2024/4/17

不平不満が出る「いい職場」とは…リーダーが持つべき4つの意識

社会医療法人敬愛会ちばなクリニック 健康管理センター 医長
これまで、ネコ派かイヌ派か、あるいは、より具体的に職場で飼うならどちらがいいか、というような議論を教材に、複数の意見がある問題に同時に取り組むグループ面接について説明してきました。

しかしながら、皆さまの職場で行われるディスカッションは、より高度な内容であろうかと思います。そのような高度な内容の議論の場では、どのように「動機づけ面接」を生かすことができるのでしょうか。
INDEX
  • リーダーシップとはなにか
  • 反対意見もパージされない安心感
  • コミュニケーションは「共有する」こと
  • 「PACE」を意識した会話
(写真:Tomwang112 / gettyimages)
ここまでの解説は、テーマこそ「イヌかネコか」という他愛のないものを選択してきましたが、読者の皆さまの立ち位置として想定していたのは、会議の一参加者ではなく、司会やファシリテーターという立場でした。言葉をかえれば、その場を仕切るリーダーとしての役割を、平易なテーマを用いて担っていただいていたわけです。
ここで、会議におけるリーダーとはなにか、リーダーに求められる役割とはなにかを、動機づけ面接の視点から論じておきたいと思います。

リーダーシップとはなにか

リーダーシップとはなにか、という議論はこれまでにも数多く行われています。その議論の数だけ、さまざまな解釈がありますが、一般的には、目標達成のための組織運営、人心掌握、ビジョンの提示と伝達、メンバーの誘導、動機づけとその維持、といった要素が挙げられるかと思います。
そのなかで動機づけ面接が効果的に使用できる場面として、以下のような点が挙げられます。
1. 目標を設定すること
2. 組織の連携を高めること
3. 各メンバー個人の成長をサポートすること
これらの点は、イヌ・ネコを材料にこれまで説明してきた通りです。しかしながら、もっとも動機づけ面接らしい点は、と言われれば、これを挙げることになります。
4. エンゲージングを保つこと
すなわち、議論の場にメンバーの心身をつなぎ留めておくこと、コミュニケーションをとり続けることではないかと思います。
(写真:tadamichi / gettyimages)

反対意見もパージされない安心感

エンゲージングが保たれる、というのは、どういうことでしょうか。
会議という場でいえば、反対意見を出してもパージされないという安心感が与えられていることがその一例です。反対意見を封印されてしまうような会議では誰も反対意見を出さなくなってしまいます。
もっと範囲を広げると、職場に対する不平や不満が伝えられてくる職場もエンゲージングが保たれていると言えます。
不平や不満はないに越したことはありませんが、複数の人が存在する場においては、全員がすべてにおいて満足するというようなことはありえません。ある人の利益は別のある人の不利益になりかねないですし、ある人への配慮は別のある人へのしわ寄せになりえます。
(写真:takasuu / gettyimages)
ところが、反対意見や、職場への不平不満は言うべきではない、という雰囲気に支配されてしまっていると、改善への提案も封印されてしまいます。その結果、不良な結果への責任は発言者に集約されることになり、表出されない不平不満は、忠誠心の低下、パフォーマンスの悪化、ひいては退職などにつながります。

コミュニケーションは「共有する」こと

反対意見や不平不満のような“陰性”といわれる感情であっても、表出してもらえれば、それを共有することができます。この共有することこそがコミュニケーション(communication)の本質です。
そもそもコミュニケーションはラテン語で共有を意味するコミュニス(communis)が語源とされており、情報や意思や価値観を共有することを意味するとされています。一緒に空間を共有したり、飲食をともにしたりすることもまたコミュニケーションではありますが、それだけにとどまる概念ではないのです。
(写真:maroke / gettyimages)
本稿で繰り返し述べている通り、ヒトは他人の考えを共有する能力を持ち合わせていません。親子きょうだいであったとしても、表出されない感情を正確に察することはできません。そこで会話という手段を用いて、お互いの考えや感情を伝える必要に迫られます。会話をせずに思考を共有することは、ヒトという動物の能力の限界を超えているのです。

「PACE」を意識した会話

情報や意識を共有するためには、言葉による意思疎通が不可欠です。
そして、これもまたヤヤコシイ話ですが、お互いが「必ずしも自分の発話が相手の理解につながるわけではない、相手の発話が必ずしも正確に自分に理解ができるわけではない」と認識しておく必要がある点にも注意が必要です。
だからこそ、動機づけ面接の4つのスピリッツ、PACE(P:Partnershipパートナーシップ、A:Acceptance受容、C:Compassionコンパッション、E:Engagingエンゲージング)を意識した会話が必要になります。
すなわち、以下の4点ということになるのです。
P:自分には自分なりの専門性があるように相手には相手なりの専門性があることを優劣をつけずに受け入れること
A:相手がもつ自律性や価値観を尊重すること
C:自己の幸福のみを追求するのではなく相手の幸福の追求にも関心をもつこと
E:相手の動機を有効に引き出すこと
清水隆裕(しみず・たかひろ) 医師、労働衛生コンサルタント、公認心理師、動機づけ面接トレーナー。社会医療法人敬愛会ちばなクリニック(沖縄市)健康管理センター医長。沖縄産業保健総合支援センター相談員、沖縄大学客員教授。著書に『外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法ー動機づけ面接入門編』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)。