2024/4/19

【アクセンチュア】生成AI時代のコンサルに求められること

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
いまやあらゆる産業で変革を担う牽引役とされる「生成AI」。
金融や保険、消費財、製造業、ヘルスケア、エネルギー、物流まで、さまざまな産業でAIを活用した事業変革が加速している。一方で、PoC(概念実証)を実施していながら、具体的な活用や成果創出までに至らないなどAI変革の壁に苦戦する企業も少なくない。
そんななか、大規模な事業変革から新規事業開発まで、あらゆる領域のAI変革支援を手がけるのがアクセンチュアだ。同社は関西電力などと合弁会社(ジョイントベンチャー:JV)を立ち上げるなど、自らもリスクを取りながら「PoC止まり」では終わらない抜本的な変革支援に注力している。 
アクセンチュアの日本法人でAI戦略を主導する同社執行役員 データ&AIグループ日本統括 保科 学世氏と、関西電力との合弁会社「K4 Digital(ケイフォー デジタル)」に参画するシニア・マネジャー 吉田 瞬氏に、AI変革の壁をこえる方法と同社で変革支援する仕事の醍醐味について話を聞いた。
INDEX
  • AI変革を阻む「5つの壁」
  • PoCは技術検証だけではない、インパクトを数字で示せ
  • 関西電力と合弁会社を共同設立
  • 変革の波にのまれる側か、波を創造する側か

AI変革を阻む「5つの壁」

──アクセンチュアのデータ&AIグループ日本統括を務める保科さんは、AIを活用した事業開発や変革を阻む壁にはどのようなものがあると考えていますか。
保科 AIは企業成長の強力なエンジンとなる──。これはNewsPicksの読者のみなさんなら、すでに共通の認識としてお持ちだと思います。
 しかし残念ながら、AIを最大限に活用するための土壌が整っている企業はまだそう多くないのが現状です。
 ではなぜ日本企業のAI活用は進まないのか。そこには、「5つの壁」が存在すると考えています。
 まず一つ目が、「データ活用の壁」です。AIが価値を発揮するにはデータが必要になりますが、それがそもそも十分に蓄積・管理されていなかったり、またはデータが使える状態になかったりするケースが多くみられます。
 二つ目に、「基幹システムとの融合の壁」です。PoCを終えてAIモデルが完成しても、実際の業務に活用するには日常的に使うシステムにAIを組み込む必要があります。
 しかしAIのモデルと基幹システムの構築アプローチはまったく異なるため、うまく融合させることができず、活用フェーズに進めないのです。
 そしてこの二つの壁を突破できたとしても、第三の「業務改革の壁」が立ちはだかります。
 せっかく業務に活用できる基盤が整っても、勘と経験に頼った仕事を続けていては意味がない。属人的だった業務でAIが価値を発揮するには、一部の業務を自動化するのではなく業務全体を再設計し、AIの活用を前提として最適化する必要があります。
 四つ目が、「人材の壁」です。ここまで説明した三つの壁を突破できるような人材は、そもそもきわめて希少で、育成にも時間がかかります。
 最後の五つ目は、「経営の壁」です。AIはどんなことでも可能にする魔法の杖ではありませんが、かといってむやみに怖がる対象でもありません。
 AI活用を進めるには、経営陣がメリットとリスクを正しく理解したうえでの経営判断とリードする姿勢が必要です。経営層が十分なリテラシーを持ってコミットできないようであれば、AIによる変革は理想とは程遠い姿になってしまいます。

PoCは技術検証だけではない、インパクトを数字で示せ

──これらの壁を突破してAI変革を成功させるには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。
保科 AI活用というと、現場レベルで人が担う仕事をいかに自動化するかという狭い視点に陥りがちです。
 しかし本来は自社の最終的なゴールは何かを改めて問い直し、目指すべき“あるべき姿”を描くことからスタートすることが大切です。
 たとえばサービス業であれば、どんな顧客体験をユーザーに提供していきたいのか。それを描いたうえで、AIをシステム全体に落としこみ、そのビジョンを実現させる業務を設計・改善するアプローチが求められます。
 またPoCは実現可能性や技術検証の側面から重要ではありますが、どれだけの効果を見込めるかを具体的に試算するのが大事になると考えています。
 たとえ10億円の予算が必要でも、100億円の価値があることを示せれば、投資の価値があることを誰もが納得できる。それにより迅速な経営判断と新たな投資につなげることができます。
 そのためにも経営陣が課題だと考えていることや実現時のインパクトが大きいと思われる領域からスタートするのが有効です。
──AI変革の支援を担うコンサルには、どのような役割が求められていますか。
吉田 AIは最初から完成形を作るのではなく、「進化」を前提に考える必要があります。
 社会の変化に適切な対応をできなければ、モデルの性能はどんどん落ちてしまう。
 そのためシステム面だけでなく人材育成や環境・業務面でも、変化があることを前提に設計する。そしてデータを反映させながら、進化させる仕組みが必要になります。
 そこで経営層の壁打ち役になりながら、AIを活用した企業変革を実現するまでのロードマップを示す。そして進化を継続できる仕組みづくりとその定着までをサポートすることが、コンサルには求められています。
 状況分析から仮説設定とPoCの実施、システム構築と運用、そしてPDCAを回しながら改善を続けるサイクルを、顧客企業に適した形で提供する。そして自走できるまでの人材育成をトータルで支援することが、私たちの価値になると考えています。

関西電力と合弁会社を共同設立

──AIを活用した企業変革支援の事例についても教えていただけますか。
吉田 AIを活用した変革を推進するために、具体的にどのような組織・体制を構築すべきか。この段階でなかなか前に進まない企業は少なくありません。
 こうした“意欲はあるものの、エンジンがかからない”という企業の声に対するあくまでも解の一つではありますが、「ジョイントベンチャー(JV)」を設立した事例があります。
 2018年に、関西電力グループのDX推進を目的に、関西電力×アクセンチュアの共同出資で合弁会社(JV)「K4 Digital」を設立しました。
 設立の背景には、日本のエネルギー産業が直面する「5つのD」と呼ばれる大きな変化の潮流があります。
 それが「デジタル化(Digitalization)」、「脱炭素化(Decarbonization)」、「自由化・制度改革(Deregulation)」、「分散化(Decentralization)」、「人口減少・過疎化(Depopulation)」です。
 関西電力はデジタルの活用なくして、残りの4つのDに立ち向かえないという危機感を抱えているため、グループ全体のDXを牽引する高い専門性を持った組織体制を必要としていました。
 そこでアクセンチュアが有するデジタルとエネルギー領域における最先端の知見、また先端技術の実装・運用を主導するデジタル人材を豊富に擁している点などを評価いただき、JV設立という形で協働することになりました。
──具体的にはどのような取り組みを進めているのでしょうか。
吉田 各部門の最新のデジタル技術を活用して支援する組織として、以下のようなイメージで関西電力全体のDX推進を支援しています。
 グループ内のあらゆる事業部門に対して、制度設計や経営企画といった戦略策定、DXを支援するためのコンサルティング、AIをはじめとする先端テクノロジーの検証・実行、デジタル活用に不可欠なデータマネジメントやシステムインフラ構築までさまざまなサポートを行います。
 すでに実導入された事例としては、「流氷雪の自動検知プログラム」や「停電情報自動応答システム」といったインフラを担う現場でのAI活用のほか、「太陽光発電サービスの顧客分析」や「会計伝票登録作業の自動化」など、営業や管理部門でのDXも実現しました。こうした取り組みを通じて、関西電力グループ内でのDX人材の育成にも貢献しています。
 関西電力は2018年度から2023年度の期間で555件のPoCを実施しており、うち425件を実用化しています。
──多くのPoCを、具体的な成果につなげているのですね。
吉田 企業規模が大きくなると、意思決定や調整に時間がかかる傾向があります。しかし、関西電力のDXにかける不退転の覚悟と、JVという形での協働を通じて、多くのプロジェクトをアジャイルに進める土壌ができました。
 AIをはじめデジタル技術など専門性の高い領域は、現場と経営層の間でリテラシーの乖離が生じがちになります。しかし、経営層が積極的に現場に歩み寄ろうとすることで、個別にレクチャーを頼まれたり意見を求められたりする機会も数多くあります。
 経営層の懐刀的な役割を担いながら、現場と意思決定層との間に生じる乖離を地道に埋めていくことも、意思決定を加速するうえでコンサルタントの大切な役割だと考えています。

変革の波にのまれる側か、波を創造する側か

──現在、データ&AIグループでは積極採用中だと伺っています。K4 Digitalをはじめさまざまデジタル変革支援を手がけるアクセンチュアだからこそ得られる成長や仕事の醍醐味とは?
保科 世の中には戦略やシステム構築、人材教育など、さまざまな領域に長けた企業は数多くあります。
 しかし、当社は経営層と顔を突き合わせて戦略を描き、実際の業務変革のプランに落とし込んでシステムを刷新する。そして業務だけでなく人の働き方までを変えることを目指します。
 理想的な戦略を描くだけでなく、実行にこだわるのがアクセンチュアの特徴です。戦略をやり切るためには、場合によってはアウトソーシングで業務の一部を引き受けたり、一緒に会社を作ったりとさまざまな手法で支援を行う。
 こうした実行に対する解像度を高められる環境だからこそ、実現可能性が高い勝てる戦略を描く能力を身につけられるのは当社の魅力の一つです。
 しかも特定の業界や領域を超えるだけでなく、世界中の拠点や人と連携しながら実現する環境が用意されている。AI領域は不確実性が特に高い分野ではありますが、こうしたグローバルな環境下で走りながら解を探す作業が好きな人には、他では得られない面白さを感じてもらえると思います。
吉田 一般的には、大企業にいると自分ひとりの役割は小さく感じられますし、ベンチャーだと役割は大きくても社会へのインパクトが限定されてしまう。
 一方、アクセンチュアではK4 Digitalの事例のように、日本のインフラをDX化するという壮大なテーマに対して、経営層との方針決めから実行に落とし込むところまで携わることができる。PoCレベルのプロジェクトではなく、こうした大規模な変革を支援できるのは、とてもやりがいを感じています。
 その一方で、DXといってもシステムやデータとばかり向き合うわけではなく、組織をより良くするために幅広いレイヤーの人たちと関わり、時にはハードな交渉に挑む場面もあります。さまざまな部位の筋力が鍛えられているのを実感できるので、自分自身を賭ける価値のある環境だと感じています。
──最後に、データ&AIグループで活躍する人の共通点やアクセンチュアのカルチャーの魅力についても教えてください。
保科 データ&AIグループは時代の先頭を走ることが求められるため、次々と登場する新しい技術をいち早くキャッチアップすることが不可欠です。
 そして常に移り変わる技術を通じて企業変革を成し遂げるためにも、自分を柔軟に変える力を持つ人が活躍できる場所だと感じています。
吉田 私はこの会社の自由度の高さが、とても気に入っています。
 興味あるプロジェクトがあれば、どこの拠点にいても手を挙げることができる。もちろんそれには責任が伴い、結果を求められるので常に学び続ける必要がありますが、そのためのツールや機会も幅広く用意されています。
 私自身、関西出身なのでいずれ地元に帰りたいと思っていたところに、K4 Digitalの話が持ち上がり、真っ先に手を挙げて参画しました。
保科 いまAIという新しいテクノロジーが、社会を大きく変えようとしています。
 この大きな変革の波が押し寄せる瞬間に、変えられる側と、変革を進める側と、どちらにいたいでしょうか。私だったら大きな波に飲み込まれるより、波を創造する側にいるほうを選びますし、そのほうが間違いなく面白いと考えています。
 より良い未来が訪れるかどうかは波を生み出す側にかかっており、その責任は極めて重いわけですが、それができる人や組織は限られます。
 アクセンチュアは、その波を起こせる数少ない企業のひとつだと自負しています。ぜひその変化の波をともに創造したい方がいましたら、私たちの組織に興味を持ってもらえたらうれしく思います。