標はCPMですし、顧客ごとに売り上げを伸ばす「深さ」を測るならLTVとなります。顕在ニーズの短期的・効率的な獲得を目指すならCPCやCPAが最適な測定指標でしょう。
問題なのが種まきの施策です。ここの測定が難しい理由は、半自動的・機械的なデータ取得ができないからです。
種まき施策は、「いつか買うならXXを買いたい」という気持ちを醸成する施策です。気持ちを醸成する施策を、行動を示す指標で測定することは不可能です。この領域は、行動変容ではなく、意識・態度変容指標で測定すべきなのです。
意識や態度の変容を測る指標は、想起率、好意度、購入意向の3点が代表的です。これらは、アンケート調査で取得することが一般的です。しかし、アンケート調査には時間もお金もかかるため、多くの企業で未着手になりがちです。

効果測定に欠かせない「費用」と「投資」の観点

マーケティング施策の効果を正しく測定するためには、費用と投資を分けて考える必要があります。
ROCはReturn on Cost=費用対効果、ROIはReturn on Investment=投資対効果を指します。
今年度中に投下した予算を全額回収できる施策は、費用としてROCで測定すべきです。チラシやダイレクトメール、リスティング広告等の施策が該当します。
一方、ブランディング広告やPR、SNS運用などの施策は、今年度に投下した予算を全額回収できない投資として、ROIを測定するのが良いでしょう。
さて、ここで1枚の写真をご覧ください。
(写真:spirit048 / gettyimages)
何を想像しましたか? 「この~樹なんの樹、気になる樹~♫」というメロディと「日立」を思い浮かべた人が多いのではないでしょうか。この大きな樹木から、日立は信頼できる、真面目である、などのイメージが想起されるはずです。
仮にこのCMが流れなくなったとしても、CMによってつくられたイメージはすぐにはなくなりません。これが、「投資」のマーケティング施策です。
費用と投資は、どちらが良いという話ではなく、役割が違うのです。企業やブランドが抱えている課題に応じて、限られた予算を最適に分配し、それぞれを違う指標で測定すべきです。
ちなみに、費用と投資の分け方は簡単です。予算をかけなければ、すぐに効果がなくなるものは費用です。一方の投資は、予算を投じない期間があっても、効果が一定期間持続するものです。

単体の施策で評価しない。全体を踏まえた議論を

今年度の売上の大部分は、前年度までの資産によってつくられていると僕は考えています。そのためロングセラー商品は、仮に今年度の宣伝予算をゼロにしても、売上はゼロになりません。これまでの種まきの積み重ねで、ブランド力を有しているためです。
マーケティング効果の検証は出口の見えない深い森のようなものです。この深い森の歩き方は、「共通認識」と「共通言語」による「正しい議論」がポイントです。
ここでいう「正しい議論」を阻む要因としては、
・縦割り文化
・施策単位のKPIでの評価
・短期的に結果が出る収穫への偏重
などがあげられます。
各担当者がそれぞれの施策に全力で取り組んだとしても、単体施策の評価で売上のすべてを説明することはできません。さらに各施策のKPIが異なる場合、どの施策がより効果的だったのか、検証することは困難です。
売上の構造全体を整理し、各施策の結果を個別に評価した上で、初めてマーケティング施策全体の効果を評価できるようになります。

売上の因果構造を明らかにし、共通理解をつくろう

宣伝部や商品企画部など、部署の垣根をこえて関係者全員が視点を共有できる地図のようなものを作ることで、同じ目線で、同じ条件からの議論が可能になります。
地図に盛り込むべき項目は、
・客単価や購買頻度、LTV
・新規での売上なのか、リピートの売上なのか
・数多ある施策のKPIはどのようなKGIに繋がり、売上に向かっているのか
などが挙げられます。
様々な要素を勘案し、売上に対する変数を明らかにする必要があります。この作業を正しく行うためにはかなりの時間がかかりますが、一度全体の地図を描けば、その後は適宜アップデートをしながら使い続けることができる「資産」になります。
私たちと一緒に、この課題に向き合いませんか。
NewsPicks NewSchoolにて、売上の因果構造を明らかにするブートキャンプを開催いたします。
説明会を実施しますので、ご興味のある方はお気軽にご参加ください!
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