【ドコモ×北海道上川町】メタバース空間で関係人口創出に挑む

2024/3/30
 積極的な産学官民の連携や、ビジネスリーダーからのSNS拡散の増加、経営者の視察増加、メディアへの寄稿など、関係人口の増加に伴う循環型のまちづくりが加速している北海道上川町。
 2023年には、未来を担う世代のために未来の“まち”のあり方を本気で考え、行動するオトナたちとの共創コミュニティ「オトナ本気ラボ」を立ち上げた。
 その結果、産学官民をはじめ、あらゆるイノベーターが都市と地域を越境し、未来の“まち”を創造し始めたという。
 そこで今回は、メタバース空間「MetaMe」で関係人口創出に挑む、NTTドコモ×上川町の新規プロジェクトにフォーカス。
 人中心のまちづくりをメタバース上で実現させたいと語る、株式会社NTTドコモ 新事業開発部 事業プロデュース担当 担当部長の小田倉淳氏と、上川町役場 地域魅力創造課 情報防災係 係長の清光隆典氏に、具体的な取り組みを伺った。
この記事は「オトナ本気ラボ事務局」が企画・制作しています。
「オトナ本気ラボ」は、北海道・上川町と法人/自治体向けマーケティング支援事業 NewsPicks Creations が運営する「感動人口、一億人へ」をミッションに掲げる共創コミュニティです。
INDEX
  • 仮想空間で“人”中心のまちづくり
  • 町のために動いている人のコミュニティ
  • 上川町民を知ってもらう場づくり
  • 50人がつながる濃い空間
  • 上川町から近隣の町へ越境する

仮想空間で“人”中心のまちづくり

──メタバース空間で関係人口を創出するサービス「MetaMe(メタミー)」について教えてください。
小田倉 MetaMeは、仮想空間で人々が交流し、共感し、新たなつながりを築く場として活用されることを目指したサービスです。
 駅やランドマークを中心とした従来の街づくりとは異なり、人を中心としたコミュニティが町の中心と考えています。
 ユーザーは自分のアバターを持ち、テキストや音声でコミュニケーションを取るのですが、最初は濃いコミュニティを作りたいので、上川町に住んでいる人や上川町に思いがある人、何かしら関わったことのある人が交流できる空間を作ります。
──なぜ上川町だったのでしょうか?
小田倉 上川町は我々がメタバース空間で実現させたい「人中心のまち作り」を実行しているからです。
 そこに物理的な距離や時間にとらわれないコミュニケーションサービスMetaMeが加われば、上川町の関係人口を増やす一つの手段になるのではと考えました。
清光 私もそこに共感しました。加えて、上川町に外の人たちの視点が入ることで、自分たちの町の魅力を再発見できることにも期待しています。
 たとえば、外から来た人から「上川町の自然は美しいね」とよく言われるのですが、僕らはその風景が日常に溶け込んでいるから、改めてその良さに気づけないんです。
 そういった気づきをたくさん得られたら嬉しいですし、何より小さな町がドコモと一緒に関係人口創出に挑戦し、面白い町のあり方を具現化できたら、日本の地域が活性化する一つのモデルになるのではないかと思っています。

町のために動いている人のコミュニティ

──MetaMeに集まってもらいたいのは、どのような人でしょうか?
小田倉 町のために何かを頑張っている人です。
 ツアーガイドやホテルの従業員、学校の先生、飲食店など、上川町に根ざしてまちづくりに関わっている人と、町外で何かしらまちづくりに携わっている方がつながる空間にしたいと思っています。
──上川でまちづくりに関わる人たちを中心に、全国で同じ思いを持つ人が集まってくる。
小田倉 そうですね。もちろん、観光に行く前のリサーチで利用する方や、偶然見つけて興味を持って入ってくるようなライトな利用者もウェルカムです。
清光 僕は子どもたちにも使ってもらいたいです。たとえば小学生の場合、極端な例だと家族と自分のクラス以外の世界は知りません。
 だけどMetaMeに入れば、住んでいる場所も年齢も違う、いろんなアバターの人と出会って会話できるから、学校の友達とは交換できないような情報を得られるはず。
 そういった世界観を作れたら面白いなと思っています。
小田倉 いいですね。MetaMeに集まる人は「その町に貢献したい」という思いを持つ人だと思うから、改善余地のある何かしらの課題を提供してくれる町の人と、そこに対してアイデアを出してくれる外の人がいる空間にしたい。
 たとえば、旭川空港から上川町までの交通の便は決して良いとは言えませんが、その不便が解消されたら上川町に行く機会が増えるかもしれないですよね。
 また、雪かきをしたことがない人の中には、一度は雪かきを経験したい人もいると思うんです。上川町の人たちも大変だから手伝ってくれたらありがたいはず。
 そういった、日常の中で感じる課題を提供する仕組みを我々と上川町で作り、それを解決するアイデアが日常的に飛び交うような空間にするのが理想です。

上川町民を知ってもらう場づくり

──上川町にいなくても自分のアイデアで課題を解決できたら、現地に行きたいという欲求が出ますし、MetaMeが大切な空間になりますね。
小田倉 そうですね。アイデアを出してみんなから「いいね」と言われたら、MetaMeの空間にいた方がいいと思える承認、所属の欲求が生まれます。
 その上で、自分の能力を発揮する機会が生まれたら自己顕示にもつながっていく。
 そのために必要なのが「この町は面白そうだ」と思ってもらえるような、フックとなるコンテンツを用意することです。
 たとえば、上川町でものづくりをしている人がこだわりを語る動画や、ネイチャーガイドが上川町の自然について語る動画、それ以外にも町に住んでいる人が今の暮らしを語る動画など、いつでも見られるコンテンツを用意したい。
 すると、上川町を離れた上川出身の人たちにも懐かしく思っていただけると考えています。
──清光さんがイメージする“語ってもらいたい町民”はどんな人ですか?
清光 たくさんいます(笑)。
 ローカルな自転車さんやラーメン屋さんのおじさん、観光施設のガイドさんとか面白い人たちはたくさんいて、そういう人たちに、町への想いや夢中になっていることなどを前のめりに語ってもらいたい。
 それだけでなく、商店の人や公共施設の人、道行くおばあちゃんなどにも語ってもらいたいですね。
 上川町の人たちを知ってもらうことで、いつかは上川町に行ってみたいと思ってもらえたら嬉しいですし、足を運べなくても上川町の物産や特産、日本酒などを手に取って、家族や友人に紹介するような動きが出てくると嬉しいです。

50人がつながる濃い空間

──MetaMeは同時接続何人くらいを目指しているのでしょうか。
小田倉 技術的には1万人程度が同時接続できますが、我々は50人くらいの濃いコミュニティから始めたいと考えています。
 その50人全員がインターネット上の知り合いで、お互いが深く会話ができる状態。この50人に上川町で活躍されている人が加わり、徐々にコミュニティが拡大すればと考えています。
 そのベースを作った上で、スポットのイベントに参加する人などを増やしていきたいです。
──MetaMe×上川町の取り組みにより、上川町はどうなると思いますか?
清光 10年前にスマホが存在しなかった世界では、スマホSNS時代の暮らしが想像できなかったのと同じで、MetaMeによって上川町がどう変わるかは未知数というのが本音です。
 でも、面白いことに人は集まってくるから、自治体としても汗をかきながら試行錯誤していきたい。今は全貌が見えていませんが、走りながら考えて、ワクワクすることを形にすることで、上川町に行き交う人が増えたら嬉しいです。
 上川町にとっても、MetaMeで外の人とコミュニケーションを取ることで、当たり前と思っていたことが当たり前ではないことに気づいたり、自分たちが住んでいる地域はこんなに素敵な場所なんだと再発見できたりと、いろんなきっかけになると思っています。
小田倉 僕はMetaMeを通じてみんながハッピーになればいいなと思っています。
 町を良くするには活動資金が必要なので、町に共感した人が少しずつ資金を出し合うファンドのような役割も担えたらいいなと思うし、町を活性化させるアイデアがある人は都心からでもMetaMe内で発信して欲しい。
 町の人との交流を目的にするのはもちろん、実行力のある人は町に足を運ぶなど、このコミュニティに関わる人みんなが、自分らしく過ごせる空間になれば良いと思っています。
 人にはそれぞれ得意分野があるので、得意を生かした役割分担ができる空間になればいいですね。

上川町から近隣の町へ越境する

──MetaMeの空間でいろんなものが行き交い、それが上川町を良くしていくことにつながっていく。まずはその成功モデルを上川町で作り、ゆくゆくは全国に広げていくのでしょうか。
小田倉 そうですね。現在は北海道を対象とした空間の中に上川町と空知エリア、十勝エリアの地域ブランドが商店街のように軒を連ねています。
 将来は、上川町のまちづくりについて話しているコミュニティエリアの隣に、上川町の森林資源を守る人たちのエリアがあり、その隣には森の木を使って家具を作っている人たちのエリアがある状態にしたい。
 すると、家具作りは上川町ではなく近隣の町で盛んな産業なので、自然と近隣の町にも染み出していくことになります。
 さらに、地域のイベント・お祭りにまつわる企画を立案するコミュニティエリアも作り、そこに集まった人たちが上川町のコミュニティにも越境し始めると、町を超えた共創の成功事例になると思うんです。
 コンテンツのつながりで上川町から近隣の町に、近隣の町から上川町に循環するような世界を実現させることで、みんながハッピーになる。そんな未来を描けたら嬉しいです。
企画:オトナ本気ラボ事務局
執筆・編集:田村朋美(NewsPicks Creations)
撮影:是枝右恭
デザイン:武田英志(hooop)