2024/4/23
【提言】日本企業は「フリーランス」の価値を正しく理解していない
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どの企業にも属さず、多様な働き方で企業に価値を提供する、フリーランス ── 。
近年、フリーランスが、企業の人材不足の問題を解決する選択肢として注目されている。
少子高齢化により労働人口全体のパイは減り続け、働き方改革の影響により、一人あたりの平均労働時間も減少。※1
どの業界も人手不足なのは、周知のとおりだ。
その中で、フリーランス人口は年々増加し、2020年時点で462万人(内閣官房。本業、副業の合計)となっている。※2
特にITエンジニアは、DX推進の時勢を受けてどの企業も喉から手が出るほど欲しがっているものの、慢性的な人手不足が長らく続いている。
にもかかわらず、まだ多くの企業がフリーランス活用を選択肢に入れていない。盲点になっているため機会損失してしまっているのだ。
先進的な企業では、正社員や契約・嘱託・派遣社員、パートタイマー、アルバイトなどに加えた採用の新たな選択肢として、フリーランス活用を積極的に行っている。
そんな中、エンジニアを中心としたITフリーランスと企業のマッチング事業「テックビズフリーランス」を展開し、業界事情にも詳しい株式会社テックビズ代表取締役の中島一樹氏に、企業がフリーランスを上手く活用する方法や、どんな企業と親和性が高いのかについて、詳しく聞いた。
※1厚生労働省『「毎月勤労統計調査」「就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移」』
※2内閣官房日本経済再生総合事務局『フリーランス実態調査結果』
企業のフリーランス活用が増えない理由
── 人手不足が叫ばれて久しいですが、なぜ多くの企業が未だフリーランス人材を活用しないのでしょうか?
中島 人手不足を感じている企業が増えているのは確かなのですが、多くの企業にはいまだにフリーランスを活用する発想自体ほとんどありません。
約462万人がフリーランスとして働いているにもかかわらず、フリーランス活用そのものが選択肢のひとつになっていないのです。企業にとって大きな機会損失で、課題だと感じています。
2022年時点で、 当社が得意とする国内ITエンジニアに限れば、4人に1人がフリーランス(※当社調べ)なんです。この可能性に目を向けないのは非常にもったいない。
従来の意思決定プロセスを変え、フリーランス活用を選択肢の一つにする。
そんな新しい視点を手に入れるだけでも、経営で最も大切な人材獲得をはじめとした事業運営にも変化が生まれるはずです。
── 多くの日本企業は、正社員を長期間雇用して育成する商習慣が続いてきました。その考え方に皆が縛られ過ぎているのでしょうか?
もちろん、フリーランス活用が100%良いとは私も思っていません。正社員雇用とフリーランス活用には、それぞれメリットとデメリットがあります。
フリーランス活用の最大のメリットは、即戦力である点です。そのため、緊急性の高い短期集中型プロジェクトに向いていると考えています。
特にベンチャー/スタートアップと親和性が高い。キャッシュが尽きないように売上を立て、あるいは上場に向けて短期間で成長する必要があるため、即戦力のフリーランスがはまりやすいと言えるでしょう。
また、ベンチャーはサービスの開発/改善を短期間で行うアジャイル開発を採用している企業が多いため、フリーランスとの相性が抜群です。
上場間際でプロダクトを早期にリリースしたい、アップデートを急ぎたいなどのケースでも、多くのご要望をいただきます。
一方で大企業の場合は、新規事業開発や新しい組織の立ち上げにご活用いただくケースが多いですね。
即戦力人材を柔軟に配置、新たな選択肢に
── 企業にとっては、柔軟に参画してもらえるのはありがたいですね。
フリーランスであればプロジェクト単位でチームに参画できるため、急な計画変更でもしプロジェクト自体が終了してしまっても、その時点でチームを解散することができます。
一方、正社員雇用の場合はプロジェクト終了後も、次のプロジェクトをキャリアに合わせて会社が用意する必要があります。この点は企業側にとって大きなメリットでしょう。
いずれにしても、正社員を数年かけて育成するよりも、即戦力になれるフリーランスを活用するケースが増加しています。
また、フリーランスの中にはさまざまなプロジェクトを経験している方も多くいます。
自社メンバーだけでは持ち得ないような複眼的な視点や異なる専門知識、あるいは他社での失敗・成功事例など、守秘義務に反しない範囲で共有してくれる点は、大きなメリットです。
── お話を伺っていると、フリーランス活用のメリットはとても大きいと感じました。なぜ活用が進まないのでしょうか。
先述の通りそもそも活用が選択肢に入っていないことに加えて、「入り口」が分からない企業の担当者が多いのだと思います。
正社員は労働基準法があり、派遣社員も派遣法があり、長い年月をかけて整備されてきた法律が定められています。
一方で、これまでフリーランスと一緒に仕事をする企業は限定的でしたし、今年やっとフリーランス新法が施行されるなど、法律が未整備な部分もたくさんあります。
そのため採用担当者にフリーランスを活用した前例がないので経験や知識もなく、マネジメントや活用の方法が分からないようです。
あるいは、トラブルになりやすい印象も持たれているのかもしれません。それであれば、既存メンバーだけでなんとかやり繰りしようと思考が働くのも理解できます。
フリーランス採用のコツは、入り口を分けないこと
── 企業によるフリーランス活用が進まない理由は、フリーランス側にもあるのでしょうか。
はい。大きく2つの理由があると思っています。
一つは、日常的に専門業務以外の仕事が多く、自分の専門領域に手が回らなくなる点です。
例えば、報酬の入金確認や契約書のチェック、営業活動、確定申告など、一人で何でもこなさなければなりません。
たとえスキルは高くても経理作業は素人だったりしますから、いつの間にかキャパオーバーになっていることに気づかず仕事を請けすぎて、クライアントの信用を失うケースも見受けられます。
もう一つは、専門領域の中でも得意な領域とそうではない領域をきちんと担当者に伝えられていないために、参画後のミスマッチが発生するというものです。
そうしたトラブルを防ぐためにも、企業側の担当者がフリーランスと対話をするときは、専門領域でも対応不可の部分を正直に話せるような信頼関係を築くことが大事で、できないことを明確に伝えてもらうコミュニケーションを取ったほうがいいでしょう。
── フリーランスを採用する際に、どのようなポイントに気をつければ良いのでしょうか?
あくまで当社のやり方ではあるのですが、正社員とフリーランスで採用基準を大きく分けないことがポイントです。
「外注先の人」「出入り業者」のような、外部の人間として距離を置いた見方をしてしまうと、やはり基準や見方自体も緩くなってしまいます。
切り出したタスクをとりあえずこなしてもらう意識でフリーランスを採用している企業が多いのですが、そうではなくあくまで自社の同じプロジェクトに携わる一員として採用することがコツ。
正社員採用の選考プロセスと同じように、自社のビジョンやパーパスに共感してくれているか、企業が大事にしている部分との相性度合いは事前に必ず確かめるべきです。
なぜなら、同じプロジェクトで同じ仕事をする人なのに、別々の採用基準で違う入り口から入ってきた人同士が仕事をすると、どうしてもトラブルになりやすいからですね。
そのため私は、正社員でもフリーランスでも採用の最終面談はすべて同席し、同じ基準で自社とのマッチング度合いを見極めます。
この方法はよく驚かれますが、採用の入り口を分けないことが、フリーランスを採用する上でのポイントだと思います。
専任コンサルタントが人材ミスマッチを防ぐ
── 人材業界に、特有の問題はあるのでしょうか。
質より量を追うことで、双方のミスマッチが起こってしまうことです。
フリーランスに限らず、正社員採用のエージェントなども同じ問題があります。
量を追えば売上は一時的に上がるかもしれませんが、質が担保されていなければ長期的には企業とエージェントとの信頼関係が崩れていきます。
フリーランスだって、勝手にゴリ押しでマッチングさせられても困ってしまいます。
一般的な正社員採用でも本来、採用面談から、チームに定着して活躍を始めるまでの一連をみないと結果は分からないはずです。
それなのに、入社だけのマッチングに焦点を当ててしまうと、その部分だけを最大化させてしまうということが起こり得ます。
── 採用プロセスを全体最適の観点で見る必要がある、と。
当社の場合は、質であるクライアントやフリーランスとの関係、継続率を大事にしています。
コンサルタントの育成を重視しているのはそのためです。求職者の採用面談からプロジェクト参画後の軌道に乗るまで、一人のコンサルタントがずっと専任で責任を負います。
先述の通りフリーランスの活用方法がよく分かっていない企業の担当者さんも多いですから、フリーランスの方がプロジェクトに参画して以降も当社がサポートを行うことで、フリーランスの方がチームに馴染んでいただけるのです。
こうしてフリーランスと企業の間に専任コンサルタントが入り、マッチング度を高めてトラブルを極力少なくし、質を高めています。
マッチングだけを請け負い、「話を盛って売り逃げ」ができない構造のため、ミスマッチが起こりにくい仕組みになっています。
── 質を高める工夫は、ほかにありますか?
フリーランスのキャリア観やライフスタイルなどを考慮し、よりよい案件を紹介しています。
例えば、フリーランス関連のエージェントをみると、登録者は多いけど稼働しているのは1%というケースも多いんです。当社では数万人の登録者がいても、20%以上の方に参画いただいています。
また、テックビズのコンサルタントは、独立経験のあるメンバーしかいません。フリーランスの立場を理解して、独立後の不安に寄り添えるのが特徴です。
── そんなコンサルタントがいてくれると、企業も安心ですね。
それだけではなく、厳しい面談を通過し採用したコンサルタントには、徹底して教育を行います。
教材一つとっても、IT関連だけで、300ページほどの教材が24コンテンツあり、その他にもHRやファイナンス領域の教材も開発しています。
それをもとにした試験に合格して初めて当社のコンサルタントとして認められます。
手厚いサポートで社員と同等の環境を
── フリーランスへのサポート体制はどのようなことを行っていますか。
フリーランスへのサポートはかなり力を入れています。例えば、フリーランスに必須の税務関連作業――開業届、青色申告届、月々の記帳、確定申告、住所変更など、すべて当社内の税理士が代行して無償でサポートしています。
参画中のフリーランスは、レシートの画像を送るだけ。このサポートはけっこう評判がよくて、内容の正誤などチェック以外の事務作業はほぼやらなくて済みます。
税務サポートをはじめとした様々な周辺サービスに力を入れているのは、「フリーランスが本業にだけ集中できる環境を作る」というコンセプトで事業展開しているからです。
受け入れ企業にとっては、本業以外の雑務に時間を費やされることなく、正社員と変わらない環境で仕事をしてもらえるメリットがあります。
── 実際に活用している企業から貴社への評価はいかがですか?
30名近くを長きにわたり活用いただいている大手ガス会社様からは、「当社のことをちゃんと理解してくれている」「求めている人材像とのズレが少ない」との評価をいただいております。
採用基準をコンサルタントが間に入って細かくヒアリングし、本人確認も行った上で適性の高いエンジニアを面談・採用。このフローは、どの企業でも同じように行っています。
参画後も、クライアントのプロジェクトが円滑に進むようにコンサルタントが勉強会を主催しフリーランスに企業理解を深めてもらっています。
フリーランスの活躍が当たり前の社会に
── なぜそのようなフォロー体制にしているのでしょうか。
私が、かつて、仕事に困っていたエンジニアの方からたまたま相談を受けて、案件紹介を行ったことが起業のきっかけです。
これまでの経験で身に着けた営業スキルと、会計事務所で得た会計スキルから「エンジニアの人が持っていない部分で、力になれるかもしれない」と考えました。
また、当社のスローガンは「働き方を変え、世界を変えていく」です。その理由は、世の中にもっと多様な働き方が広まってほしい、頑張っている人が報われる社会であってほしいとの想いからです。
フリーランスの人って、正社員から独立した瞬間に、クレジットカードが作れなかったり、融資が通らなかったり、企業と仕事の契約が結べなかったり、急に社会的信用が落とされてしまいます。
それっておかしいよな、と思うんです。
その違和感もあって、フリーランスがもっと活躍できる世の中にしたいと考えています。
── サービスを通してどんな社会を実現したいと考えていますか。
仕事ってもっといいものであるはずなのに、働いたら負けみたいな、ワークライフバランスが曲解され過ぎている風潮を感じます。
もちろん心身の健康を損なわない範囲で、社会に対して仕事を通じて、自分の価値を提供できる喜びや生きている実感をもっと感じられるはずなんです。
そんな想いを叶えるべく、私たちはフリーランスのジョブマッチング事業で業界1位を目指しています。
そして、「フリーランスがより主体的に働ける場と環境の提供」が当社のミッションなので、ITエンジニアにとどまらず、ほかの業種にも範囲を広げていきたい。人事、経理、マーケティング、営業、法務などまだまだ展開の余地はあります。
正社員や派遣社員などの選択肢のほかに、第三の選択肢としてフリーランスを一度考えてみていただけると嬉しいと思います。
フリーランスを活用できる機会は想像以上に多いので、一度ご相談いただければケーススタディとともにご提案いたします。ぜひ一度ご検討ください。
編集:花岡郁
執筆:山岸裕一
撮影:小池大介
デザイン:田中貴美恵
執筆:山岸裕一
撮影:小池大介
デザイン:田中貴美恵
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