2024/4/10

ワイングラス、どこを持つと格好いい? 恥をかかないマナー3選

シニアソムリエ/MBA
コロナ禍を抜けて会食の機会が増えました。お酒を飲まない人もいますが、日本でじわりと右肩上がりで人気なのがワインです。国内消費数量は40年で約8倍となりました。

「ワインがあるといい雰囲気で、商談も不思議とうまくまとまるものです」。そう語るのは三ツ星レストランともお付き合いのあるワイン業界20年以上のシニアソムリエ、古川康子さんです。

この連載では、等身大のワインマナーやビジネスシーンでの活用法の助言で定評のある「ワインの女神」に、社会人として格好よく、恥をかかないワインとの付き合い方を教わります。
INDEX
  • ワインに「興味はあるけど難しそう」
  • ①ワインを注がれるとき、グラスって持つべき?
  • ②注がれたワイン、グラスはどこを持つ?
  • ③さぁ乾杯、グラスを合わせて「カキーン」はNG?

ワインに「興味はあるけど難しそう」

みなさん、どんなお酒が好きですか?
私は「1杯目はやっぱりビール」です。え、ワインじゃなくて?と思われるかもしれません。会食の雰囲気や食事の相手に応じて、みなさんも色々と飲まれると思います。
ビールや日本酒、焼酎であればお気に入りの銘柄の一つや二つはあるかもしれません。一方、ワインといえば? 働く現役世代からは「興味があるけど、なんだか難しい」という声がよく聞こえてきます。
私はもともと、レストランでシニアソムリエとしてお客様に接する立場で、今はワイン輸入商社の創業期メンバーとして、ワインをお店に卸す仕事をしていますが、業界関係者を除いてハードルが高いのも事実だと感じます。
2021年のワイン消費数量は対前年比で約104%と増加し、11年と比較すると約128%増と市場が拡大。なかでも22年のスパークリングワインの輸入数量は過去最高です。「人気はあるのにとっつきにくい」というこの状況を、この連載では少しでも解きほぐしていきたいと思います。
ワインを飲む際に「今さら聞けないマナー」って、ありませんか?
同席した人と違って「あれ」と思ったり、勝手がわからないまま流れに任せていたり......。
今回は、社会人なら知っておきたい
「ワイングラスにまつわる3つのマナー」をお伝えします。「注がれ方」「グラスの持ち方」「乾杯の仕方」の順にみていきましょう。

①ワインを注がれるとき、グラスって持つべき?

社会人になったばかりのころ、あるいは体育会系の部活で、先輩に「お酒のマナー」を教わったかもしれません。ビールや日本酒なら、およそ次のような内容です。
ビール:①ラベルを上にして注ぐ、②グラスは両手で持つ、③乾杯は年長者のグラスより低く」
日本酒:①右手で徳利(とっくり)のはらを持つ、②両手でお猪口(ちょこ)を持つ、③一口目は必ず口をつける
こうした“日本式のマナー”から、「ワインを注がれるときも、グラスを持った方がいいの?」と思うのは自然です。
ただ、ワインの場合はグラスを持たなくて大丈夫です。触れないのが基本で、触る場合でもグラスの脚に指を添えて、軽く支える程度にしましょう。
日本式の宴会マナーには「お酌」という概念があります。ただ、世界的なワイン産地であるフランスやイタリア、スペインといった欧州では、「お酌」はありません。グラスを持った状態で、飲み物を注いでもらうカルチャーがそもそもないのです。
このため、ワイングラスをテーブル上に置いたまま注いでもらうのです。
webphotographeer/GettyImages
どちらが良い悪いという話ではなく、文化の違い。ワインでは西洋のマナーに準じていきましょう、ということです。
レストランではなくホームパーティーなどでも、誰かに注いでもらうときは、グラスには触れないのがいいでしょう。

②注がれたワイン、グラスはどこを持つ?

ワインが注がれたグラスを持つとき、どこを持てばよいでしょうか? グラスのパーツ用語を2つだけ紹介しながらみていきましょう。
ボウル(ワインが注がれる丸いカップの部分)
ステム(ワイングラスの細長い脚の部分)
持つときは、ステム(グラスの脚)の下のほうがお勧めです。親指と人差し指の間で、なるべくステムの付け根を持ちましょう。
ボウルや脚の上部を持つのがダメだというわけではありません。どこを持つと「ワインをおいしく味わえるか」さらに「見栄えもいいか」という話です。
ボウルを持つと、グラスは安定するのですが、手の温度でワインが温まってしまいます。またグラスの形状によっては、ボウルが大きすぎたり、湾曲したりしていて、持ちにくいこともあるでしょう。
一方、ステムの下部を持ったほうが、大きめのグラスで着席して香りを楽しむ場合は、グラスを回しやすいメリットがあります。
欧州では、立食や食前酒を手に立ち話をする場合に、グラスを安定させるためにボウルやステム上部を持つ人やケースもあります。「絶対こう持たなきゃダメ」というわけではありませんが、グラスを実際に持ってみて、一番安定する場所を自分で探ってみてください。
Elle Hughes / Unsplash
見栄えの話に移ると、高級レストランのワイングラスは、いつもピカピカに磨かれています。
私もソムリエ時代には、一日に何十脚、日によっては100脚を超えるグラスを磨いていました。そして、営業前に磨いたグラスをテーブルにセットする際には、白い手袋をして指紋がつかないように気をつけていたものです。
こうした状態で運ばれたグラス。ボウルを持って、指紋だらけにしてしまうのか。それとも脚の下部を持って、ワインの色合いや香りも楽しめる状態で飲み進めるのか。
いつもおいしく、そして飲んでいる姿を美しく見せるためにも、「脚の下のほうを持つ」のがやはりお勧めです。
その際には、小指を台座や縁に添えるようにするのもよいでしょう。安定して、小指がついつい立ってしまう予防にもなります。
CorbalanStudio/GettyImages

③さぁ乾杯、グラスを合わせて「カキーン」はNG?

テーブルでワインが注がれ、グラスの下部を持ったら、いよいよ乾杯です。
ヨーロッパ貴族風で、ワイングラスを片手に漫才をするお笑いコンビ・髭男爵さん。「ルネッサ~ンス」の決め台詞のほかに、山田ルイ53世さんがツッコむときは「〜やないかーい!」と言いながら、ひぐち君とワイングラスを「カキーン」と合わせます。
ただ、高級レストランでは、グラスは合わせない(ぶつけない)のが基本マナーとされます。
ワイングラスは薄くて繊細。乾杯の「カキーン」は割れや破損につながるほか、音を立てることが他のテーブルに不快な思いをさせることもあります。
グラスは合わせず、手に持ったグラスを目線まで少しあげて「乾杯」と言い合ったり、アイコンタクトや軽く会釈したりするだけでOKです。
kokouu/GettyImages
一方、グラスを合わせたからといって、「あなたマナー違反ですよ」と指摘するような話でもありません。
BBQやキャンプといったカジュアルな場などでは、目くじらを立てることではありません。TPOに合わせて、ワイングラスで乾杯「カキーン」がOKな場合もあるでしょう。
高級レストランで身を大きく乗り出して、ビールのように乾杯するのはお勧めしません。ただ、手の届く範囲で隣の席の人と、周りにご迷惑にならない声と音で、グラスをそっと合わせても問題はありません。私でも、今でもそうすることのほうが多いです。
大切なのは、ワインを介して素敵な時間を過ごすことだと思います。「マナーを理解したうえで、そっと乾杯しています」という振る舞いがポイントですね。
まずは会食を楽しむのが一番。そのうえで、大事なご接待や記念日、デートといった場面で、「ちょっと格好いい」振る舞いができるように、次の会食で試してみてください。
次回は、ちょっといいお店に行ったときにどうして良いかわからない「ワインテイスティング」を基本から解説します。お楽しみに!