(ブルームバーグ): 日本銀行は、都心を中心に価格が高騰している商業用不動産市場に関し、金融機関の不動産向けエクスポージャーが拡大する中では、都市圏に限定された局所的な不動産ショックでも全国の幅広い金融機関に影響を及び得ると警鐘を鳴らした。金融システムリポートを18日公表した。

リポートでは日本の商業用不動産市場について、全国の「商業用不動産価格・賃料比率」が2007年の不動産ミニバブル期の水準を上回っていると分析。特に都心の商業地区では局所的に高額帯の取引が増えており、「⼀部に割⾼感がうかがわれる」としている。

金融機関による不動産関連のエクスポージャーは貸し出しと有価証券投資の双方で増加し、不動産業向け貸し出しの対国内総生産(GDP)比率は約50%と過去最高水準まで拡大していると指摘。商業用不動産市場が調整局面入りした場合は、「⾦融システムに広く影響することが考えられる」との見解を示した。

日本の金融システムの現状は「全体として安定性を維持している」との評価を据え置いた。日銀は25、26日に開く金融政策決定会合で新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)について議論し、金融面の不均衡なども点検する。不動産向け投融資は拡大しているが、金融システム全体のリスク認識に大きな変化はなさそうだ。

ストレステスト

不動産の取引市場では、取得に積極的だった海外投資家が売り越しに転じる変化が観測されており、リポートでは、海外市場の調整を契機に都市圏の商業用不動産価格が局所的に調整することを想定したストレステストを実施した。米欧の商業用不動産市場は、既に調整局面に入っている。

結果は、海外ファンドの投げ売りをきっかけに三大都市(東京、愛知、大阪)のオフィス市況が大きく悪化しても、「⾦融機関の経済損失は、マクロ的には限定的」となった。ただ、多くの金融機関が不動産関連の投融資を行う中、「信⽤コストと評価損の双⽅から、⼤きめの経済損失を被る先が少なくない」と分析。相応の経済損失を被る⾦融機関の割合は、06年の4割に対し、現在は8割に拡大しているという。

日銀は3月会合で17年ぶりの利上げを決めた。リポートでは、日本の金融機関は円金利リスクに「⾒合った損失吸収⼒を備えている」と評価。金融機関は有価証券ポートフォリオのリバランスを進めており、「⾦利上昇に対する⾦融機関の耐性は改善傾向にある」としている。

日銀は4月と10月に、広範な分析を基に金融システムの現状と展望をまとめた同リポートを公表している。

他のポイント

  • 日本の⾦融機関はさまざまなストレスに耐え得る充実した資本基盤と安定的な資⾦調達基盤を有している
  • 現在の金融活動に大きな不均衡は認められない、株価に過熱を示す「赤」が点灯-ヒートマップ
  • 多くの企業、高い借入金利でも負担に耐え得る収益を確保

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