(ブルームバーグ): 日本銀行が1日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業製造業の景況感は4四半期ぶりに悪化した。一部自動車メーカーの生産停止が企業心理に影響したとみられる。

大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はプラス11と、前回の昨年12月調査のプラス13(新ベース)から悪化した。市場予想のプラス10は上回った。自動車はプラス13と前回のプラス28から大幅に悪化。自動車はトヨタブループのダイハツ工業や豊田自動織機の認証試験の不正発覚に伴う生産・出荷停止などが影響した。中小企業もマイナス1と4期ぶりに悪化した。

一方、大企業非製造業の業況判断DIはプラス34となり、8期連続で改善した。市場予想のプラス32を上回った。1991年8月以来の水準。前回はプラス32(同)。中小企業はプラス13と8期ぶりに悪化した。

日銀は先月の金融政策決定会合で、マイナス金利解除など大規模緩和の見直しを決めた。33年ぶりの高い賃上げ率となっている今年の春闘などを受けて、賃金と物価の好循環が確認され、2%の物価安定目標の実現が見通せる状況に至ったとした。市場の関心は今後の利上げペースに移っている。日銀は今後の自動車生産の回復など経済・物価動向を慎重に点検して、利上げのタイミングを判断していくとみられる。

SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、「製造業の悪化はいくつかの自動車関連の不祥事によるものであり、その影響は一時的」と指摘。全体的に日本経済が今後も緩やかな回復を継続を示唆する内容だとし、「今回の短観で日銀の政策スタンスが変わるということはないだろう。次の利上げが早まったとか遅くなったとかはない」との見方を示した。

産業別に見ると、大企業・製造業は自動車のほか、非鉄金属や鉄鋼、業務用機械などが悪化。中小企業では、鉄鋼や木材・木製品、紙・パルプなども低調だった。

詳細

  • 先行きの業況判断DIは大企業製造業がプラス10、大企業非製造業はプラス27といずれも悪化見込む
  • 2024年度の設備投資計画は大企業・全産業で前年度比4%増
  • 想定為替レート(全規模・全産業)はドル・円が1ドル=141円42銭-ユーロ・円は1ユーロ=151円86銭
  • 全規模・全産業の物価見通しは1年後が前年比2.4%上昇、3年後は2.2%上昇、5年後は2.1%上昇と前回から横ばい

景気の現状について、日銀は「一部に弱めの動きも見られるが、緩やかに回復している」との判断を示している。個人消費は物価上昇もあり力強さを欠く状況が続いているが、高水準の企業収益が維持される中、好調な賃上げなどを背景に「今後持ち直していくという予想ができる」と植田和男総裁は先月の記者会見で指摘した。

3月短観では調査対象企業の定例見直しが行われ、新ベースで公表された。公表に際しては、記載された昨年12月調査とデータに段差が生じないよう、同調査も新ベースの調査対象企業で再集計されている。

日銀の説明

  • 回収基準日の3月13日までに7割弱回収。日銀の政策変更はあまり織り込まれず
  • 製造業の業況判断DIは、自動車生産の減少や海外需要の弱さなどを受けて幅広い業種で悪化
    • 先行き悪化を予想する業種では海外経済の先行き懸念の声が多かった。コスト高の不透明感の指摘も
    • 先行き改善を予想する業種では自動車生産回復への期待や半導体需要の底打ちなどの指摘
  • 非製造業は大企業で価格転嫁進展やインバウンド需要が寄与して改善。中小企業は人手不足が業況感の重しとなった印象
    • 先行き悪化を予想する企業は海外経済や市況の不透明感を指摘。小売からは引き続き値上げによる需要悪化を懸念の声
  • 24年度の設備投資計画は製造業・非製造業ともに過去平均を上回るスタート
  • 企業の販売価格見通しは総じて上昇、人件費上昇の価格転嫁に期待の可能性も。物価全般の見通しは総じて横ばい

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--取材協力:横山恵利香、藤岡徹.

(エコノミストコメント追加して更新しました。更新前の記事は第2段落の豊田自動織機の社名を訂正済みです)

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