2024/3/29

【急成長】2050年に100兆円市場へ。いま世界が「蓄電池」に注目する理由

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
脱炭素に向けた動きが加速するいま、世界中から注目を集める「蓄電池」。
乾電池と異なり繰り返し使用できる蓄電池は、EVシフトや再生可能エネルギーの普及を促進する存在として今後急成長が見込まれる領域だ。
2019年に約5兆円規模だった蓄電池の世界市場は、2050年にはその20倍となる100兆円市場になると予測もされている。
出典:蓄電池産業戦略(2022年8月31日)
なぜいま蓄電池が世界から熱視線を浴びているのか。脱炭素社会に向けて、蓄電池の社会実装を加速するためには何が必要なのか。
一般社団法人エネルギー情報センター理事の江田健二氏と、蓄電池を活用した再エネソリューション「SolaChiku(ソラチク)」を通じて日本企業の脱炭素化を支援するオムロン フィールドエンジニアリング久保裕樹氏、田渕博史氏に話を聞いた。

電気は「貯める」時代へ

──そもそも蓄電池とはどのようなものでしょうか。
江田 蓄電池とは、充電と放電を何度も繰り返すことができる電池のこと。たとえるなら、「冷蔵庫」のようなものです。
 冷蔵庫の登場は、「食品」の保存のあり方を変えました。誕生以前は、生鮮食品などをためることができなかったため、お金と手間をかけ頻繁に買い物に繰り出す必要がありました。
 しかし、いまは冷蔵庫が普及したおかげで、鮮度を保ったまま食品を保存できたり、冷たい飲物をいつでも飲めたりすることが可能になりましたよね。
1977年、富山県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、アクセンチュアに入社。同社で経験したITコンサルティング、エネルギー業界の知識を活かし、2005年にRAUL株式会社を設立。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省地域再省蓄エネサービスイノベーション促進検討会委員などを歴任。「環境・エネルギーに関する情報を客観的にわかりやすく広くつたえること」「デジタルテクノロジーと環境・エネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること」を目的に執筆・講演活動などを行っている。
 これと同じで、蓄電池も普及以前は大規模な発電所で電力をつくり、送電網を通して各家庭や企業へ電力を流す。こうした一方向の仕組みでした。
 しかし、蓄電池が登場したことで、これまで捨てることしかできなかった電気を「貯める」ことができるようになった。いまではスマホのバッテリーやEV、再エネの有効活用まで幅広いシーンで使われるようになっています。
 蓄電池の種類としては、小型のものから大型のものまでさまざまなタイプがあります。私たちの身の回りにある小型の蓄電池としては、モバイル機器に使われているリチウムイオン電池があります。近年普及しているEV車のバッテリー、家庭用蓄電池などもこのタイプです。
 一方、産業用の蓄電池として、近年注目を集めるのが「NAS電池」です。大容量の電力を貯蔵できるほか、蓄電量のわりに安価で長寿命という特徴から、企業や自治体での導入が加速しています。
──なぜいま、蓄電池に注目が集まっているのでしょうか。
江田 以前から家庭用やEVの拡大などで蓄電池の活用は少しずつ広まっていましたが、より注目を集めるようになったのは2020年頃から。
 政府がカーボンニュートラル宣言を出したことで、企業の脱炭素に向けた取り組みが加速したためです。
 それ以前は、防災や停電対策などを目的に蓄電池を導入する企業が多かった。しかし、脱炭素社会の実現に向けて、太陽光発電など再エネの導入が進んだことで、蓄電池を“日常使い”する企業が増えてきました。
(画像提供:オムロン フィールドエンジニアリング)
 なぜ再エネの普及とあわせて蓄電池に注目が集まったのか。それは、太陽光発電や風力発電などの再エネは、天候や時間帯によって発電量が大きく左右されやすいからです。
 そうなると日中に十分に充電できたとしても、余剰電力は捨ててしまうことになる。また天気が良くない場合は、再エネを活用することができない。
 こうした再エネの弱点である「発電量の不安定さ」を克服し、安定した電力供給を可能にするためにも蓄電池に大きな期待が寄せられました。
 たとえば太陽光発電と蓄電池を組み合わせて活用できれば、使い切れない電力を蓄電池に貯めておき、夜間や非常時に使うことができる。発電効率を高め、電気料金の削減につながるし、再エネ比率を高め、脱炭素経営を実現することもできます。
 このように蓄電池はいまやエネルギー革命のカギとして期待される一方で、その社会実装には製造コストをはじめ越えなければならない壁も存在しています。

社会実装を阻む「価格」と「保守」

──蓄電池の導入をサポートする久保さん、田渕さんの視点からは、実際にどのようなハードルを感じていますか。
久保 2050年カーボンニュートラルに向けて再エネの導入が加速している一方で、太陽光などで発電した再エネ電力を一部捨ててしまっているという問題があります。
 これは大きな課題で、2023年には約18億kWh(7円換算だと126億円相当)の再エネ電力を無駄に捨ててしまっている。さらに今後も増加トレンドで24年には24.2億kWhとの試算もある(※)など、脱炭素のカギである貴重な「再エネ電力」が捨てられているという現状があります。
 この問題の解決のカギを握るのが「蓄電池」です。企業の脱炭素経営や電気代をおさえられることからも、蓄電池自体に徐々に興味を持つ人は増えています。
 実際、私たちのもとにお問い合わせいただくケースも増えていますが、一方でその導入にあたりハードルとなるのが「価格」と「運用・保守」の観点です。
1975年、埼玉県生まれ。オムロングループ入社後、電子部品事業に従事。2013年より環境事業本部にて太陽光関連事業に携わり始め、家庭用蓄電池・パワーコンディショナ等をメーカ営業として販売。2022年より現職のエンジニアリング事業にて、太陽光発電+大型蓄電池ソリューションで市場開拓している。
 たとえば産業用に使われるNAS電池は大容量蓄電ができて比較的安価とはいえ、多額の設備投資が必要なことが多い。また15年、20年と長期で運用する蓄電池を維持管理するためには定期的なメンテナンスをしなければなりません。
 しかし、新しいソリューションのため社内にノウハウがない、長期的な運用計画が立てられないといった不安から導入に踏み切れないケースも少なくありません。
田渕 蓄電池という存在自体は知っていても、具体的な機能や使い方がわからない。そのために高額な設備投資をしてまで自社に導入すべきかがそもそも判断できないケースが多いと感じます。
 要するに、「投資対効果がわかりにくい」のでしょう。太陽光発電の導入をようやく実現できたのに、なぜまた多くの費用を投じて蓄電池を導入する必要があるのか。
1978年、長崎県生まれ。オムロングループ入社後、企業の省エネ・創エネ・蓄エネなど、エネルギーマネジメント事業に従事。現在は太陽光発電+大型蓄電池+EMSを組み合わせた蓄電PPAソリューションの営業を担当している。
 しばしばこういった議論になり、検討が長引くことがあります。経営判断となる領域なので、企業のトップを含めて導入メリットを丁寧に伝える必要があると感じています。
江田 時間軸の問題でもあると思いますが、現場のみなさんは蓄電池を導入したいと考えていても、それがなかなか経営陣の方に伝わらないことは多いですよね。
 蓄電池は再エネ比率を高めることができるのはもちろんですが、やはり脱炭素経営の推進に貢献するのが大きい。ESGの潮流も加速するいま、脱炭素の投資に積極的な企業であると見なされれば、金融機関や自治体から高く評価され、自社の企業価値向上やブランディングにもつながります。
 また、サプライチェーンのなかでも脱炭素を評価する動きも進むいま、再エネ比率などが受発注にも影響をもたらすことがある。
 こうした脱炭素経営に関する副次的な効果まで含めれば、20年間の電気料金の削減という直接的な費用対効果だけでなく、はるかに大きな投資効果があると言えます。
久保 加えて、「地域貢献」の文脈で導入される企業も増えています。
 蓄電池を導入した当社のお客様企業では地元の自治体と災害防災協定を結び、非常時に自社の電源を提供し、防災拠点として活用することになりました。
 自治体や地域住民から高い評価を受けるだけでなく、多くの企業が見学に訪れており、自社の取り組みを広く知ってもらう機会にもつながっています。

再エネ最大化を実現する「SolaChiku」とは

──こうした蓄電池導入のハードルをオムロン フィールドエンジニアリングでは、どのように乗り越えようとしているのでしょうか。
久保 蓄電池導入の大きな課題となる「多額な設備投資」や「運用・保守」などの課題を解決するため、私たちは再エネの最大化を実現する「SolaChiku」というソリューションを提供しています。
 太陽光発電と蓄電池、電力の需給バランスを最適化するEMS(エネルギーマネジメントシステム)をセットで提供する「SolaChiku」を通じて、“費用対効果が見えず設備投資に踏み切れない”というお客様の悩みに寄り添いたいと考えています。
 まず多額な投資費用については、初期費用やメンテナンス費用ゼロで提供しています。なぜ費用ゼロで実現できるかというと、それは「PPAモデル」という仕組みを活用しているためです。
 PPAモデルとは、当社がお客様企業の敷地内に無償で設備を設置し、お客様は発電した電気のうち使った分のサービス料を当社に支払っていただくという仕組みです。
 運用・保守も当社が担うため、費用とリソースの負担をおさえて再生可能エネルギーを利用することが可能になります。
 当社はもともと社会インフラ(鉄道改札機などの駅務機器や銀行ATMなど)の保守サービスを提供する会社です。長年蓄積した技術力があることに加え、全国に130箇所以上の拠点があるため、緊急時にすぐに伺うことも可能です。
田渕 発電・充電・放電を最適化するEMS(エネルギーマネジメントシステム)については、「Smart-EMSクラウド」という独自のソリューションもあわせて提供しています。
 再エネをいつ貯めて、いつ使うのが良いのか。蓄電池は充放電の仕方で寿命も変わるため、賢くコントロールすることが重要になります。
 「SolaChiku」はSmart-EMSをコアとした蓄電ソリューションでもあるため、非常時に備えて蓄電池を充電できますし、過去のデータなどをもとに電気の需給予測などを行うことができる。また自動的に運転を制御するなど、状況や目的にあわせて発電、充電、放電をコントロールすることが可能です。
 私たちは2,000カ所を越える発電所での保守運用経験もあるため、現場のノウハウや稼働データをAI活用により分析・学習することで最適な制御が実現できます。また設置においても、つまづきやすい系統との連携に関する技術やノウハウを持っていることも安心感につながっています。
 このように、初期費用ゼロで、設備設置、保守管理、エネルギーマネジメントまでをワンストップで提供し、再エネ率の最大化につながることが「SolaChiku」が支持される理由の一つでもあります。
江田 太陽光発電だけであれば初期費用ゼロのPPAモデルを提供する企業は増えていますが、蓄電池ではまだ少ないですよね。なぜなら、蓄電池の運用・保守のノウハウを持っている企業はそこまで多くないから。
 その点、オムロンさんは家庭用蓄電池の導入などをリードされてきた経験もあり、顧客からの「信頼感」が競争優位性になっていると感じます。
 蓄電池の導入は多くの企業にとってまだ経験値があまりない領域です。そのため安心感や信頼感は蓄電池の社会実装において重要なポイントですし、オムロン フィールドエンジニアリングが伴走してくれるのは、経営陣を説得する意味でも安心材料の一つだと思います。

蓄電池の社会実装を加速する存在へ

──今後、「SolaChiku」を通じて、社会や企業の脱炭素化をどのように加速させたいと考えますか。
田渕 製造業ではよく「乾いた雑巾を絞る」ものとたとえられるように、1%の節電でも決して簡単ではありません。
 しかし、現状は自社で太陽光発電した電力に対して、あまり疑問を持つことがないままなんとなく捨ててしまっている。余剰分を有効活用すれば節電以上の効果があるにもかかわらず、です。
 このギャップを埋めるのが、私たちの役割だと考えています。今回の場もそうですが、まずは入り口として蓄電池の価値やメリットを伝えることで、脱炭素社会の実現に貢献していきたいと考えています。
久保 再エネ比率を数%高められるだけでも、経営にもたらすインパクトは大きいものです。
 そのためまずは、再エネを有効活用する企業を1社ずつ増やしていく。そうすれば、日本全国で再エネを捨てずに、活用することが当たり前になっていくはずです。
 またこれからは、再エネだけでつくられた「CO2フリー」の製品に付加価値がつく時代も到来します。
 京都にある当社グループの生産拠点でも再エネを積極活用していますが、オムロンは、ファクトリーオートメーション(FA)を生業とした会社で、生産ラインの制御などを得意としています。
 このFAと太陽光や蓄電池を組み合わせることで、もっと面白い、社会貢献度の高いオムロンらしいソリューションを生み出し、社会や企業の脱炭素化に貢献できればと考えています。
 今後も、「SolaChiku」の普及を通じて、日本の脱炭素社会の実現を後押しできる存在を目指していきます。ぜひ「SolaChiku」に少しでも興味を持っていただけた方がいたら、まずはお気軽にご相談いただけるとうれしく思います。
江田 エネルギーを取り巻く法律や助成金などは頻繁に変わるため、自社ですべてカバーするのは大変です。その点、何かあったときにオムロン フィールドエンジニアリングのような外部パートナーに相談できる環境があれば、企業は本業により注力できるはずです。
 また蓄電池ビジネスが盛り上がっているとはいえ、自社でアセットを保有し、20年以上にわたって保守を行うビジネスモデルは体力の弱いスタートアップでは難しいところもあります。
 ぜひオムロンフィールドエンジニアリングには、技術力を武器に蓄電池の社会実装をリードする存在になってもらえればと思います。今後の新たな挑戦も応援しています。