混乱なき政策転換に手腕、利上げでのぞく勝負師の顔-植田日銀1年
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3月の金融政策決定会合で何が決まるか、殆どすべてが事前に分かっているという極めて異例な状況を作り上げて「歴史的な大規模緩和の幕引きを混乱なく成功させた手腕」というのは正にその通りだろうと思います。その反面、事前の“リーク”が利きすぎたがゆえか、購買力を考えれば90円台から100円台であって然るべきドル円相場が150円を超えて毀損されている状態は全く変わらぬどころか寧ろ円安に動き、イールドカーブもYCCの撤廃前後で全く変わりませんでした。
実態的な資金需要が強くない中で日銀がジャブジャブに余らせて溜まったカネを日銀に預けたらマイナス金利を取られるがゆえマイナス0.1%よりましなマイナス金利で無担保コール市場に出していた銀行等は、0.1%のプラス金利で日銀に預けることも0.07~0.08%程度のプラス金利で無担保コール市場にも出せるようになって、つまり政策金利が若干のプラスになって経営上楽になりましたが、この程度の変化では変動金利ローンの基準になる短期プライムレートは変化せず、普通預金金利が0.001%から0.02%程度に上がり10年物定期預金金利が0.02%程度から0.03%程度に上がっても、民間の受取利息の増加が経済に与える影響も限られます。つまり、今回の政策修正は異端とされた異常な政策手段を形の上で止める上で大きな意味がありますが、実体経済に及ぼす影響は殆どなかったと見て良いように感じます。
賃金と物価の好循環が見えたと日銀は主張していますけど、昨年の賃上げはその前年のインフレを吸収するに追いつかず、今年の賃上げが大幅といっても昨年の物価上昇分を取り戻し、一昨年のインフレに追いつかなかった昨年の賃上げ分の一部を取り戻すに留まって、インフレを追っかけて名目賃金が遅ればせに上がっているに過ぎません。生産性の向上を伴う賃金と物価の好循環が真に始まったかどうかは疑問です。
長く続いた異常な金融緩和とそれを利して進んだ財政拡張で日本経済の背後には、金利の上昇に耐えられない構図が出来上がっています。そのリスクを表面化させることなく、異常な円安とそれに起因するインフレで急落した日本と日本国民の購買力を元に戻し、日本経済を息の長い成長軌道に乗せることはできるのか。真に金融政策を正常化できるか否か、すべては今後の動きに掛かっているような気がします。